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Birthday  作者: 星河七海
12/22

第12話:初心

『何で、アンタが持ってるんだ……』

愕然とした亮太は、掠れ声でそう呟いた。あの時、確かに彼女に渡した。何故、この男が持っているんだ?亮太は困惑しつつも、彼のいる手前、平静を装った。

『何故って―――』

『放り投げたからに決まってるじゃない』

エドガーが答えようとすると、奈央の一言によって遮られた。

「奈央」

「沙穂……」

戻ってきた二人を見て、亮太と俊は安堵した表情を浮かべた。奈央は、エドガーを睨んで、文句を言った。

『何で返しに来たのよ』

『これ、本当は大切なものだろう?』

『……それで?』

『―――あとで後悔しても、遅いんだよ』

エドガーから真っ直ぐな双眸を向けられた奈央は、少し戸惑った。お節介で言うにしては、分かってるような言い方だ。奈央は、咳一つで戸惑いを誤魔化し、エドガーに聞いた。

『それは、あなたの持論?』

『……いや?経験からだよ』

ふんわりと微笑んでいるのに、瞳は笑ってない。どこか遠い目をして言うエドガーに、奈央はこれ以上踏み込めなかった。エドガーが一礼をして去ると、亮太は険しい面持ちで奈央を睨みながら言った。

「何故、アレが彼の手にあったんだ?」

「さぁ」

「奈央!」

「―――ねぇ、教えてよ。亮太にとっての私って何?私達、恋人じゃないの?そもそも、三ヶ月に一回だけ会える恋人?馬鹿じゃないの!?携帯にかけても、いつも留守電の声を聞いて終わり。メールしても、返ってくる言葉なんて、たった一言。同居し始めても、私のことなんて二の次。口を開けば仕事!?いい加減にしなさいよ!私だって、まだまだ捨てたもんじゃないの。……亮太の代わりなんて沢山いるんだから!」

打ちのめされた亮太と、今まで溜めていた全てを言い切った奈央。二人はしばらく見つめ合っていたが、やがて耐えきれなくなった奈央は踵を返して、病院の出口に向かった。

何とか止めようとした亮太の手が届く前に、彼女の身体と意識は地に落ちた。


「―――妊娠二ヶ月……?」

「はい、ご存じなかったんですか?」

「いえ、一言も……」

医師に驚愕の事実を突きつけられ、改めて今までの彼女に対する行動を反省した。そんな亮太を影から見ていた俊と沙穂は、お互い何も言わず病室に戻った。

病室に戻ると、沙穂は帰る仕度をし始めた。

「沙穂?」

「明日、デート行こう」

「え?何言って―――」

「俊。だから、もう帰ろう」

鮮やかな夕陽を背にした、彼女の笑顔がやけに切なくて、今にも消えてしまいそうだった。


初めてのデートの前日、緊張して眠れなかった。高鳴る鼓動が加速をつけて、明日が来るのを興奮して待っていた。お気に入りの服を何枚も並べて、明日着ていく服を何度も頭の中で描いたんだっけ。朝日が昇る前に目が覚めて、鏡の前で自分を頑張って飾り立てた。いつもと違う髪形、オシャレな格好。俊は、何て言ってくれるかな―――。待ちきれなくて、待ち合わせの三十分前に、もう着いてしまった。俊は、まだ来てないみたい。でも、彼を待つその時間が、とても幸せだった。待っているだけなのに、とても楽しかった。

今日は、どんな日になるんだろう?とか、どこに連れて行ってくれるのかな?

そんなことを考えながら、彼を待っていたあの頃の「私」―――。

今日だけは、あの頃の「私」に戻ろう……。

きっと、これが最後のデートになる。気持ちに区切りをつけないと、自分自身も苦しいし、それよりも、彼を傷付けることが怖かった。ねぇ、俊―――不思議ね。

私ね、貴方に出会えたこと……後悔してないの。むしろ、感謝してるくらいだわ。

俊も心のどこかで、少しでもそう思ってくれれば嬉しいな。


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