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Birthday  作者: 星河七海
14/22

第14話:昔の自分

二人がしばらくむせていたけど、それに構わず、俊の持ってきた紙袋を探った。

中には、私の好きなクロワッサンとサンドイッチが入っていた。私の好きなパン、覚えていてくれたんだ……。ちょっとしたことなのに、思わず嬉しくなってしまう自分は、もう手遅れなのかな。そういえば―――大学の時、近くのパン屋でよく買ったっけ。私は、サンドイッチが好きなのに、俊がいつもカレーパン一個じゃ足りないと言って、横からサンドイッチを何個か取っていってしまうから、余分に買っておいたクロワッサンを食べながら、俊に文句を言っていた。あの頃は、幸せだったのかな―――。

「幸せ」って案外、気付かないものだと思う。過ぎて行く日常の中で、ふとした時に

感じる、温かい気持ち。言葉では、とても表せないけれど……すごく大切だと思う。

『それで?私と俊は、これからデートなんだけど』

『どこに行くんだい?』

『……まだ、決めてないわ』

学生時代も、当日に行きたい場所を決めた。だって、俊の連れて行ってくれる場所なら、私はどこでも楽しめたから。だから、今日はあの頃みたいで、本当に楽しみだった。

なのに―――。

ちらりと見遣れば、隣にはお邪魔虫が一匹。うう、頭が痛い。

『じゃあ、俊。勝負しないかい?』

『は?』

『どちらが沙穂を楽しませるか、自信ないかい?』

『なっ!』

あー、カーティスの馬鹿!俊は、負けず嫌いなのよ。今も彼が変わっていなければ、この挑発に絶対に乗るだろう。私が慌てて、話題を変えようとしたが、遅かった。

『二人とも、いい加減―――』

『いいだろう。沙穂のこと、一番理解してるのは俺だからな。望むところだ』

ああああああ。どうして、こうなっちゃうのよ!頭を抱えている私の頭上では、二人の間に火花が飛び散っていた。


 カーティスに連れられてやってきたのは、ブランド物ばかりが立ち並ぶ、セレブなショッピングセンター。「SALE」と書いてあっても、要注意。見間違えかと思わず目を疑ってしまうような、そんな価格の値札が付けられている。

『カーティス、私……こんな高いのは買えないわよ?』

私が店員を気にしながら、小声でそう言うと、カーティスは柔らかく笑んだ。

『女性は値段なんて、気にしなくていいのさ。ほら、好きなのを選んで』

カーティスのこういうところ、ズルイ。さりげない気遣い、俊には絶対真似できなくて、是非とも見習うべきところだよなぁ。俊をちらりと盗み見ると、視線に気付いたのか、彼も私の方を見た。うわっ、まずい。私は慌てて、目をそらした。

『……じゃあ。俺は、これかな』

俊は、つまらなそうな表情で、ひょいとTシャツを差し出した。

『俊にも、買うとは一言も言っていないのだけれど?』

『だって、好きなの選べって言ったじゃねぇか』

『お前には言ってない』

二人のやり取りは、時間を忘れるほど楽しかった。二人とも、それぞれに魅力がある。

それだけに、彼らに好かれるほどのものが、私にはあるのかな。

どうしても、そう思わずには、いられなかった。


反対に、俊に連れて行ってもらったのは、ごく普通のショッピングモール。ありとあらゆるものが、ピンからキリまで揃っている。気に入った店を見つけた私は、服を試着したりと、それなりに楽しんでウィンドウショッピングをしていた。カーティスも俊も、私と違ってセンスがいい。彼らにアドバイスをもらったり、店員と服の組み合わせを相談していると、後ろから、カーティスを呼ぶ声が聞こえた。私達が振り向くと、そこには黒髪の美少女と三十歳後半ぐらいの金髪の男性が立っていた。美少女の方は、何やら警戒しているらしく、口をつぐんで、男性の手を掴んでいる。金髪の男性は、最近会った誰かに似ていた。それが誰かは、まったく思い出せないのだけれど……。

『あ、マスター。珍しいね、こんなところで買い物?』

『ええ、ミオと一緒に買い出しに来ていたんです』

『沙穂、紹介するね。俺の養父さんと義妹の美緒』

カーティスは嬉しそうに、家族を紹介してくれた。あ、こんな風にも笑うんだ。

何だか今日初めて、カーティスのプライベートを、少し垣間見た気がした。

『ピーター=トレントです、よろしく』

『……美緒です』

『そちらの方達は?』

『ああ、こっちが同僚の沙穂』

『あっ、よろしく』

神父さんみたいな人だなぁと眺めつつ、私は慌てて挨拶をした。すると彼は、相好を崩して微笑み、こう言った。

『貴女が、沙穂さんですか。カーティスから、話は聞いてました。日本人は、綺麗な人が多いんでしょうか。美緒もお人形さんみたいですし』

『お義父さん、私……先に買い物してるから』

話が始まると、どういうわけか美緒さんという少女は、一人で店の中に入っていった。流れるような漆黒の髪が、私の頬に当たる。私がそっと振り向くと、彼女の吸い込まれるような瞳とかち合った。彼女の瞳には、嫉妬と寂しさがない交ぜになったような、そんな色が浮かんでいる。そうか、彼女……美緒さんは、カーティスが好きなんだ。

いくら、鈍い私でも分かる。あれは、大学時代の時の「私」。

―――煮え切らない態度の彼に対し、誰彼構わず優しく接する彼に対して、私がずっと抱いていた感情だ。私は今、あの頃の自分を見ているんだ……。


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