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奴隷だった私は王都に行く

勇者の騒動があってから、数日。平和な日々が続いた。

イーラは要塞で、予定通りモンスターの駆除を進めていた。多少危険はあるものの、順調にこなしていった。

そんな日々の中、イーラはぼんやり考え込むことが多くなった。

考えるのはあの勇者のことだ。ピアーズから勇者がどういったものでなんでああなったのかは分かったが、それ以外にも何か引っ掛かるものがあったのだ。

しかし、それが何かは分からない。

どこかで感じたことがあるものだったが、それが何か分からなくて、つい意味もなく考えこんでしまうのだ。

そんなある日、いつものようにピアーズの部屋で寝る準備をしていると。イーラはピアーズから思いがけない事を言われた。


「王都に?どうして私が?」


イーラが王都に行くことになったのだ。

王都は魔族の国の中心にあるガストーハーマ州にある、この国一番大きな街だ。

王都と呼ばれるので当然、この国を統べる王が住んでいる都だ。

魔族の国の中でも一番発展している国で、沢山の人や物、文化が集結している。イーラは勿論行った事はなく、本やカーラ先生から聞いた知識しかない。


「勇者の事があったからだ。王城に勇者の事を知らせたら、直接報告しろと言われた。イーラは、勇者と直接話したからな。貴重な証人として来てもらうことになったんだ」


ピアーズは仕事を終えたので、くつろいだ格好に着替えている。それでも片手には書類の束に目を通している。

相変わらずピアーズは忙しそうだ。


「証言……」

「まったく……面倒なことだ。こんな事でわざわざ行く必要なんてないのに……」


ピアーズがため息をつきながら言った。


「そうなんですか?じゃあ、なんで……」

「どうせ直接来させることで、権威を見せつけたいんだろ。くだらない……」


ピアーズは眉を顰めて、またため息を吐いた。こんな風にイラついた言い方が珍しくてイーラは少し驚く。

それに気が付いたのか、ピアーズは苦笑して言った。


「まあ、行ってもすぐに帰れるだろう。イーラには少し苦労をかけると思うが頼むな」

「え?苦労って……?」


少し、暗い顔で言ったピアーズに疑問を覚えながらイーラは聞く。


「いや、行ったらわかる。とりあえず、砦での仕事ももう佳境だ。あとはルカスに任せても大丈夫だろう。出発は明日だ」


そんな訳で、次の日イーラとピアーズは砦を出発する。

王都に向かうメンバーはピアーズと数人の護衛。それから、少しではあるが勇者の姿を見たカイも一緒に行くことになった。

王都まではグズート州を横断して、二つの州を越えるのでかなりの長旅になる。馬車で向かう。

途中、何度か馬を変えたり宿に泊まったりしながら旅をする。

そうして、ヘンリーが持たせてくれたお菓子が全部なくなった頃、イーラ達は王都に着いた。

馬車は大きな外壁に囲まれた街の入口で止まった。


「やっと、着いたか……」


カイが馬車から降りて伸びをして言った。じっとしているのが辛かったようで、いつもより疲れている。

イーラも馬車から降りて外を眺める。目の前にある外壁は今まで見た街の外壁より、高くて長かった。


「あそこに王城があるの?」


その大きな外壁の奥に浮き上がったように一際大きな建物があった。恐ろしいくらいに大きなその城は天に届きそうなくらいにそびえ立っている。しかも、美しいくらいに真っ黒に塗られていてさらに存在感が増していた。そして王城の屋根には大きな旗が掲げられていてそこには王家の紋章である竜の絵が描かれている。


「うん。あれが王城だよ。俺は久しぶりだけど……やっぱり大きいなって思う」


城は遠くに見えるが、大きすぎて距離感が分からない。

お城は大きな山脈を背に立っていて、その下に街がある。

今は見えないが、街は放射線状に道が伸びていて、城の周りには城を守るように波紋状の大きな壁が何重にも立っている。

中心は建物が密集していて、外に行くほど建物はまばらだ。

二人で話をしていると。しばらくして豪華な装飾が施された馬車がイーラ達のところにやってきた。


「ピアーズ様、お迎えに上がりました」


馬車からかしこまった感じの服を着た男性が出てきて、ピアーズに深々とお辞儀をしてそう言った。

ピアーズはため息を吐く。


「迎えはいいと言っただろう」

「申し訳ありません、決まりなので……」


男は顔色も変えず言った。


「まあ、予想はしていたがな……イーラ、カイそっちの馬車に乗れ」

「「はい」」


ピアーズが派手な馬車を指さして言う。乗り換えるようだ。

イーラ達が返事をすると、男がイーラを見て眉を顰める。


「ピアーズ様、この者は?」

「俺の連れだ。今回の件の貴重な証言者でもある。下手なことはするな」

「……はい、仰せの通りに」


ピアーズが釘をさすように言うと、男はまた表情も変えずお辞儀をする。


「イーラ行こう」


カイがイーラを気遣うように促す。

イーラは頷くとカイの後から馬車に乗った。馬車は三台ほどあって一番先頭にピアーズが乗りその後ろの馬車にカイやイーラ。それから、ピアーズの護衛が乗った。ここまで乗ってきた馬車は迎えに来た人たちがどこかに片づけたようだ。

イーラ達が乗った馬車はゆっくりと進んでいく。

街の中は人も多かった。どうやら、ピアーズが帰って来ることは噂になっていたようで馬車の周りに人が集まる。

特に女性や子供たちが目を輝かせて手を振ったり、追いかけてきたりしていた。

イーラはこっそりと窓からそれを見る。


「凄いね……」

「ピアーズ様は本当に人気だからな」


カイが自分の事のように自慢げに言った。


「ピアーズ様の武勇伝は有名で。いくつかの逸話は演劇になって人気なんだ」

「劇になってるの?」

「そうだよピアーズ様の絵姿とかも人気があって凄い売れてるんだ」

「そんなのもあるんだ」

「うん。俺も見たことある。でも本人の方が恰好良かったけどね」

「あんまり似てないんだ……」


イーラは苦笑いしながら言った。ピアーズが凄い人で有名なのは知っていたが、そんなに人気があるとは思わなかった。

それでもピアーズならそれも納得できた。

外をまた見る。また人が増えてきてちょっとしたパレードでも行われているんじゃないかという騒ぎになっていた。お陰で馬車の動きもゆっくりにならざるを得なくなっている。


「それにしても、建物もみんな高いね」


イーラが奴隷をしていた時にいた屋敷はそこそこ大きかったものの田舎にあった。ピアーズの屋敷に来た後は街にはほとんど行ったことは無かったので、こんなに大きな街に来たのも見たのも初めてだ。

話には聞いていたが、ここまで建物が密集しているのを見ると迫力がある。

そして、こんなにも人と物があって、ごちゃごちゃしていると思わなかった。

カイは苦笑しながら答える。


「それに、めちゃくちゃ広いし、迷うから。絶対一人では出ない方がいいぞ。俺も子供のころうっかり迷って父上に怒られた」

「そんな事あったんだ……」


そう言えば、カイと初めてあった時もカイは迷っていた。


「でも、色んな店が一杯あって楽しかったよ。時間があったら、一緒に街に出たいな」

「楽しそう。どんなお店があるの?」

「何でもあるよ。美味しいお菓子の店とか服とか魔法道具の店とか……俺は武器屋に行きたいんだよな」

「お菓子か。武器屋も行ってみたいな」


街の大きさに圧倒されて、興奮気味の二人は楽しく会話をする。

城は大きく見えていたが、街が広いせいかお城にはなかなか辿り着かなかった。

そうして、広すぎる街並みに流石に飽きて来た頃、馬車は王城に着いた。

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