21、自身の課題と服飾職人
今日は夏用のドレスを作るために職人を家に呼んでいる。そろそろ職人が来る時間なのだが、ジェダイド様はまだ帰ってきていない。こういう時はなるべく早く帰ってきて助けて欲しいと思う。でもそれって我侭なのだろうか…。
自分の部屋でマリーとネリーと一緒につまみ細工の花を付けた真鍮のヘアピンを髪に付け、こっちがいい、いいやこっちの方がいいと髪をいじられている。しかし、花を付けたピンは3つしかないので選択肢が狭まっている。それでも意見は白熱して、センスのないと自覚している私の意見まで聞かれる事になった。
「えぇ…、耳の上の両サイドに一つずつと、結った後ろ髪の所に一つが無難ではないですか?」
「無難すぎますが、アリでしょうね。花付きのピンが3つなのが悔やまれます」
「でも数が多くてもゴテゴテするのではなくて?」
「長い流れるような髪に花を散りばめるのがいいのですよ」
二人の話がやはり花の数を増やして選択肢を増やすべきとまとまったようだ。
まだ時間はあると裁縫道具をだしてつまみ細工の花を作る。今度は花びらが2段になっているものを作ろうと思って頑張ってみた。
花びらを5枚の物を2つ作ってから重ねてみる。上段の花を少し小さく作っても良いかもしれないが、ひとまずコレでよし。ピンに糸を巻いて結ぶ。
「また新しい花ですか?立体的になりましたね」
「最初に作った花の応用みたいなものかな」
ネリーにと問われ答える。
「少し不恰好かもしれないけど、こういう物もありかな?上の花を小さく作っても可愛いと思いますね」
そう言ってまた寸法を測りパーツを切り出す。とりあえず、5枚ずつと。
そこへ執事の使いがやってきて来客をしらされる。
とりあえずネリーと協力し裁縫道具を片付けておく。
「ジェダイド様はまだ帰ってきていないのかしら…」
思わず呟いてしまった。慣れぬ人に会う不安がどうしても出てしまう。しかし頼ってばかりではならないとも思い直す。
「旦那様は帰宅されているようですよ。後ほど合流するそうです」
マリーが答えてくれた。執事の使いはその事も報せてくれたらしい。
「それでは、青葉の間にいらして下さい。そこで採寸をするそうです」
マリーがノックをして返事をもらい、青葉の間の戸を開ける。
青葉の間は来客により様変わりしていた。衝立と布、布、布っていう感じだ。色鮮やかな様々な布が掛けられている。
「ああ、お嬢様、また美しくおなりだね。本日はご用命と伺い参上しました。さあ、どうぞ衝立の間へ。採寸しましょう」
マダム・エステルは服飾職人で王都にお店と工房を持っている。そしてジェダイド様や私も服を作るときはよくお世話になっている。外見は人間で言うと20代後半くらいなお姉さんだ。実年齢はしらない。
マリーが言うには服飾の老舗で何代も服飾職人をしている筋金入りの職人達なのだとか。
「忙しい中、今日はありがとう。よろしく頼みます」
挨拶をして衝立の間に行く。そこでは針子たちが巻尺などを持って待機していた。
針子たちの手も借りながら服を脱ぐ。下着姿になったら採寸開始だ。季節も初夏なためか、服をぬいでも寒くも暑くもない気温だ。
「ふむ。お嬢様は夏用ドレスを何色で作りたいと?お勧めは夏の空のような澄んだ青色だね」
「お嬢様は旦那様の母君と会われるのですから、旦那様の色の方がよいのでは?」
「銀か、翠かい。翠の上着に銀糸で刺繍だな。モチーフは何にする?」
マリーとマダム・エステルがドレスの要望等を話し合っている。
「花飾り付きのピンの事もお願いする事を忘れないで下さい」
「ええ、マダム、お嬢様の身に着けていた花飾りを作って欲しいのだけど」
ネリーがマリーにつまみ細工の花をプロの職人に作ってもらう話をしている。
「ああ、あの花!実は気になっていましたとも。他では見ないし、よくお似合いだけど新しく作れとはね。布で出来ているから針子の仕事だろうが作り方が分からんな…。一つ頂いて解体しても?」
「お嬢様に作り方を教える許しを得るならば、ネリーが教えます」
「お嬢様!髪飾りだけでなくとも使えるこの花の細工物をつくる許可を頂けますでしょうか」
マリーと話が付いたのか、私の方に転がった話なのかこちらに来たようだ。
「つまみ細工の花ですね。歴史ある服飾職人の間でも似たような物はないのですか?…作るのはお願いします」
両耳の上に飾ってある花の右のピンを取り外しマダム・エステルに見せる。
「ご用命承りました。つまみ細工というのですね、この花は」
この時私は作るのはお願いしますと頼み、花飾り付きのピンの話だと思ってお願いしたのだが、コレが後に服飾ギルドに新技術として登録され、マダム・エステルの店の看板商品になるとは思ってなかった。ついでにこの勘違いを指摘されることもなく、この世界にもある特許制度でお金を稼ぐ事になるとも思っていなかった。
コッコッとノックの音がした。私は少し悩んだが返事をする。この場合私が返事をするのかマダム・エステルが返事をするのか困ったが、一応私が女主人の立場にいる事を想定しているので私が返事をしなければならないはずと、返事を返す。
「どうぞ」
採寸も終わり、普段着の黄色いワンピースを着てから応える。
「遅くなったが、もう決まってしまったかね?」
ジェダイド様が来たようだ。私はだいたい決まったと思っていたが、詳しくは分かっていないのでマリーを見る。
「ドレスの色は決まりましたが、まだ細かい所は決まっていません。お嬢様はこだわりが無い様なので選択肢も多く迷っておられますね」
流行のファッションとか全く分からないので、迷っているは話を盛りすぎな気もする。なんといっても全く分かってないのでね。正直ゴテゴテしてなくて動くのに支障が無ければ何でもいい気がしてる。私の美的感覚って奴はとても不安で誰かの言いなりで問題ないならそれでもいいと思っている。
目を向けられても曖昧な笑みで表情を誤魔化すくらいしかできない。
「夏だから、涼しくなるように冷却の魔方陣を刺繍すればよかろう。他の魔方陣は適当に問題のない汚れ防止等を選べばいい」
ジェダイド様は実用的なものを注文する。
エルフの郷が刺繍文化ばかりだったのはこの魔方陣を刺繍する、という事が重視されたせいでもあるだろう。昔から現代までに数多くの魔方陣を作り上げ、服に刺繍されている事が他の発展を阻害していた可能性もある。
魔方陣の刺繍はとても興味深いが刺繍するより、魔方陣の効果のほうを調べる方が好きなせいか、やはり私は刺繍には関心が薄い。ついでにエルフの伝統的なファッションにも関心が薄かった。
「みんなに任せます」
と言って丸投げしてしまう。
私を話の輪には入れるが意見は出さず聞くことに徹していた。それでもやはり、何を言っているのか分からずに聞き流した事も多い。聞かれた事だけに返事をして後は任せますと言ってなんとかやり過ごした。
意外だったのは、ジェダイド様が男性なのに女性のファッションについて会話に混ざっていた事だ。
ドレスの形とかレースの種類とか私には全く分からない話でも普通に会話に混じっている。凄いと思うと同時に女子力というものでも大敗しているんだな自覚した。しかし、興味を持てないものを学んでいく気になれない自身の怠惰さも自覚してしまった。
勤勉に成れたら良いが、怠惰になると抜け出せず堕落してしまうものだ。こういう所にも前世の影響がでている気がする。結局私は生まれ変わっても、変われなかったのかな。
会話にも入れず気分が沈む。耳も下がってしまっているし元気がでない。自覚しなければ変われないが、自覚すると自己嫌悪で気分が滅入る。今は最低な気分かな。お客さんの前でいけないと分かる。切り換えなくてはね。
「オランジュ、気分が悪いのか?顔色がわるいな…。マリー、採寸は終わっているな?オランジュを休ませてきてくれ。後の事はこちらでする」
私の心情変化に気付いたのかジェダイド様が下がるようにと言った。逃げてばかりでいいのだろうか、しかし、自分はいても何もできない。話を横で聞いているだけなら下がっても問題ない。
マリーに顔を覗き込まれ、立ち上がるように促される。
「それでは、失礼します。お嬢様共々中座する事をお許しください」
マリーの手を握って青葉の間を去る。本当に気分は最低だ。それが体に影響を出すのも分かっている。今はお腹が痛い。耐えられないほどではないけれど、耐えて残ったなら少しは変われたのだろうか。




