第3幕 生贄は、魔物の王城に囚われるようです
「お嬢さま、お待たせしました」
暫くするとアンが戻ってきてくれた。嬉しくてベッドから飛び起きたら後ろに見慣れない青年を連れていた。グレーの髪にサファイアブルーの瞳に狼耳しっぽの少年だ。そしてその腕には。
「わ、わんちゃんっ!」
黒い毛並みのふわっもふなわんこが、抱かれていたのです。顔はまん丸く脚が短めなのかな~?でも全体的に丸っこくてめちゃかわゆす。
「お嬢さま、お行儀よくなさいませ」
「わ、わかったわ」
「こちらは、旦那さまの執事・レノ殿です」
「レノね。よろしく」
随分と若いようだが見た目はザカリィも20代よね。レノはそれよりも何歳か若そうだけど。
「よろしくお願いします、奥さま」
お、奥さま!本当に妻になったかのような?
「あと、この子は魔物の子どもです」
「魔物なの?」
「えぇ。奥さまがちょうどいいふわもふ処をご所望と聞きましたので」
「旦那さまには許可をいただきましたので、こちらに」
アンがテキパキとカーペットの上に女性がふたりくらい乗っても余裕そうなビッグラウンドクッションを置いてくれてその上にレノがちょこんとわんこを置いてくれる。
私はすかさずクッションの上に腰掛けわんこを抱き上げると、―――きゃぁっ!!まんまるかわいいお目目になにこのもふり心地!!
「あの、この子の名前は」
「お好きにどうぞ。まだ名前がありません」
「―――何にしようかしら」
「そうだ、お嬢さま。旦那さまに因んで名付けてはいかがでしょう?」
「え?ザカリィさまに?」
「毛並みの色が似ていますし」
「確かに。ん~、ザカリィさまの本名はザカライアスさまよね?」
「さようでございます」
レノが答える。
よし、記憶違いじゃなかった。
「じゃぁ、ざっちゃん」
「わふ」
「えへへ、気に入った?」
「何か、お嬢さまのセンスに文句でも?」
アンがレノに向ける視線が恐いのだが。
「いいえ、何も。それでは私はこれで」
「もう、行っちゃうの?」
「旦那さまは犬科が大好きでいらっしゃいますがそれでも嫉妬はされるのです。では」
ザカリィさまも犬科好き?
まぁ、私はふわもふ全般が好きだけど、執事が狼耳しっぽなのはやっぱりザカリィさまが犬科好きだからだろうか?狼って、犬の先祖とも言われているものね。
「ザカリィさまにもかわいがってもらえるといいですね~!ざっちゃん♡」
「わふっ♡」
わふ~っ!かわいい~っ!あ、因みにふわもふ処とはこのようにふわもふを堪能する専用の場所のことである。
「あぁ、あとお嬢さま」
「どうしたの?アン」
「お嬢さまのドレスを全て国に置いてきてしまいましたので」
「そうなのよね」
せめて一着くらいは持ってきたかったのだけど。
「今日、旦那さまが採寸されると仰っておりました」
「アンがやればよくない?」
むしろ侍女で良くないか?何故夫であるザカリィさまが?
「それとも生贄の儀に使う衣装は夫が自ら採寸しなくてはいけないのかしら?」
「お嬢さま、生贄になるとはぶっちゃけ言って、旦那さまと正真正銘の夫婦になることです」
「魔物の国ではそう言うのよね」
「人間の王国と同じですよ?」
「は?」
多分死ななくていい、―――のはありがたいのだが。せっかくざっちゃんとふわもふってるのに死にたくはないのだけど、せめて最期までた~んとざっちゃんを愛でまわしたいのだが。
―――ザカリィさまになら生贄にされたっていい。そう、思っていた。
「ですから存分に、愛し合ってくださいませね」
「あ、ああああああああアン!?何言ってんのおおおおぉぉぉぉ―――――っっ!!?」
割と普通の嫁入りだったことに驚愕したのだった。あぁ生贄だとか本気で思っていた自分がはずい~~~~~っ!!!
「わっふ~」