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奴隷だった私と恋の行方

今回から四章になります。

イーラ達が王都から帰って、数日経った。

赤く染まった木々の葉は次第に枯れ葉に変わり、冷たい風が吹き始めている。

ピアーズの屋敷は、平和な日々が戻っていた。

思いがけず、ミュリエルが接触してきてくれたお陰で、この騒動は終わりとなった。

あんな大勢の前であんなことになったので、あっという間にイーラとミュリエルの事は国中に広まった。

だから、もうイーラが婚約者の振りをして社交場に行かなくていいだろうということになったのだ。


「イーラ。これ、ついでに届けてくれ」

「はーい」


イーラは元の仕事に戻り、ピアーズの秘書の一人として屋敷を文字通り飛び回り、仕事をこなしていた。

婚約者としての役割は終わったので、難しいマナーの授業やダンスの練習はなくなった。

肩の荷が降りて、イーラはホッとしていた。

綺麗なドレスを着られたのは嬉しかったが、あれがずっと続くと体が持ちそうにない。

とは言え、すべてが元通りとは行かなかった。

ピアーズの婚約者の騒動は屋敷内では終わったものになったが、世間の方は噂が広まったせいでちょっとした騒ぎになっていた。

人々の反応は様々だ。

顔をしかめて嫌悪する人、興味本位で面白がる人、身分を越えた愛だと絶賛する人。

賛否両論になり、みんなで何があったのか推測しあっている。

集まりがあると、今はその話題で持ちきりだ。実際に見た人達や、噂で聞いたとかの話が入り混じって噂が噂を呼んでいるような状態だ。

面白いのが貴族と平民で反応が違うところだ。

貴族たちのほとんどは、ハーフを婚約者にしたことに、一様に眉をひそめていた。平民を婚約者にするならまだしも穢れた血が入ったハーフだ。しかも、王族の血を引くピアーズがそれをするなんてあり得ないと言っている。

何よりも純血を重んじる貴族はかなり腹を立てていた。

もちろん何があったのか察している貴族は口をつぐんでいる。事を荒立てもややこしくなると分かっているし、終わった話しだとわかるからだ。

だからそれなりに話題は盛り上がっているが、時間がたてばいずれは収束していきそうだった。

そして対照的なのが平民達だ。

元々ピアーズは平民からかなり人気があった。四天王と呼ばれるほど強く、戦いにおける伝説は数多くある。しかも容姿も美しい。頭もよく土地を治めさせたらその街が立ち直ったことから、市民思いの素晴らしい王族だと評判だった。

だから、ハーフとの婚約も基本的には好意的に受け止められた。

特に女性からは禁断の関係性に色々な憶測が飛び回り、ついにはそれを元にした物語まで作られ始めた。

その物語の中ではミュリエルは元々婚約者だったが、ハーフのイーラに出会って真実の愛に目覚め婚約破棄をしてイーラを婚約者にしたというものだ。

事実とはかけ離れた内容だが、その物語が人気になったものだから、余計に広まり。ピアーズとイーラがどうやって出会ったとかどう恋に発展したとか、有りもしない話がまるで真実かのように広まった。

特にピアーズが治めているグズート州には噂のハーフを一目見ようと人が集まり、まるで結婚したかのように盛り上がっていた。

お陰でイーラはしばらく街に遊びに行く事が出来なくなってしまった。

とはいえ、元々屋敷に籠っていてもなんの不自由はない。イーラはとりあえずほとぼりが覚めるまで大人しくしていることにした。

そんな平和な日常を送っていたある日、ちょっとした事件が起った。


「え?アーロンと別れた?」


いつものように仕事をしていると、イーラはエミリーがやたらと暗い顔をしているのを見かけた。

心配になって何があったか聞いてみると、なんとエミリーはアーロンに振られてしまったというのだ。

イーラは唖然とする。


「まあ、いつかこうなるかもしれないとは思ってはいたんだけどね……」


エミリーはそう言って、弱々しく笑った。


「そ、そんな……なんで……」

「それから、私あと一ヵ月でこの仕事を辞める事になったから」


その言葉にイーラは更に驚く。


「ええ?!ど、どうして急に?」


そう聞くとエミリーは説明し始めた。


「ピアーズ様の婚約者騒動があったでしょ?それが親の耳にも入ってさ……なんとか誘惑して来いって言われてたのに、もう無理ってばれちゃったから、呼び戻されることになったのよ……」

「あ……」


そういえばエミリーは、ピアーズを落すという目的でこの屋敷に働きに来たと言っていた。

本人はやる気がなく、親には嘘を付いてずっとここで働いていたが、騒動が大きくなり、それがエミリーの親に耳に入ったのだ。

そうして、もう無理そうだと判断されて呼び戻されたのだ。


「多分、家に戻ったら誰か親が決めた人に嫁ぐことになると思う」

「そんな……」

「大丈夫。完全に行き遅れだし、いつかはこうなるって分かってたから……」


エミリーは今たしか今年二十五歳になる。貴族としてはかなり遅い、ピアーズに取り入ろうとしていたような親なら焦っていてもおかしくない。


「それで?アーロンに話したの?」

「うん。話して、仕事も辞めるかもって言ったら『じゃあ、別れよう』って……それで終わり」


エミリーはそう言ってまた無理に笑う。

その笑顔があまりにも悲壮でイーラは何も言えなくなってしまった。


「どういうことなの!」


エミリーに話を聞いて、イーラはすぐにアーロンに話しを聞きに行った。聞いた時は驚いて何も言えなかったが、段々腹が立ってきたのだ。

手を出したくせに、家に帰ると決まったらあっさり振るなんて酷い。


「何のことだ?」


かなりの剣幕だったからか、アーロンは驚いた表情で言った。イーラはエミリーから聞いたことを話す。


「エミリーはここでの仕事を辞めたら他の人と結婚するんだよ!それなのにあっさり別れるなんて酷い!」


それを聞いてアーロンは気まずい表情になる。


「しょうがないだろ……」

「しょうがないって……お互い好き同士なのになんで別れるなんて話しになるの?」

「エミリーが貴族の生まれだって知ってるだろ?」

「知ってるけど……」

「俺は平民だ、釣り合うわけないだろ」

「っでも、平民と貴族でも結婚することはあるし。アーロンはピアーズ様に認められる剣術もあるんだから、多少身分が違ったってどうにかなるでしょ?」


稀だが貴族と平民が結婚する事はある。例えば商人として名を上げてお金が欲しい貴族の娘をもらうとか、それこそ兵士として武勲を受けて貴族に婿入りなんてこともある。

だから絶対に無理とは言い切れない。

すると、アーロンは呆れた顔になる。


「ピアーズ様に認められたって言っても屋敷の警備兵の分際じゃそんな事認められるわけないだろ」

「で、でもアーロンはそれぐらいの実力はあるでしょ?これから頑張れば……」


エミリーが仕事を辞めるまでにまだ時間はある。それに家に帰ってもすぐに誰かと結婚するわけじゃない。

しかし、アーロンは困った顔をする。

無茶な事を言っていることはイーラも分かっていた。それでもエミリーがアーロンの事を本当に好きなのは知っているから、どうにかしたかったのだ。

頑な態度を崩さないイーラにアーロンはため息を吐いた。


「言ってなかったけど、俺は平民って言ってたが本当は孤児院出身なんだよ」

「え?」


アーロンは自虐的に笑う。


「親の顔も知らないし、しばらくスラム街で生きてきた。ピアーズ様に拾ってもらうまで犯罪者とそんなに変わりない生活をしてた。今、まともな仕事に就けてるだけで奇跡なんだよ」

「そうだったんだ……」

「お前も、身分が低いってことがどういう事なのかぐらいわかるだろ?」

「……」


イーラは何も言えなくなる。アーロンは目を伏せ拳を握った。


「たとえ無理して結婚できても、苦労させるのは目に見えてる。……好きな女を自分の手で不幸にはしたくない」


そう言ってアーロンは俯くとそのまま立ちあがり仕事に戻っていった。チラリと見えた表情には悔しさが滲んでいた。

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