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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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17/73

17 二ツ星

 わたしは意識を無くしたリーネを抱きかかえた。

「大丈夫かな、リーネ」

『さきほどの招魂召喚の反動です。しばらくは目が覚めませんが、体に別状はありません』

「それならいいけど」

 リーネのあどけない寝顔を見ていると、二百歳超えとは思えない。遊び疲れて眠った子供のようだ。

「……さて、結局、この子は誰なんだろ」

 わたしはテリオさんが成仏した後の小人の顔を覗き込んだ。

「……うーん?」

 しばらくして、少年は寝ぼけたような声を上げて、目を開けた。

「大丈夫? ごめんね、ちょっと体を借りさせてもらったけど」

 勝手に他人の魂を入れたりしたので、混乱しているのかも知れない。その点はリーネに代わって素直に謝る。

「……それより、いい加減、離してもらっていいか」


 マイが解放すると、少年は術法を解いて元の大きさに戻った。元から小柄なようで、リーネより少し大きい程度の背丈だ。さっきまでマイに掴まれていたので気づかなかったが、スカートを履いている。

「まさか、あんたらが『ミラクレムの悪魔』の真相を暴いてしまうとは思わなかったよ」

「聞こえてたんだ」

「ああ。僕からも礼を言わせてもらうよ。テリオの濡れ衣を晴らしてくれて感謝する」

 斜に構えた上に、妙に芝居がかった口調だが、相変わらず甲高い声なので締まらない。声が高いのは地声らしい。チラチラとわたしに視線を向けてくるのは、多分聞いて欲しいのだな。仕方ないので、期待に応えてあげることにした。

「あなたは、テリオさんの関係者っぽいね」

「いかにも、僕はテリオの子孫のシェリルだ」

 シェリルは、待ってましたとばかりに答えると、やれやれといった風に首を振った。

「名探偵諸君も、僕の正体までは気づかなかったようだね」

「今、気になるのは、そこよりも服装の方なんだけど。もしかして、あなた女の子?」

「……女で悪いかっ」

 シェリルは頬を膨らませている。

「生まれて初めてボクっ娘にあったよ」

「ボクッコとはなんだ」

 シェリルは不審な目を向けてくるが、説明する気はない。

「それより、こんなところで何してたの?」

「もちろん、テリオの事を調べてたんだ。僕の家には代々、いつかテリオの無念を晴らすように、言い伝えられてきたんだ」

 ドルクさんが伝えたのだろうか。律儀な一族だ。テリオさんも浮かばれるだろう。

「テリオが収監されていた場所を調べれば、手掛かりがあるかも知れないと思ったが、正解だったな」

 手掛かりというか、本人がいたけど。

「解決したの、わたしたちだけどね」

 シェリルが得意満面な顔をするので、とりあえずそこは強調しておいた。

「この件はまだ公にしないでくれよ。残党がいるかも知れないからな」

 百年前の話だが、確かに全滅させた保証はないか。いずれにせよ、悪人はどこにでもいるものだ。

「テリオさんの調査はいいとして、なんで小さくなる必要があったのよ」

 わたしが聞くと、シェリルは急に挙動不審になって視線を泳がせた。

「そ、それは、あれだよ、牢屋に忍び込んで色々調べてたんだ」

 確かに鍵の掛かった牢もあったようだが。態度があからさまに怪しいな。

「……もしかして、何か盗った?」

「しっ、失礼な! これは廃品回収だっ」

 図星か。テリオさんの血なのか、手癖が悪いらしい。まあ、こんなところに落ちているものなら、盗みとまでは言わないだろうが。

「他に盗みとかやってないだろうね。テリオさん、というか、ドルクさんが泣くよ」

「見くびるなよっ、僕はきちんと保安委員会にも登録してるんだぞ」

 シェリルは肩に付けていたエンブレムを見せてきた。二ツ星。

「へえ、保安官なんだ」

 何気に他の保安官に初めて会った。ミラクレムの事務局にもいなかったし。

「僕の術法は一級品だって評判だからな。学院に特待生として入らないかって誘われたぐらいなんだぜ」

 聞いてもいないのにペラペラ喋りだした。この子、多分、口だけだな。

「ふーん、じゃ、頑張ってね」

 わたしがリーネをおんぶして外に出ようとすると、シェリルは慌てて回り込んできた。

「待ってよ、話の途中だろ」

「そうでしたっけ」

 シェリルは急にモジモジして上目遣いでこちらを見た。

「あのさ、よ、良かったら……」

「良くない」

 わたしは秒で断ると、さっさと歩き出した。

「ちょっ、待ってって! まだ何も言ってないじゃん」

 シェリルが後ろから追いかけてくる。

「わたしも忙しいの。お子様のお守りはゴメンなのよ」

「頼むよ、いや、お願いします! どうか見捨てないで下さい……」

 シェリルは急に涙目になって懇願してきた。

「実はもう三日も何も食べてないんです。このままだと野垂れ死にしてしまいます……」

 死ぬと言われたら放っても置けない。仕方ないので、わたしは話だけでも聞いてあげることにした。


 シェリルを連れて、ミラクレムのレストランに入る。リーネがまだ意識を取り戻していないので、ソファのある席を選んでそこに寝かせた。

「好きなの頼んでいいよ」

 わたしが言うと、シェリルは目を輝かせてわたしを見た。

「い、いいんですか」

「お金ならあるから」

 どのみち、六割引きだし。使わないと、報酬が入るので増える一方なのだ。地球で言ってみたいな、このセリフ。

「例えば、この『ミラクレム牛のステーキ』でも……?」

 恐る恐るシェリルが聞いてくる。ここのメニューでは一番高いもののようだ。

「じゃあ、とりあえず人数分頼もうか」

「ああ、女神様……」

 なんか、シェリルに拝まれた。


 料理が運ばれてくると、シェリルは震える手を合わせて、ステーキに対して祈りを捧げた。

「冷める前に食べたら?」

「頂きます……」

 がっつくかと思いきや、シェリルは一口ずつ切り分けながら、大事そうに食べ始めた。

「マイ、わたしたちも頂きましょう」

「御意」

 口に入れてみると、肉質は柔らかく、濃厚なソースの味付けも絶品だ。リーネにも食べさせてあげたかった。シェリルを見ると、食べながら涙を流していた。

「泣くほど?」

「温かい料理も久しぶりなのに、こんなにお高いお肉を頂けるとは、夢にも思わなくて……」

 この子、結構苦労してきたのだな。

「遠慮しなくていいから、好きなだけ食べなよ」

 シェリルが泣きながら頷くのを見ていたら、何だかかわいく見えてきてしまった。最近のわたし、情に流され気味な気がする。

『戦士様。そのシェリルという者、少し気になるのですが』

『珍しいね、疑ってるの?』

『いえ、そういうことではなくて、我々召喚術師に近い魂を感じるのです』

 アラネスの言わんとすることを確かめるなら、あれを聞いて見るのが一番だ。

「ねえ、シェリル。あなたの年齢とか聞いてもいい?」

「二十八になります」

 まさかのタメだった。

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