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ヒカリの戦士と召喚術師  作者: 神楽一斗


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10 砂漠のサボテン

 すっかり日が暮れてしまったので、結局わたしたちはアラネスの屋敷に泊めてもらうことになった。そのままの大きさだとフェルが門をくぐれないので、リーネに術法で小さくしてもらった。

 見た目だけはすっかり普通の三毛猫になったフェルは、マイに捕まってひたすら撫で回されていた。その様子をリーネが遠巻きに見ていたので、マイに声をかける。

「マイ、ちょっとリーネにも触らせてあげて」

「……御意」

 珍しくちょっと不満気な『御意』が出た。でも独り占めは良くない。

「あのっ、わたしは別に触りたいとは言っておりませんが」

「顔が言ってるし」

 強がるリーネにフェルを抱かせる。

「リーネ殿、フェルは耳の後ろを撫でると喜びます」

 リーネはぎこちなく抱いていたが、マイに言われて恐る恐る撫で始めた。フェルもゴロゴロと喉を鳴らして満更でもなさそうだ。

「こうして見ると、普通の子供だね」

『昔から、あの子は大人ぶる癖があるんです』

「キミら、年齢的にはもうご先祖様の域だけどね」

 そういえば、娘がいるということは、お相手がいるわけで。

「つかぬことを聞くけど、旦那さんはどうしてるの?」

『夫は亡くなりました。先月で百三十回忌を迎えたところで』

「ごめん、聞いといて何だけど、色々、コメントに困る」


 アラネスの旦那さんは召喚術師ではなく、普通に年齢を重ねて亡くなったらしい。享年百七歳。一般的には大往生だろう。召喚術師はその生き方が特殊過ぎるせいか、死生観が独特のようで、アラネスは旦那さんのことを楽しそうに話した。一緒に世界を旅したこと、晩年ずっと付き添って介護していたこと。それこそ、つい昨日まで一緒にいたかのように。

 寂しくないのかと聞くと、アラネスはいいえと答えた。死しても魂は共にある。現世にいるかいないか、ただそれだけの差なのだと。普段接している限りではわからない、八百年生きた重みみたいなものを、始めて感じた気がした。


 翌朝、地上に戻ったわたしたちの目の前に、十メートルはあろうかというサボテンがそびえ立っていた。

 サボテンは、枝分かれした子株の先をこちらに向けて、今にも何やら撃ってきそうな雰囲気だ。サボテンって自律して動くものだったっけ。

あるじ、下がってください」

 マイがわたしの前に仁王立ちして、両手を広げた。

「大丈夫、我は死にませんから」

「何でそういうセリフ言っちゃうかな」

 下がれと言われても、一応わたしも戦士なので、どちらかというと攻める側担当だ。

「アラネス、術法、お願い」

『これは何ですか?』

「面倒臭いので、爆弾で爆破します」

 相手が植物なので、我ながら発想が容赦ない。しかし、わたしが手のひらを上に向けたのに反応して、サボテンが素早く針を撃ってきた。

「危ない!」

 マイが咄嗟にわたしを庇って胸に針を受けた。

「ちょっ、マイ、冗談でしょ」

 わたしはマイの体を受け止めて、膝枕する。

「……あれ」

 マイに刺さったと思った針がどこにもない。マイは颯爽と起き上がると、再びわたしの前に立ちふさがった。

「今のでわかりました。あの針は対した威力はありません。恐らく、我の力を受けた主も、傷を負われる心配はないかと」

「それを聞いて安心したよ」

「ただし、後ろの二人にはお気をつけください」

 わたしたちの背後には、元のサイズのフェルとリーネがいる。フェルはともかく、リーネは確かに危ない。

「フェル、リーネを連れて離れてて」

 にゃんとフェルが一声鳴いて、リーネを尻尾で器用に絡め取った。

「わぁ」

 リーネはちょっとパニックになっているようだが、この際仕方ない。

「術法を使おうとすると狙い撃ちされるみたい。マイ、いい案ある?」

「そういう場合は、力でねじ伏せるのです」

 マイは物凄いスピードでサボテンに接近すると、高々とジャンプしてサボテンに回し蹴りを繰り出した。巨体が倒れて、地響きと砂煙が起こる。

「かっこいいっす、姉貴」

 なとど、感心している場合じゃなかった。

「アラネス、お願い」

 わたしは改めて術法の為のイメージを練り上げた。

「マイ、離れて!」

 倒れたサボテン目掛けて、特大の爆弾を落とす。派手な爆音と共に、空に向かって火柱が立ち昇った。


「うわぁ」

 わたしは地面に空いた大穴を見下ろしながら、声を漏らした。自分でやったのだが、大惨事だなこれは。サボテンの方は、木っ端微塵になって消えてしまったが、あちこちで、まだ煙が上がっている。ここが砂漠でよかった。

「さすがあるじ。魔神の鉄拳の如き破壊力ですね」

「例え方」

 この手段は、余程のことがない限り、使うのは控えよう。

「石も吹っ飛んじゃったかな」

『いえ、どうやら、今の巨獣は戦士様がお持ちの幻魔石から発生したようですね』

 アラネスに言われて、懐に幻魔石があるのを思い出した。取り出してみると、中から紫色の光が漏れ出している。

『早く抽出しましょう』

「わたしがやります」

 そこへリーネがフェルに乗って戻ってきた。リーネはわたしから幻魔石を受け取ると、天に掲げた。

「戦士様、知識の配分はどうしますか」

「配分?」

「知識を戦士様の力に換えるか、召喚体の力に換えるか、配分が可能なのです。もちろん、全部をどちらかの力に換えてしまうことも出来ますが」

 なんだそれ。初耳だが。

『戦士様、すみません。マイの時は、お供が必要かと思いましたので、力と頑丈さを半分づつ、それ以外をマイに振り分けました』

 ということは、わたしの力はマイと同じということか。道理で小突いただけで岩を割れる訳だ。

「リーネに振り分けたらどう? 一緒に旅する訳だし、強い力が必要になるでしょ」

「有り難いお言葉ですが、わたしでは、知識を受け入れる程の余力がないのです」

『ウフフ、戦士様は特別なのですよ。何しろ、魂そのものに器の制限が無いという、物凄い方なのですから』

 つまり、わたしは際限なく強くなれるということか。アラネスの言っていた鬼神化計画、あれ本気だな。

「では、すべての知識を戦士様へ移しますね」


『悠久の時と共に紡がれし、尊き命脈の記憶よ。我が意に応え、今ここに顕現けんげんせよ』


 リーネの呪文に呼応して、石からあふれ出た光が、わたしの中に入ってくる。

「……どうです、変化を感じますか? 特に霊的な能力、術法の才能が強化されたはずです」

 自分の体を確かめてみるが、見た目は特に変わった様子はない。

「これで、わたしも術法が使えるようになったの?」

「いえ、流石に術法はきちんと勉強する必要がありますが」

 それはそうか。少し期待したのに、残念だ。

『これで術法が使えてしまったら、賢者様も落ち込まれますよ』

「賢者さん、十五年勉強したんだっけ」

「……賢者様というのは、リカ様のことですか」

 そのとき、急にリーネが真剣な顔をして、わたしの目を真っ直ぐに見つめた。

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