第13話:訪問者たち
軽快に鳴る目覚ましの音で、目を覚ました私は、大きな欠伸と伸びを一つし、思いっきりカーテンを開けた。薄暗い室内へ一気に入る、朝の光。眩しくて、一瞬だけ片目を瞑った。今日は、いい天気になりそう。徐々に慣れてきた目を擦り、そのままバスルームに向かった。シャワーを浴び終えると、時計の針は午前七時を差していた。俊との待ち合わせは、午前十時。ゆっくりと用意ができそうね……。昨日のうちに決めておいた服を着て、鏡台の前で、「自分」を飾り立てた。子供の頃、母の鏡台の上に並ぶ化粧品の数々が、やけにキラキラ輝いて見えた。私がそれで遊ぼうとすると「大人になってからね」と言って、よく注意されたっけ。その度に、早く大人になりたい、そう願った。大人か―――。
いつから、メイクが上手くなったんだっけ?
いつから、嘘を付くのが上手くなった?
いつから、偽り笑顔を浮かべるようになったの?
―――そして、いつから……俊を好きだった?
答えの出ない宙ぶらりんな疑問たちが、鏡に映っているみたいだった。真実を映す鏡とはよく言ったものね。確かに、答えは見せてはくれない。
冷蔵庫を開けたが、やはりロクな物が入ってなかった。
「買い物忘れてた……」
しょうがない。途中で、何か買って食べよう。そう決めて、急いで仕度をして、バッグの中に財布を入れていると、ベルが鳴った。
―――キーンコーン
朝っぱらから、誰だろ?こっちは急いでるのに―――。一瞬、俊の顔が脳裏をよぎったけれど、そんなわけない、とすぐに思い直した。それでも淡い期待を抱いて、ドアを開けてみた。そこには、今一番会いたかった俊と、会いたくなかったカーティスが立っていた。片方のカーティスの手には、一輪のバラ。俊は両手いっぱいの紙袋。二人は互いに威嚇して、睨み合っていた。私は目を丸くして、すぐにドアを閉めた。
何?あの組み合わせ……。夢よね。まだ目が覚めてないんだわ、きっと。自分にそう言い聞かせてみるが、ドアを叩く音がして、寄りかかった扉が振動する。
「お、おい!沙穂」
『沙穂?!』
ドンドンとドアを叩きながら二人は、私を呼んでいるけど、そんなことはどうでもいい。
この状況、一体私にどうしろというの!カーティスとは、あれ以来、顔を合わせていない。朝っぱらから、何の用事なのよ。俊も俊よ。約束まで時間があるじゃない!何で大人しくしてられないのよ。しかも、しかも二人一緒だなんて、有り得ない!
よりによって何で、今日なのよ―――。これからのことを考えると、眩暈がしてきそう。
とりあえず、このままじゃ近所迷惑だわ。私は意を決して、ドアを開けて言った。
「とにかく、早く入って」
「『はい』」
大人しく私の家に入っていく二人の後姿は、まるで叱られた犬ころみたいだ。
こんな状況で、そう思えることが、何だか少しおかしくて、笑ってしまった。
「それで?二人とも何で来たの?」
食器棚から、埃のかぶった紅茶とコーヒーの缶を見つけて、背伸びしてそれを手に取った。
そして少し考えてから、紅茶を入れた。もう一方のティーカップには、コーヒーを入れ、双方のカップに熱湯を注いだ。それから、二人にそれを手渡し、彼らが座った対のソファーに座り、話を聞き始めた。するとカーティスは、手に持っていた花を差し出して、こう言った。
『僕は、お見舞いに来たんだ』
「朝から?それはそれは、ご苦労なことね」
私はそう皮肉って、少し肩を竦める。
『……っていうのは口実で、天気もいいし、デートにと思って』
「最初から、そう言いなさいよ。それで、俊は?約束の時間より、早いけど」
私はカーティスをきつくねめつけ、視線を俊に移した。視線で気付いた俊は、紙袋をあげて、
「どうせ、面倒臭がって、朝食抜くだろうと思ったから。ほら、近くのパン屋で買って来たんだ。一緒に食べようかと思ってさ」
う、何で分かっちゃうんだろう―――。私は図星だったので、何も言えず、代わり深い溜め息を落とした。
「とりあえず、二人とも飲めば?」
私は手元にあった、ミネラルウォーターを何食わぬ表情で飲みつつ、二人の反応をそっと窺っていた。
『じゃあ―――』
「悪いな」
ブーーーーーーーーーッ
次の瞬間、二人同時に噴き出した。してやったりという顔で、心中でほくそ笑む―――私。
カーティスに飲ませたコーヒーは、フィルター専用のコーヒー。それを入れて熱湯を注いだ。一方、俊に入れたのは葉っぱ入りの紅茶。二人とも気付くと思ったけど、全く気付かないっていうのも、ある意味凄いわね。そんなことを思いつつ、思いっきりむせてる二人を眺めていた。だって、何だか悔しいじゃない?彼らにばかり、振り回されてるなんてさ。
だからこれは、私からのちょっとした意趣返し―――。




