14、危機感よ仕事して
真っ暗なスロープを滑り落ちて気が付くと、どこかに座りこんでいた。
ムニ坊が揺れる。その振動で意識がはっきりした。そして光を出す。辺りは灰色の岩でできた洞窟のようだった。見える範囲に魔物はいないみたい。その時後ろからぶつかる衝撃が来た。
「…うぉわ!」
「オランジュっ!!無事か!?」
ジェダイド様が滑り落ちてきて、背中に抱きついていたムニ坊にぶつかったようだが、ムニ坊がクッションになってくれたおかげか私には然程ダメージはなかった。ムニ坊も形が崩れる事もなくぬいぐるみのような熊型を保ったようだ。
「とりあえず無事です。ジェダイド様も落ちたのですか?」
「落ちたのではないよ、君を追って降りたのだ。ダンジョンでトラップは間々ある事だが、皆とはぐれてしまったな。ここから上階層をめざし、彼等と合流後ダンジョンを脱出する」
そう言ってジェダイド様はアイテムボックスから剣を出し腰に装着した。
「ジェダイド様、今思い出すと足元は暗い上、黒っぽい色の土で判りづらかったけれど、黒いもやがあった気もします。近寄りたくない感じもしました」
「罠を目視で発見できるのは良いことだ。が、避けることができねば意味がないが…。もう少し危機感を感じたら避けられるようにならねばならないな」
「ところでジェダイド様、剣も使えるのですか?」
茶化すわけではないが、聞いておく。ジェダイド様はあまり体を動かす騎士のような事などしていなかったと記憶している。
現在、不思議と精神が落ち着いている気がする。さっきまで凄く心細くて、不安でしょうがなかったのに。ジェダイド様と一緒なら大丈夫だと根拠も無く思えるようだった。それと光の玉を足元も照らせるようにしておく。罠にも対策しなければね。ダンジョンの中からは転移魔法は使えない。どの位落ちたか分からないが、歩いて帰らなければならない。
「王族の男子に生まれれば護身術の一種として修練はするものだ。体力が衰えぬように定期的に訓練しているから問題ないぞ」
「そういうものですか。…ムニ坊、私から降りて戦ってくれる?」
ムニ坊にも声をかけ、私も立ち上がって無くした物がないか確認した。
「頑張るよー」
『こっち』『上に行く階段』『こっち』
ジェダイド様が小精霊に道を問うたのか案内してくれる。
精霊術は基本的に精霊との精神感応でやりとりするものだ。エルフはハイエルフのように精霊を目視できないので話しかけるというより精神感応で意思を伝えて魔力を渡し、事象をおこす。その精神感応ができないと精霊術は使えないものだったのだ。
ダンジョンの中は空気があるからか風の小精霊はよくいる。意外と地の小精霊は見かけない。あと闇の小精霊も多く見かける。暗い洞窟だからだろうか。小精霊の言葉に従って進む。
『危険』『敵は2匹』『オークだ』
ジェダイド様の後を付いていく形で私とムニ坊も進んでいる。精霊の報せに皆、立ち止まる。
「風で先制攻撃はするが倒しきれない事もある。身体強化の魔法をかけておくように」
身体強化は魔法の一種で発動するのに決まった術式をふむ必要がある。少し手間がかかるが効果はすごい。普段散歩くらいしかしない私でも素早く動く事が出来るようになる。が、副作用で筋肉痛に悩まされる。慣れれば筋肉痛もしなくなると言われるが、それって筋肉痛がしなくなるまで体が鍛えられるって事じゃないかと思っている。今の私には使いづらい魔法だ。だが掛けねば危険というのも分かるので、筋肉痛になる覚悟をきめて身体強化をかける。
辺りは光の玉に照らされてほの明るい。これは、相手にも丸見えだろうなとも思う。
重い足音がする。オークが来たようだ。そしてなんだか獣臭い。オークの臭気も結構きつい。
「グオオォ!」
「ガァアアア!」
ジェダイド様が風で先制攻撃をしたののだろう。臭気の中に鉄臭い血の匂いも混じった。
広いとは言えない岩の壁でできた通路にジェダイド様より大きなオークが2匹いる。手前のオークは死にかけだがまだ生きているらしく棍棒を振り回しながらこちらに向かってくる。私は岩の壁をイメージして精霊魔法を使う。しかし、ダンジョンに打ち消されオークの脛半ばくらいの高さまでしか岩の壁はでなかった。それでも、オークは壁に足を打ち転んで妨害くらいにはなった。
そこに後ろの軽傷のオークへ氷の塊が刺さる。そして消えたように見える。
手前の転んだオークはムニ坊が熊の姿で駆け寄り、相手の頭を不定形のスライム状になって取り込んだ。体はしばらく暴れていたがムニ坊を引き剥がす事はできずに動かなくなった。そしてオークの魔石を残して消えたようだ。
ムニ坊がミミックマに戻って魔石を拾い集めてきた。受け取って鞄にいれる。
「オークにとってこの通路は狭いのだろう。小部屋や広間に注意して進もう。身体強化は維持してゆくように」
近接戦闘は避けたほうが良さそう。基本、はなれた位置からの魔法攻撃だね。
「はい。ムニ坊もありがとうね」
オークは1匹や2匹、多くて3匹で行動しているようだ。狭い通路だと1対3で戦えるので、魔法で先制攻撃が決まれば安定して進む事ができる。他にムカデを大きくしたようような魔物もいた。だが大抵ムカデは単独で襲ってくる。
それと気になったのは、オークがなんだか見かけるたびに鼻息荒くこっちに来ようとする。先制攻撃が決まると重傷になるから余裕のようなものが無くなるらしく凶暴に暴れだす。そんなパターンが多い。
「オークは他種族の雌をおそって増える種族だ。オークは大半が雄であるが故にそうなっている。ゴブリンも似たようなものだが、オークは特にそれが顕著で他種族の雌は特にそういう意味でも危険だ。ここでは君を狙っているのだろう」
前世の知識でそんな話もあったが、ここダンジョンでは魔物がダンジョンにより生まれるのにオークやゴブリンのその性質が残っている事に驚いた。
「オークやゴブリンは見かけたら始末せねば他種族の被害が増える。ダンジョンの外でもそれは変わらないのだ。そしてダンジョンからあふれぬよう定期的に減らさねばなるまい」
「戦うのは向いてないだろうけど、気をつけておきます」
「ゴブリンとオークは殲滅するー」
ムニ坊の言葉にぎょっとする。殲滅なんて言葉いつ覚えたんだと思うが、同時に昔「不快な害虫を殲滅してきて」ってムニ坊によく言っていた事も思い出す。原因は私だった。
オークやムカデを倒しながら進んでいく。大体遠距離から精霊魔法をぶつける形で倒している。
ジェダイド様が剣を使ったのは3匹のオークと出くわした時で、前2匹は魔法で片付いたが最後尾にいたオークは無傷で距離をつめてきた時、棍棒の攻撃をかわして首を切り倒した。私は後ろで近寄ってくるオークに怯えてあまり役に立たなかった。私が咄嗟にイメージで使える精霊魔法はダンジョンだと地属性が使いづらい事もあって足手まといだと痛感した。しかしムニ坊は私の影響で地属性になっても酸の泥玉がそれなりに効くようで私よりも戦力になっている。
そして階段にたどり着いた。
『この上危険』『ゴブリン多い』『広間にゴブリンたくさん』
小精霊の言葉にすこし相談してから階段を上ることになった。
階段を上って直ぐにジェダイド様が風の広範囲魔法を放つ。広間にいた多くのゴブリンが風の刃で切られ絶命し、ダンジョンに吸収されていく。その中で一際大きなゴブリンが傷を負いつつも生き残っていた。
「ゴブリンキングか、面倒だな…」
「酸弾をなげるよ」
ムニ坊がスライムの不定形にもどり、周辺の生き残ったゴブリンとゴブリンキングに酸の泥玉を撒き散らした。
私も魔力を込めて洞窟の足場の岩に干渉する。足元から槍が出てくるイメージで残った敵に攻撃する。私の身長の半分ぐらいの高さまで岩の槍ができて、5秒くらい保ったらダンジョンの床に戻っていった。
ぞれでもまだゴブリンキングは消えておらず、棍棒を振りあげながら此方に駆けてくる。
ジェダイド様が氷の槍をゴブリンキングに向けて放つ。ゴブリンキングは棍棒で叩き落すと氷が育ち辺りを冷やしながら氷結領域を増やしてゴブリンキングを足止めする。
その間に私は風の小精霊にゴブリンキングの首を狙って風の刃を出してもらい、首を落とす。
広場はゴブリンの悪臭と血の匂いが凄いが、とりあえず敵は見当たらなくなった。
ムニ坊に落ちてる魔石の回収を頼み、座りこむ。今更ながらに足が震える。
「大丈夫か?」
ジェダイド様に声をかけられて見上げる。
「怪我はありません。ただ、足が震えてしまって…」
「魔物は脅威だよ。怯えるのは当たり前のことだ。でも今は生き残って、無事に地上へ帰る事を考えなさい」
ジェダイド様は座りこんだ私の頭を撫でて言った。
私は命の危険が多い世界で生きているが、安全な街中で過ごしていて前世のような平和ボケをしているのかもしれない。ダンジョンの側の町も結構危険なのだ。それを忘れてはならないと強く思った。




