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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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21 共同戦線

 翌日、わたしたちは保安委員会の呼び出しに応じて、ナートの事務局を訪れた。三ツ星の保安官であるわたしたちに依頼があるとの事だ。広めのテーブルを囲んで、事務局の局員がやってくるのを待つ間、シェリルがずっと何やら考え込んでいた。

「何か悩み事?」

「わたしに宿した召喚体ですが、精霊にちなんでアリーと名付けたものの、よく考えると、紛らわしいかも知れないなと思いまして」

「何が?」

「叔母様の名前に少し被っているじゃないですか」

 確かにアラネスもアリーと呼べなくはないか。

『アリーですか。少し恥ずかしいですね』

 と言いつつ、本人は満更でもなさそうだが、呼ぶ気はないので安心して頂きたい。

「すみません、僕もすぐに気付いていれば、メルミル由来の名前にしたんですが」

「その話はもういいです」

 リーネがシェリルを睨む。恥ずかしがるリーネがちょっと可愛い。

「お待たせしました」

 そこへ、青い制服を着た局員のお兄さんがやってきて、テーブルに世界地図を広げた。

「現在、保安委員会に登録済の三ツ星保安官は、世界で十五人しかおられません。そのうち、ここレシュタノット大陸にいらっしゃるのは、お二人と、先日見えられたスフィラ様の三名のみです」

 思ったよりずっと少ない人数だ。道理で、三ツ星というだけでやたらと優遇される訳だ。

「そして、未討伐の登録巨獣の総数が、今日の時点で百十五体。そのうちの三十三体がレシュタノットにいることが確認されています」

「つまり、一人頭十一体の計算だね」

「未登録の巨獣や、新たに発生するものがいますので、そう単純ではありません」

 確かに、シェリル並の力を出せる保安官が他にもいるのなら、とっくに全滅させていてもおかしくない。

「巨獣の発生傾向は、術法の力、あるいは人の悪意に反応すると予想されていますが、まだ証明されてはいません。そこで、強力な術師であるお二人に、調査のご協力をお願いしたいのです」

 調査の内容を要約すると、巨獣の分布傾向を見て、ある程度狭い範囲にいる巨獣のうちの一体に、強力な術法で攻撃を仕掛ける。周囲の巨獣が、それにどのように反応するかを観察するということらしい。

「でも強力な術法と言ったって、わたしはそれ程術法が得意な訳じゃないけど」

 アラネスの具現化の術法は、何かを作り出した後は基本的に物理的な攻撃にしかならない。

「はい。ですので、今回のご依頼先は、主にシェリル様になります」

 わたしは意味がわからず首を傾げた。

「さっきお二人にって言ってたじゃない」

「もう一人は僕だよ」

 背後から嫌な声が聞こえた。振り返ると、予想通り、スフィラと名乗ったあの男が笑みを浮かべながら立っていた。

「早速、共同戦線を張ることになったね」

「なんでこの人がいるの」

 局員に文句を言うと、彼はたじろぎながら答えた。

「スフィラ様は、あの伝説の賢者リカ様にも匹敵すると言われる術師ですから」

 彼が術法に長けているのは、気配でなんとなく感じてはいた。それにしたって、一緒に仕事をするのは気が進まない。これはわたしの霊力がそう伝えているのだ。この人には、わたしと相容れない何かがある。

「これは仕事なんだし、割り切って仲良くしようよ。上手くいく仕事も失敗しちゃうよ」

 彼は笑顔のまま言った。ここは彼の言うとおり、取引先との仕事だと思ってやるしかあるまい。


 ナートの北西に広大な草原地帯がある。範囲にして直径およそ十五キロの円内に、四体の巨獣の反応があった。その中でお互いの距離が近い二体に狙いを定め、攻撃を仕掛けることになった。

 リーネは局員さんを連れて、アリーの背中に乗って上空から観察する役割。わたしとシェリルは、攻撃役。マイを伴って、草原に佇む巨獣と対峙していた。全身にトゲを生やした、見た目は巨大なハリネズミ。巨獣は赤く目を光らせてこちらを睨んでいる。

 ナートを出るとき、フェルに全力で走ってもらい、上手くまいたつもりだったが、スフィラがいつの間にか隣にいた。

「強力な術法と言えば、精霊召喚が一番じゃないかな」

「……ですって。シェリル、派手なのをお願いするよ」

「了解です」

 シェリルは目を閉じて呪文を唱え始めた。


『此の地に眠るいにしえの精霊よ。力を解き放ち、眼前の敵を滅せよ』


 一陣の風が吹いたあと、シェリルの前に空から光の粒が降ってきた。地面に転がる粒たちが一か所に集まり、次第に形を成していく。

「ほう、陽光の精霊だね」

 スフィラが興味深そうに顎を撫でている。今回の精霊はアリーのように光を纏っているが、額に長い角のある馬のような姿をしていた。こういう生き物をどこかで見たことがある。

「ユニ……」

「ユニコーンは君の世界の空想上の生き物だろう」

 わたしの考えを読まれたのか、スフィラが遮ってきた。

「あれは、陽光の精霊『ソルエクス』。僕も直接見るのは初めてだよ。彼女は優秀な召喚術師みたいだね」

 精霊が角を振り上げると、その先から一筋の光が天に向かって伸びた。少し間をおいて、巨獣目がけて光の雨が降り注いだ。光を全身に浴びた巨獣は、青い炎を上げて燃え上がった。かなり近くで激しい火柱が上がっているが、熱は全く感じない。炎のように見えるのは、巨獣を構成していたエネルギーが、外に抜けていっているものらしい。燃え尽きた巨獣は、全身が真っ黒に変色し、焼け落ちるように灰となって消えてしまった。

「さて、もう一体の様子はどうかな?」

 スフィラが魔導環に目をやる。わたしもつられるようにして、自分の魔導環で反応を確認した。西に一キロ程離れた位置にいた巨獣が、こちらの方へかなりのスピードで近づいてきていた。

『戦士様、上空に気を付けてください』

 意思疎通の術法で、リーネが注意を呼びかけてきた。すぐに風を切る音が近づいてきて、何かが頭上を通り過ぎた。振り返ると、黒い何かが空を旋回していて、再びこちら目がけて急降下してくるところだった。

あるじ、危険です!」

 マイが咄嗟にわたしを抱えて横に跳んだ。わたしの立っていた場所に、巨獣が鋭い爪を伸ばして突っ込んできた。マイが助けてくれなかったら、捕まるところだった。

 赤い顔と首は体毛が薄く、首から下にはふさふさの羽毛を着込んでいる。ハゲワシの巨獣だ。あのまま捉えられていたら、ただでは済まなかったかも知れない。

「シェリル、さっきの精霊をもう一度呼べる?」

「すみません、精霊召喚はある程度時間を置かないと、すぐには使えないんです」

 そうなると、わたしか、この男がやるしかないわけだが。スフィラの方をチラリと見ると、彼は首を横に振った。

「ここは僕が腕を振るおうと思ったけど、あいにく時間がないみたいでね。珍しい精霊を見せてくれたお礼に、面白い術法をお目にかけるよ」

 そう言うと、スフィラはわたしたちの前に出て、両腕を広げた。


『欠けたる魂よ、暫しのとき、我が写身うつしみに回帰せよ』


 スフィラが呪文を唱えると同時に、彼の身体が虹色に輝き出した。

『今の呪文は、召喚術に近いですね』

 アラネスが言った。もしかして、自らの身体に何かを呼び出したのか。術が完了したとき、わたしは何が起こったのかわからなかった。彼の背後からでは、大きな変化は見られなかったからだ。背丈が大分小さくなったような気はしたが。

 彼が一向に動こうとしないので、わたしは痺れを切らして呼びかけた。

「ちょっと、スフィラ、巨獣が襲ってくるよ」

 彼がやっと気づいたかのように、こちらに振り返る。その顔を見て、思わずわたしは尋ねた。

「……どちら様ですか」

 髪型と服装こそ、スフィラと同じだったが、全くの別人、というか、どう見ても女の子の顔だったからだ。

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