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6、先輩の夫が大賢者

最近時間というものを感じるのは、弟の成長を見た時である。しかし自分の成長というものはよく解らないものである。


弟が生まれて早いものでもう十年経った。弟の外見は人間の4歳児くらいである。

花嫁修業という淑女教育と森の賢者という郷の研究職への勉強はそんなに進んだ気はしない。私の体も相変わらず、まだまだ子供のままだ。

よくなった事はジェダイド様の家の使用人たちにストレスを感じづらくなった事だろうか。私にも環境適応能力があったようでなによりだ。

リナリア様の所には闇の日のみ通っている。休日の実家帰省もかわらない。それ以外の日は主に家で淑女教育というやつだ。


最近の勉強で私たちが普段話している言語は大陸の共通言語であって、言語を統一したその当時の人間の国で使われていた言語だと知った。他に言語統一以前に使われていた種族ごとの言葉は今の古語だという事も。というか、精霊に話しかける時に使う精霊言語は、エルフ族の古語という扱いだった。いつの間にか二言語を使えることになっていて驚いた。前世では母国語以外使えなかったものでしたので。昔、言語を統一できた事も歴史にのこる偉業である。たとえ神託が絡んでいたとしても。

淑女教育では人族、魔族、ドワーフ族の古語は最低限は覚えていないといけないようだ。森の賢者はそれに加えて、獣人達のそれぞれの有力部族の細かい古語も覚えなければならないそうだ。そして竜人は獣人のなかの有力な一部族だった。竜人とはドラゴンの姿にもなれる獣人らしい。ファンタジーな世界ならドラゴンを一度見てみたいと思うのは多分普通のことだよね。




リナリア様のもとで勉強したり、人馴れ訓練のために通ってだいたい11年、ついに彼女の夫という人物と遭遇した。


基本的に王都在住のハイエルフは王宮の奥宮か、街の貴族街に屋敷を持ち住んでいる。他に地方で別荘なども所有しているらしい。彼は地方の別荘を研究所にしていて、最近はだいたい研究が一段落つくと王都に帰ってくるそうだ。

リナリア様は王都にある自宅を研究所代わりに使用している。

「今日は友人が来ていると言っていたが、ずいぶん幼い子だね」

これが第一声である。

長い白銀の髪をゆるく一つに束ね後ろに流した長身のハイエルフだ。瞳の色は明るいオレンジがかった金色で、精霊の光は白に近い銀のような虹色でリナリア様と同じ色にみえる。服装は深緑色の裾の長いローブで外見だけだと男女の判別がつき難く、年齢も不祥な感じの容姿だ。

子供扱いを怒るような事はない。まだ子供だからね。だが幼いというほどだろうか。これでも119歳なのだけれど。エルフは100歳で成人なのにな。

「エルフの郷で子供のハイエルフは珍しいですよ。…表情に出るところも幼くて可愛い感じがしますが、大人は表情は基本的に、微笑んでいるか無表情ですからね」

リナリア様に言われて、とっさに頬をさわる。

「そんなに表情に出てました?」

「今、学んでいる淑女教育で表情に感情をださず、基本的におだやかに笑んだ表情をキープできるようにすることを習うでしょうね。成人するまでに習得できれば問題ないわ」

苦笑気味に言われ、少し落ち込む。

あまり身につかない淑女教育。しかし前世と比べて物覚えは遥かによくなって他種族の言語は覚えられている。初対面の人の怯えてないのかって?内心早く帰りたいなってなっているよ。物覚えの良さも複雑だ。前世でしか経験していない人間不信と恐怖症が今世でまで引き継がれているのだから。


「今のところは特に呪いなどを、掛けられている様子もないね」

ひざを折って顔を覗き込まれる。

急に怖い事を言われた気もする。そして脈絡なく何の話かもわからない。

「私の時ほど、排他的で同族であろうと排除という空気はないですよ。オランジュちゃんもあまり前へ出るタイプでも無いのだし。反感買っているにしても、将来はジェダイドと一緒に研究所に引き篭もって俗世との関わりを減らすのなら、現段階でジェダイドを担ぎ上げたい少数から邪魔に思われる程度だろうしね」

そして、現段階でジェダイドを担ぎ上げたいのは今の王へ叛意のあるものだけだ、ともリナイア様が言う。

「正当性にかけるクーデターを企むなど、狂気しか感じぬよ。今は平和な時代のはずだがな」

昔の殺伐とした空気と現代の平和かと思えばそうとも言いづらい微妙な話を聞かされる。

「セレン、あまりオランジュちゃんを怖がらせないで。その距離は初対面の人の距離じゃないわ。あと名乗りもしないのも悪い癖ね。」

「私を知らない子というのもこの郷ではめずらしい。そして怯えているのかい?…セレンディス・ユージン・オルテイヴだ」

「森の大賢者で半精霊となっていて寿命の制限がなくなっている亜神のような存在よ」

「邪神戦争に何度も同行する伝説の存在ですか?」

私の知るセレンディス・ユージン・オルテイヴという存在は、ジェダイド様の師匠で邪神戦争になんども同行したハイエルフの長老でエルフ族の生き神扱いされるハイエルフだ。エルフ族の英雄という扱いの存在でもあった。

そんな存在と結婚する事になったリリアナ様は、私の想像できる範囲よりもずっと多くの苦労があったんだろうなぁ。

「邪神戦争の出動はそろそろ他の賢者に譲りたいものだ…。しかし一番に思い浮かぶのはそこなのか」

「エルフ族の子供はみんな一度はそれを聞いて育つ、有名な英雄譚よ。私の時もそうだったし…。ある日突然、君の婚約者だって言う英雄譚の英雄と同じ名前を名乗る不思議人物が現れた時の、私の気持ちは今まで誰も共感してくれなかったけれど…。これからはきっと大丈夫ね」

リリアナ様が私を眺めながら後ろから抱っこする形でセレンディス様から引き離される。

「…物心ついた時にはもう婚約者だって言う人物がいたので、ある日突然現れた時の気持ちはちょっと解らないですよ」

正直に答えてしまう。でも解らないものを共感するのは無理だと思う。想像することくらいはできるかもしれないがね。

しかし、誇張なしでもある意味すごい出会い方をしてる気がする。よく詐欺とか疑わなかったね。不審人物とは言ってないし、堂々としてると逆に疑えないのかな。

「あの時はは知らなかったけれど、神からもらった洗礼名って名乗らない事はできても他人が名乗る事ができなくなる。っと言うか本人と偽れない部分よ」

下ろしてもらえたが今度は頬をつつかれる。

「可愛くて構いたくなるのは解るが、夫である私の方を構ってくれないかな」

なんかとても面倒くさい事をリリアナ様が言われてる気がする。

しかしそれは日常のようで、軽くながされている。

「100歳ちょっとの私を相手に口説いてくるような幼女趣味な方を簡単に信用できて?オランジュちゃんに近寄らないように」

痴話喧嘩に巻き込まれているのだろうか?それとも本当に幼女趣味なのだろうか?

「子供は可愛いと思うが、私に稚児趣味はないよ。私からすれば皆、結構な年下ばかりだよ?リナ、弟弟子の婚約者に嫉妬してるのかい?大丈夫、愛しているのは君だけだよ。おちついて、拗ねないで」

痴話喧嘩のようだ。そして、私に対してもセレンディス様に対しても色々酷い誤解だと思う。

「嫉妬はしてないわ。幼女趣味疑惑はそんな簡単に解けるものですか!」

まあ、疑惑って一度できたら、そんなに消えないよね。何百年物かの疑惑はなおさらだ。これはあれだ。

「疑惑って消えないから、そこを含めても好きって思えないとダメじゃないかな」

「夫がコレだって言うのは諦めているけど、改めてみてもやっぱり酷いわね…」

リナリア様が無表情になって言う。

「なんて言っていいかわからないから、帰っていいですか?」

痴話喧嘩でも深刻な事でも二人でよくよく話し合えばいいと思いますよ。

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