22、親の馴れ初めは聞ける時にきいておけ
いつもの淑女教育も今日はお休み。実家に帰って弟と遊びたい。
まあ、現実逃避もたまには重要だ。いつも逃避してるって?最近は睡眠には逃げても、小説の空想世界に逃げはしてないよ。前世では現実逃避の常習犯だったがな。この世界に生まれても前世の趣味でもあった読書は今も続けている。小説などの本が庶民でも手に入る時代でよかった。
私は今、139歳で人間でいうと14歳くらいの外見をしている。弟は30歳で人間の7歳くらいの外見だ。そして弟は最近少し生意気な口もきくようにもなってきた。なんというか成長を感じるところだ。
今日はマリーとムニ坊と一緒に実家に帰ってきた。いつものように母さんに挨拶して、弟と遊ぶ。弟は成長したせいか体を動かす遊びを好むようになったが、正直弟の体力にはついていけない。子供ってこんなに体力があるものだったかな。ひとしきり体を動かす、玉遊びをマリーとムニ坊も巻き込んですることにした。玉遊びは区画を決めて区画の中でボールを当て合う遊びだ。意外とミミックマのムニ坊が素早く動いてボールを避けるのが印象的であった。
疲れ果てて休憩する。
母さんが土産として持ってきたスイカを切ってくれたので、家に帰って一緒に食べる。それなりに甘い。もう少し要努力。
「そういえば、母さんと父さんの馴れ初めってどんなのだったのです?」
一応、母さんに父さんの両親と挨拶した時の事を聞こうと思っていたのだが、それより前の段階の事を聞いてしまった。
「唐突ね。私とクレソンの出会いはクレソンが冒険者をしていた時、商家に奉公していた私と出会ったのよ」
「なんか、ドラマチックな事とかなかったの?」
何時、出会ったかについては聞いた通りだろうがもう少し詳しく知りたい。
「ドラマチックねぇ…、初めて出会ったときはクレソンが商家の依頼を片付けて報告に来た時だったわ。どちらも一目でわかったの、番はこの人だってね。だから、ドラマチックといえばそうで、違うといえばそうなのよねぇ…。番は神様の決めた許婚って伝承がある位、当たり前の存在だから出会った時点で結婚も意識したわ」
「その時の母さんってまだ成人してそんなに経ってなかったんですっけ?」
「そうよ。今のあなたと同じくらいか少し若い年頃だったわ。クレソンは私より61歳年上だったのよ」
「200歳近くの父さんと130歳前後の母さんって、年離れてない?」
弟のバジルがつぶやく。私はそんなに離れているって感じなかったが、弟には離れていると感じる年の差のようだ。私も年をとったと思うべきか弟が若いなあと思っておくべきか…。
「ご主人達の年の差の、321歳差より離れてないよねー」
「え?姉さん、本気?大丈夫なの?」
ムニ坊の呟きにもバジルは反応して聞いてくる。しかし、本気とは?
「ハイエルフの年の差としては普通だって聞きましたよ?多分、問題ないですね」
「エルフとしては年が離れていても、ハイエルフとしては良くある事で、さらに番という事で反対意見はありませんよ。いえ番は神の決めた許婚ですから、反対意見を言うことは許されないのです」
マリーの補足になんとも言えない。ジェダイド様と結婚する事は確定事項でも、相手の両親にどう思われるかはわからない。不満があっても番という事で表立っては言われないって言うことは、それなりに難しい問題だと思う。私はあまり察しがよくないので、負の感情を映す目に頼らざるをえないんだ。
「まあ、私たちは互いに番だってわかったけど、周囲の人は結婚式を神殿でしないとわからないから色々いわれたなぁ。ほら、クレソンは美形だし」
基本的に番は出会った時点で互いに理解するもので、偽る人はまずいない。信仰の問題もあるしね。そして、番が神殿で結婚式を挙げると祝福が目に見えて与えられる事から周囲にも番だと喧伝される。それが番の証明方法とされている。
「母さんは父さんの両親に会った時は、どんな風でしたの?」
今、一番に聞いておきたかった事を聞く。前フリがそれなりに長かったがコレが今一番に必要な事だ。
「クレソンの両親とは、私が認識しているうちで会ったのが結婚式の時だからなぁ…。色々大変で、でも番だからしょうがないって感じだったなぁ…。クレソン、貴族の御曹司で長男なのに外界に憧れて冒険者になったみたいだし。嫁もその流れで見つけてきて、家は出奔状態でほとんど勘当のような状態だし」
結構爆弾発言だと思う。139年生きた中で初めて知る父の素性についての話だ。田舎で農業してる位だし、冒険者前も農業関係の実家だと思い込んでいた。
「なんか父さんの実家って思っていたのと違う…、どこから聞くべきか問題が多すぎるわ」
「母さんが認識していたってどういう事?」
バジルの問いに母さんが答える。
「うーん。父さんが番を見つけて結婚したいって一応実家に報せた時に、相手の素性とかを調べたらしくて、その時に一度会ったらしいのよ。私は記憶にないから仕事中とかにあったのかしらね」
「出奔して勘当状態でもつながりがあったのですね。親子仲はどうだったのでしょうか?」
「クレソンは兄弟もいて家督を継ぐのは他の兄弟でも問題ないから実家とも仲は悪くないけど、貴族籍を離れるから不自然にならないように距離をおいているそうよ。その後、オランジュが生まれたから報せはしたけど、ハイエルフを引き取って育てるのを少し揉めて、神託がきて先例に倣おうって事になって落ち着いたわ」
マリーの問いにも母さんは答える。親子仲は悪くないようだけど、私が原因で揉め事も起きていたらしい。
「父さんと母さんのもとで育ってよかったよ。貴族の生活には馴染み辛いからね。そこでずっと生きていく自信ももてないし…。人と関わるのはやっぱり苦手だしね」
弱気ととられかねなくて貴族としては言ってはならない事だけど、一応庶民の今は言ってしまえる。
しかし、母さんの話もあまり参考にならないとは抱えた問題に気が重くなる。
みんなで綺麗に食べたスイカの皮を母さんが緑色のスライムに食べさせる。ちなみにムニ坊はスイカの皮も綺麗に食べていた。スイカの味については瑞々しく甘く、草々しい青臭さと苦味と言っていた。
結局、両親の馴れ初めは聞けたが相手の両親に会った時の話は聞けなかった。
あの後、仕事を終えて父さんが帰宅してくるまで実家に滞在して弟と遊んだが参考になる話は、「なるようになるよ」以外の言葉で聞く事はできなかった。
一応父にも話を聞いてみたかったが、母さんは父さんと出会った時点で両親を亡くして年の離れた姉に育てられたようなもので、母さんとその姉に会った話は母さんから語られた。
「姉さんは冒険者を辞めて、定住するなら特に問題は無いって言い切っていたからね」
「命の危険の少ない職業で定住して子育てもしやすくって事ですかね?」
基本的に結婚相手に求めるのは安定した暮らしなのだろう。両親じゃなくても身内なら願って当然の事だね。
私は別に冒険を求めている訳ではないけれど、実際どうなんだろう?
ジェダイド様も冒険をするタイプに見えないし、平和に暮らしていると思う。たまに予想外の冒険をしてしまったりするけど基本的に事故だしね。
「クレソンは私と結婚するために実家を離れてまで成りたがった冒険者を辞めて、私と同じ道を行く事に決めたけど、向こうの親族には微妙に感謝される不思議に事がおきたのよね。やっぱり冒険者は命懸けだから辞めて欲しかったみたい。でもクレソンも後悔はしてない、世界の見てみたい所は概ね見てこれたって言ってたの」
そんな言葉で惚気ながら締めくくっていた。
両親が納得しているのなら問題ないのだろう。




