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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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14 賢者のノート

 術法の修練は、まず基礎的な霊力の鍛錬から始まる。瞑想を繰り返し、己の魂と対話する。次に、定められた呪文を正確に唱え、起こす『奇跡』の結果を正確に思い描く。術師が霊力によって練り上げた『奇跡』の結果は、全て精神力の強さに左右される。

 わたしは、学院長のたっての願いで、特別聴講生という形で、術法の授業に参加していた。生徒たちは真剣に授業を聴いているが、わたしには何が何だかさっぱりわからない。あくびを押さえるのに精いっぱいな状態だった。

『戦士様には、既に十分な霊力はあるのですから、きちんと学べば賢者様を超えられると思いますよ』

『そうは言っても、わたしは勉強が苦手なんだよね』

 昔から、やらされる勉強が嫌いで、宿題をたくさん出す先生が憎たらしかった。かといって、自分から興味を持ってやったとしても、集中力が持たないのだが。一方で、一緒に参加しているリーネは真剣そのもので、さっきからわたしの隣で難しい顔をしていた。

「ひとつ質問してもよろしいでしょうか」

 すっと背筋を伸ばして、リーネが真っすぐに手を挙げた。

「はい、どうぞ。リーネさんでしたね」

 講師が応えると、リーネはその場に立ちあがった。

「先ほどから仰っている、『奇跡の結果』という表現に疑問があるのです。『奇跡』とは、術法によって起こす事象を指しているのですよね」

「その通りですが」

 リーネの理路整然とした口調に、早くも講師が押され気味だ。

「それであれば、術師が思い描くべきは、自身が起こす『奇跡』の影響範囲や効果であって、『奇跡の結果』という表現は、少し受動的なのではないかと思うのですが」

 講師も含めて教室中の人間がぽかんとしていた。こういう空気になった場合、言い出した方が引きそうだが、リーネはちょっとモノが違った。

「いかがでしょうか。ぜひご意見をうかがいたいのですが」

「そ、そうですね。確かに術師自身が術法を行使するのだと意識する必要はあると思いますので……」

「わたしもそう思います。奇跡の力を借りているという考えがあると、術法の精度にも影響が生じます」

「ご指摘ありがとうございます。この件については、後日検討させていただいて……」

 何だか、元の世界で見かけたような光景だな。まさか異世界のこんな場所で『後日検討』という単語を聞くとは思わなかった。リーネ案件のペンディングが決まったところで、ちょうど鐘が鳴った。

「それでは、今日はここまでということで」

 講師のおじさんは、鐘が鳴り終わる前に、そそくさと教室を出て行った。

「戦士様、わたしは余計なことを言いましたか?」

 教室がざわつく中、リーネは不安げにわたしを見た。

「いいんじゃない? 議論を戦わせることは大事だよ」

 見てる方としては、若干肝を冷やしたけれども。リーネをフォローしていると、教室に黒いローブを着た、長い髭のお爺さんが入ってきた。この学院の学院長だ。彼はわたしたちのところへ来ると、両手を合わせて頭を下げた。

「久しぶりに刺激的な授業でした。まるで賢者様がいらっしゃるかのようで、大変懐かしかったですよ。戦士様のお子様ですか」

「はい、そうですね」

『戦士様っ』

 わたしがボケると、アラネスが間髪入れずに突っ込んでくる。こういう瞬発力はあるらしい。

「賢者さんもあんな感じで授業を受けてたんですか?」

「ええ、講師たちは毎日ヒヤヒヤしていましたよ。何人かは胃を痛めて休んだりして」

 学院長はカラカラと笑い飛ばすが、さっきみたいなのが続いていたとしたら、講師たちにちょっと同情する。

『賢者さんって無口なんじゃなかったっけ』

『授業の時は生き生きとされていましたよ。少しでも腑に落ちないと、追及の手を緩められなかったですから』

 それはきっと、地獄絵図だっただろうな。学生たちのわたしへの視線は、そのあたりが影響していそうだ。

「どうですか、術法に興味は持たれましたかな」

「興味自体はあるんですが、実際に習得するとなると、難しそうですね」

「では、これはお役に立ちますかな」

 そう言って、学院長は袖口からノートのようなものを取り出してわたしに差し出した。その表紙を見て、わたしははっとした。『術法の考察』と、日本語で書かれていたのだ。

「賢者様が残された物です。術法に関する見識をまとめられていたらしいのですが、我々では皆目読むこともかないません。同郷から来られたという戦士様なら、お読みいただけるのではと思いましてな」

 中を開いてみると、整った細かい字がびっしりと並んでいた。それほど時間は経っていないはずなのに、日本の文字を久しぶりに見た気がして、不思議な感覚になる。

『これは、賢者様が授業の度に、書かれていたものです。まだ残っていたんですね』

 ざっと目を通してみると、授業で取り上げられた議題に対する、賢者さんの考えがまとめられているようだ。その辺りは、わたしには理解不能なものだったが、ところどころに、術法に関する具体的な記述があるのに目を引かれた。対応する呪文はこちらの言葉で書かれ、どのようなイメージを持って術法を使えばいいのかが、日本語で詳細に書いてあったのだ。わたしは、その中でも特に興味のあった『空中飛行の術法』を、ノートに従って実際に試してみることにした。


『我は宣言する。今、この時より、我は何者にも縛られない』


 わたしが呪文を唱えると、体がふっと軽くなる感覚があった。意識を集中し、ノートの記載を思い出す。


『まず、固定観念を捨てましょう。今からあなたは逆バンジージャンプにチャレンジします。巨大なゴムによって引っ張られたあなたの体は、空へと華麗に飛び立つでしょう』


「わお」

 思わず声が出てしまう。体が勢いよく空に舞い上がり、十メートルほどの高さまで上がった。


『空に上がったら、スイッチを押しましょう。背中に装着したロケットブースターが点火され、あなたの体は宙に浮くことができます』


 わたしの体が空中で静止した。今、わたしは自分の術法で空を飛んでいるらしい。というか、最初からロケットブースターで飛べば良くないか、賢者さん。わたしの中の賢者さんのイメージがかなり変わった。

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