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ある寒い日

作者: 多治凛

こんばんは。

多治凛です。

遅くなってしまい申し訳ありません。

毎日投稿の第四弾でございます。

最後までお楽しみください。

 風が吹き荒む日に男はあわただしく喫茶店へ入店した。案外客はまばらで、目についた適当な席へ滑り込んだ。

 冷えたジャケットを隣の背もたれへ掛け、青白い両手をこすり合わせ、息を吹き掛けた。酷く寂しい後ろ姿であった。

 店員が注文を取りに来たが、メニューには目もくれずホットのストレートティーを頼んだ。この店は軽食も出してくれるのだが、彼にそんな余裕は無かった。

 すぐにバッグからノートパソコンを取り出し、立ち上げた。起動の遅さに苛立ち左手の爪を噛む男はどこか幼く見えた。

 起動するまでにマウスの隣には丸まったティッシュが山を成していた。この男は元来慢性的な鼻炎を患っており、ティッシュがこの男の生命線なのである。脳の髄まで鼻水が詰まっているかのような不快感に男は悩まされていた。

 起動するや否や紅茶が提供されたのも忘れ、キーボードをひたすら叩いていた。

 男の視界の端の席に老夫婦がむかいあって座った。しかし夫は落ち着かないようで、静かに貧乏揺すりをしている。

 ついには席を立ち、妻の隣に座った。男は手を止め、目の前の出来事に見入っていた。

「ばあさん。俺は補聴器を家に忘れちまった。近くでしゃべってくれ」

 夫はメニューをパラパラとめくりながらそう告げた。

「おじいさん。あたしは家を出るときおじいさんが補聴器をバッグに入れていたのをちゃんと見てましたよ。隣に座りたいならそう言ってくれれば良いのに」

 妻が朗らかに言うと夫は少し恥ずかしそうに赤面しながら「・・・・・・ばあさんには敵わん」とつぶやいた。

 男は鼻から頭の中心にかけて詰まっていたものが全て流れ出たかのような気がした。そうしたらダージリンの芳しい香りを感じ、自分が紅茶を頼んでいたことを思い出した。すでに湯気は立たないが、飲んだ男の胸中は温かかった。

 男は急に空腹に苛まれ、先程注文を取りに来た若い女性の店員にハヤシライスを頼んだ。

 男は無意識に背筋を伸ばして座り、雲の切れ間から差し込む黄色い光を見つめていた。黄色い光は男も老夫婦も他の客も等しく温かく照らした。男はすでに爪を噛むことを止めていた。


読了有難うございます。

人間の温かみはとてつもない癒しを生むと思います。

感想や評価、レビューをいただけると励みになりますので、お願いします。

失礼します。

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