第16話:五年目の答え
「想い」なんて、いつか風化する、そう思ってた。
俊と出会って、別れて、再会して―――。封じ込めていたはずの「想い」は、泡がはじけたみたいに、勢いよくこぼれ落ちる。自分の気持ちを、認めたくなかった。必死で気持ちから目を反らし続けて、逃げていた。
だけど、そんな不器用な気持ちを認めてしまうと、まるで今まで悩んでいたことが馬鹿らしくなるくらい、すとんっと気持ちが落ち着いた。認めてしまうことは、とても「簡単」だ。要は、その気持ちを認めた後の「自分」に怖がり、それに向き合うか否かの問題なんだと思う。きっかけは、奈央さんの言葉。背中を押してくれたのは、カーティス。
ほんっと、私って周りの人に、迷惑ばっかり掛けてるよなぁ。私達が元居た場所に戻ると、俊がいなかった。
『あれ、俊は?』
何気なくトレントさんに聞くと、きょとんとした顔をした。
『え?彼なら、貴女達の後を追っていったと思ったんですけど、行き会いませんでした?』
うわっ。俊に何か誤解されたかな……。立ち聞きするような人じゃないけど、カーティスと仲良く話してたのは、事実だし。あ、それなら美緒ちゃんは――?そこまで考えて、口元が引きつった。すごい視線を感じる。視線というか、あれは殺気だ。何だか怖くて、美緒ちゃんの方が、見られない。冷や汗を掻きつつ、視線を高めに周囲を見渡すと、俊がショッピングモールの外のベンチに座っていた。
「俊」
「沙穂……。もう、買い物は終わったのか?」
「さぁ?でも、直に終わるんじゃない?」
私がレジにいるトレントさんを確かめ、そう言った。俊は言葉を探すように、あるいは、私の気持ちを探るかのように、私に聞いてきた。
「カーティスと何、話してたんだ?」
「今後の事」
嘘は言ってない。だって、これは本当だもの。私もまた、慎重に言葉を選んで、
彼に言った。
「カーティスと、一緒になるのか?」
「……俊は、どう思う?」
「―――別に。お前の好きにすれば?俺、関係ないし」
「そう、よね。俊には、もう関係ないわよね」
「ああ」
冷たい水を、一気に浴びせられた気分だった。何で、引き止めてくれないんだろう。あの時も、引き止めてもらえるのを、待っていたのに。……俊の馬鹿。
これじゃあ、振り出しに戻っちゃうじゃない―――。
こんなことで泣くもんかと思って、拳をぎゅっと握りしめて、言った。
もう、あの頃の私じゃない。
「私ね、カーティスに付いてこうと思ってるの」
俊、覚悟しててね。―――これが私にとって、最後の大勝負だから。
驚いていて、目を丸くしている彼に対し、私はにっこりと微笑んだ。
美緒は、会った瞬間に気付いた。この人が、カーティス兄の好きな人だ、って。
私に向ける表情なんかと違う。凄く大切に想っているのが、よく分かった。
だから、悔しかった―――。
カーティス兄からも俊という人からも、大切に想われてる、沙穂さん。
すごく、羨ましかった。昔は絶対、大人になりたくない、そう思ってた。でも、今は逆。
早く、大人になりたい。カーティスと対等になりたい、気持ちばかりが急ぐ。
私だけを見て欲しいのに―――。どうして、彼の瞳には違う人が映っているんだろう。
私は、何をやっているんだろう。紙袋に詰まった沢山の食材を、ぎゅっと抱いて、子供みたいに泣き始めた。
『美緒、どうしたんだ?』
『……カーティス兄』
顔を上げると、困った顔のカーティス兄がいた。
『何、泣いてんだよ。まったく、お前って―――』
何か言いかけたけど、結局最後まで、言ってくれなかった。私の持っていた紙袋を代わりに持って、ハンカチを差し出した。美緒がハンカチで涙を拭くと、今度は手を差し出してきた。
「?」
「ほら、行こうぜ。マスターが待ってるぞ」
そう言うと、にっこりと笑った。
初めて出会った時と同じ、変わらない笑顔を浮かべて……。




