第15話:決着
結局私達は、美緒さんが向かった店へと、一緒に入った。トレントさんは、美緒がいるから大丈夫だと言っていたけど、カーティスは目の不自由なトレントさんが心配らしい。普段、なかなか見せないカーティスの素顔を見た気分だわ。私も俊と顔を見合わせ、一緒に付いて行くことにした。スーパーに入ると、野菜や果物がゴロゴロと置いてあるコーナーに、美緒さんが居た。真剣に同じ野菜を見比べている。彼女、何やってるんだろう?こちらに気付くと、一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべ、私に気付くとすぐさま露骨に嫌そうな顔をした。そんな、あからさまにされると傷つくなぁ。私は、思わず溜め息を漏らし、少し気分が落ち込んだ。そんな私に気付いたのか、俊は「どうかしたのか?」と心配そうに聞いてくる。以前は、こんなに優しくなかった。執着心みたいなのがなくて、上辺だけの恋人同士と言ってもいいくらい。お互いに気を遣っていた部分があったんだと思う。常に、私は周囲の目を気にしていた。あの頃じゃ、絶対に分からなかった。余裕なんて、全然なかったから―――。
「沙穂?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」
「もし、具合とか悪いんなら、学生時代みたいに我慢してないで、絶対言えよ?」
「大丈夫」
なんだ……。昨日の今日だから、心配してるのね。何だか浮き立っていた心が、急にしぼんだ気がした。そういえば昔、風邪で熱があるのに、無理してデートに行ったら、こっぴどく怒られたっけ。結局、待ち合わせ場所から、家まで私を負ぶって運んで、お兄ちゃんが帰るまで、ずっと看病していてくれた。俊、本当に優しいんだよね。
前は、そんな優しさが辛かった。苦しかった。でも、今は?
私は、カーティスと俊を見て、ふいに奈央さんの事を思い出した。
奈央さんの言葉が、大事なものみたいに、耳に蘇ってくる。
『沙穂ちゃん。あなたは……もう何一つ後悔しない?』
今まで、散々迷った。五年間も、大きな回り道した。後悔だっていっぱいした。
でも、私はもう迷わない。これが逃げずに出した、答え。
もう、二人に甘えていちゃいけない。ちゃんと白黒つけないと、美緒ちゃんの気持ちに対しても失礼だわ。
『カーティス、ちょっといい?』
私がカーティスを呼ぶと、美緒ちゃんも俊も、それぞれ複雑な表情で私達を見ていた。
『何だい?』
私は、トレントさん達がいる売り場から、少し離れた場所に移動した。多少混雑しているから、私達の声は聞こえないだろう。
『カーティス、今日は謀ったのね?私のために』
『……何のことかな?』
惚けた振りをしているが、カーティスは今日、デートだということを知っていた。
でも、邪魔しに来たというのは名目で、私に白黒つけさせるためにデートを取り付けたんだと思う。
『貴方は、最後までズルイ人ね。結局、本当のカーティスを見せてくれなかった』
『……』
カーティスの素顔なんて、今日初めて見たんだよ?あんなカーティス、私は知らない。
きっと、そのカーティスを知っているのは、美緒ちゃんだ。私が知っているのは、俊。
どうしたって、彼以外には考えられないんだ。
『今日のデートで、はっきりさせたかったんでしょう?』
『……やっぱり、沙穂にはかなわないな。その通りだよ。まぁ、マスター達と偶然会ったのは、驚いたけどね』
『そして、私の答えも分かっている。違う?』
『うん。だから、はっきりと言って欲しかったんだ』
カーティスは、振られる覚悟でこのデートを申し込んだんだ。俊なんかより、ずっと男らしい。どうして、カーティスを好きにならならかったんだろう。
何で、俊を好きになっちゃったんだろう。
ごめんね、カーティス。最後の最後まで甘えちゃったね。酷いことして、ごめん。
『そっか、分かったわ。カーティスのことはすごく好きよ。でも、あくまで「友達」として。「恋人」としては、見られない』
私は心の中で、カーティスに謝りつつ、カーティスのことを振った。でも、カーティスは笑顔で答えた。
『うん、分かってたよ。沙穂の答えは』
『ごめんね』
『いいさ。俊と仲良くやれよ?』
『……そのことなんだけど』
私はカーティスにそっと耳打ちをして、ある事を伝えた。すると、カーティスは目を丸くして驚き、私を見た。それから、肩を竦めて『わかりました。お嬢様の仰せの通りに』と茶目っ気たっぷりに、おどけて言うから、深刻な雰囲気もどこかへ吹き飛んでしまった。
だから、そんな二人のやり取りを、俊と美緒ちゃんが見ていたことに、私達は気付かなかった。
これではっきりしてしまった。私は、俊のことが好きだ。
ねぇ、まだ間に合うのかな?―――俊。




