奴隷だった私と王城2
ピアーズに付いて行くと、イーラとカイはある大きな部屋に通された。
どうやら、この部屋は今日の目的の場所のようだ。
その部屋は広く大きくて重厚なテーブルがあった。沢山の人が集まって議論や会議が出来るようになっている。ピアーズの屋敷にもあるがそれの何倍も大きい。
部屋には、もうすでに沢山の人が集まっていた。
おそらく全員地位が高い人達ばかりなのだろう、明らかに高価そうな服を来ていて重厚な雰囲気だ。
部屋の中には先程会ったエクムントもいた。
イーラは小声でカイに言った。
「あの人もいるんだね」
「さっき、名前を聞いて思い出したけど確か魔族四天王の一人だよ。魔法使いで高い魔法技術の使い手で有名な人だよ」
「へえ、凄い人だったんだね」
四天王と言うことはピアーズと同じ立場だ。王城に来てすぐにイーラ達は凄い人に遭遇したようだ。
「それより、イーラ。本当に怪我はなかった?」
「うん。全然大丈夫だよ。カイこそ大丈夫?」
「俺も大丈夫だよ。ちょっと擦りむいただけ、って言うかあれくらいなら騎士の訓練ではよくあるし」
カイは笑って言った。
「カイありがとう。私の代わりに怒ってくれて」
「あれは、代わりって言うか。本当に腹たったから言ったんだ。なんていうか……イーラのこと何も知らないくせにって思って」
カイはまた腹が立ったのか怒ったような表情になる。しかし、すぐに後悔したように言った。
「でも、ちょっと考え無しに行き過ぎたかも。イーラも怪我しかけたし……」
「それでも、私は嬉しかったよ。それに本物の騎士みたいでかっこよかったし」
イーラがそう言うとカイはちょっとはずかしそうに「そんなことないよ」と謙遜する。
そんな会話をしていると。
部屋にいた一人が立ち上がりピアーズに話しかけた。
「ピアーズ殿下、お久しぶりです」
「ああ、アドロフ。久しぶりだな」
ピアーズはそう言って少し顔をほころばせた。どうやら親しい人のようだ。二人はなにやら親しげに話をし始めた。
「あの人は?」
「うわ!あの人は、イゴル・アドロフで、竜騎士団の隊長だよ。ピアーズ様の後任でこの人も四天王の一人だよ」
「ああ、ピアーズ様がいた騎士団の人なんだ」
「すげー、一回会ってみたかったんだ」
カイは少し興奮気味に言った。確かにアドロフもがたいがよく武人といった感じの体躯をしている。
そんな事を話していると、アドロフが二人に気が付いた。
「その二人が、例の勇者と接触した者ですか?」
「ああ、イーラとカイだ」
「へえ、ハーフの子供を拾って育てていると噂では聞いていましたが、こんなところで会うとはね。うん?カイってもしかしてルカスの息子さんかな?」
アドロフがそう言った。どうやら、カイの父親のルカスとも知り合いのようだ。自分の事を知ってくれていたと知ったからか、カイは驚いて直立したまま真っ赤になってしまった。
「ああ、二人とも優秀で助かってる」
ピアーズがそれを見、て笑いながらそう言った。
そんな会話をしていると、扉に立っていた兵士が一際大きな声で言った。
「エリウッド殿下が来られました」
その途端、部屋の全員が立ち上がり、最上の敬意を示すお辞儀をした。
エリウッド殿下とは王の最初の息子でピアーズの兄だ。そして次期王の最有力候補と言われている。
顔を見たのは初めてだが、流石にイーラはエリウッド殿下が誰かは知っていた。
エリウッド殿下は王の右腕として活躍していて、軍事のことにも関わっている。だからこの会議にも参加しているのだろう。
イーラはカーラ先生にある程度の作法は教わったが、こんな場所での作法はまだ教えてもらってない。
失礼な事や間違った事をしてしまったらどうしようと焦りつつ、周りにならってお辞儀をした。
まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
「ああ、ピアーズ。呼び出してすまなかったな。周りが直接話を聞きたいとうるさくてな」
エリウッドはピアーズを見つけると、近付きそう言った。
「兄上、お久しぶりです」
ピアーズはもう一度お辞儀をしながらそう答えた。
「その子が例の接触した者か?」
エリウッドがイーラに気が付いて言った。
「はい、イーラです。報告は後ほどさせて貰います」
兄弟にしては硬い態度だとイーラは思ったが、王族ともなるとこんなものなのか。
「ふうん、なかなか。可愛い顔をしてるじゃないか」
エリウッドは優しげに微笑んだ。どんな人なんだろうと思っていたが、優しそうな人だ。笑った表情は柔らかく柔和な感じでピアーズと印象が真逆だ。
しかし、ピアーズの兄だけあってとても整った顔はとても美しい。喋っていいかわからずイーラは取り敢えずもう一度お辞儀をした。
「そんなことより、兄上。報告書は読んでいただけましたか」
ピアーズはイーラの前に立ちそう言って、難しい話しをし始めた。どうしていいか分からなかったので助かった。
そうこう、していると会議が始まった。エリウッドが部屋の一番上座に座り、全員が椅子に座った。
イーラとカイはピアーズの後ろに控える形で立つ。
「それでは、本日の軍会議を始めます」
進行役のような人がそう言って会議が始まった。書類が配られ、何があったのか概要を説明し始めた。
どうやら、勇者の事はもとより軍に関する他の事もあるようで、イーラには分からない難しそうな話が進んでいった。
「……それじゃあ次は勇者の案件だな。年々この問題は大きくなっている。今回は比較的早くに接触出来たので、その対策を考える。とりあえず、ピアーズ。報告を……」
エリウッドがそう言って、ピアーズが話を振られた。
「はい……」
ピアーズはそう言って、淡々を報告書を読む。内容はイーラが攫われてどんな事があったかを事務的に報告するものだった。
そして、イーラにもいくつか質問をされた。どれも、一度ピアーズに話した内容だ。
しかし、イーラが話し始めると、数人の魔族達が顔をしかめたのが見えた。
「以上が勇者についての報告だ。何か質問はあるか?」
質問が終わると、ピアーズはそう言って締めくくり、周りを見渡す。
すると、エクムントがしかめた顔のまま口を開いた。
「話は分かったが、そもそも、ハーフの証言など信用できるのか?」
エクムントはイーラの方を見て疑わしそうに言った。周りの人達もざわざわと話す。エクムントの言葉に同意するように頷く者もいた。
ピアーズはムッとした表情で言い返す。
「イーラは幼少の頃に拾って自ら育てたのだ、誰よりも信用できる。それに家庭教師を付けたが優秀な成績を収めているし、知能も高い。そもそも、嘘をつく理由などないだろう」
「しかし……」
エクムントはなおも食い下がる。しかし、ピアーズはさらに付け足す。
「城内で剣を抜くような、あなたの部下よりは使えるし信用できる。疑うならそれなりの証拠を出せ」
「っく……」
返す言葉がなかったのか、そのまま黙ってしまった。
「随分、可愛がっているようだな」
エリウッドが興味深そうに言った。
「優秀な子です。魔力もそこら辺の魔族より高いことは証明されています。見習い騎士ぐらいなら簡単に勝てる技術もあります」
ピアーズはそう言ってちらりとエクムントを見た。エクムントは悔しそうに目を逸らした。
エリウッドは頷く。
「さっき、騒ぎがあったのは聞いた。丸腰で戦って勝ったとか……。確かに優秀なようだな」
「優秀な者を育てるのは、上に立つ者として当然です。ハーフとか肌の色など、くだらないことでその機会を逃せば、他の部下が死ぬことになるのです」
ピアーズは毅然とした態度で言った。周りがまたざわざわ騒がしくなる。その通りだと同意するものもいれば、いまだに渋い顔をする人もいた。
「うむ、なるほどね……まあ、とりあえずその証言は、信用することで話を進めよう」
エリウッドはそう言って頷く。流石にトップの言葉は重かったようで、その言葉に反対するものはいなかった。
「それでは、この情報を元に勇者の対策を練るということでいいか?」
ピアーズがそう言ってその議題は終わりとなった。




