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奴隷だった私は魔法使いになる

今回から二章になります

どうぞ、よろしくお願いします<(_ _)>

——あれから、五年経った。


「あ、イーラ。おはよう」


空を飛んでいたイーラはその声に振り向く。下を見るとカイが手を振っていた。


「カイ。おはよう」


イーラはそう返事をして、ふわりと地面に降りた。

家庭教師をつけられ、魔法の勉強を始めて数年、イーラは15歳になった。

イーラは頭一つ分くらい背の高くなった、カイを見上げる。五年前はイーラとほとんど変わらなかったのに、カイは大人っぽくなって逞しくなった。


「イーラ何してるんだ?仕事か?」

「そう」


あれから、イーラはカーラ先生の教えのお陰で、一通りの魔法は使えるようになった。

魔力がそれなりに高いことと、勉強をする時に宣言したとおり頑張ったお陰だ。さらに最近は自分なりにオリジナルの使い方を模索したりしている。

そして、その努力が認められて屋敷内の色々な仕事もするようになった。

といっても雑用が主だ。それでもちゃんとお給金が出ているので、奴隷からペットになったイーラにとっては破格の出世といえる。

因みに今は、書類や手紙を届ける仕事をしている。ピアーズの屋敷は広くて人も多いので、単純に届いた手紙を配ったり、書類のやり取りをするのも大変なのだ。

だから、イーラは空を飛んでそれを配るのだ。子供の頃から、屋敷内を散歩していたので屋敷内のことは詳しい。


「それにしても、なんでほうきに乗って飛んでるんだ?」


カイが不思議そうに聞いた。そうなのだ、イーラはほうきに乗って空を飛んでいたのだ。


「え?ああ。空を飛ぶのは何かに乗った方が安定するし、早いから」


空を飛ぶことは体一つでも出来なくはない。しかし、やたら魔力を使うくせにゆっくりしか進まないし、小回りもきかない、むしろ歩いた方が早かったりする。

しかし、イーラは何かを浮かせてそれに乗り、さらには風の魔法を使うことによって、推進力を加えスピードを出せる。

二つの魔法を同時に使うのは難しいのだが、慣れると快適なのだ。

これは、魔力の高いイーラだからこそできる。そして、風の魔法はイーラがたまたま見つけた魔法の本に書かれていた魔法だ。今では思った通りに操れるようになった。


「いや、それは分かるんだけど。なんでほうきなのかなって思って……。他にもありそうなのに……」

「ああ、何に乗ろうか考えた時に一番に思い付いたのがほうきだったのよ。手近にあったし、乗ってみたらほうきの房の部分が丁度良く乗りやすかったから……」


柄の部分は荷物も掛けたりできるし、両手で柄を持てば体のバランスも取りやすい。コンパクトだから小回りも利くし、掃き掃除もできる。


「じゃあ、椅子とかでも良くないか?」

「一応試してみたんだけど、なんかしっくりこなくって。結局ほうきに落ち着いたの」


確かに、わざわざほうきで飛ぶというのは変な気もする。しかし、イーラの中ではあまり違和感は感じなかったのだ。


「まあ、イーラがやりやすいならいいんだけど。それにしても器用だよな」

「そう?」

「そうだよ。空中に浮くのは結構できるけど、そんなに早く移動したりは難しいもん。凄いよ」


そう褒められてイーラは少し照れる。


「そんな事ないよ。それにカイの方が凄いよ。剣術の腕が上がって実戦に出せるかもってピアーズ様も言ってたよ」


カイは騎士になると言っていた通り、順調に技術を上げていて、大人にも勝てるようにもなっているらしい。


「いや、俺はまだまだだよ。もっと頑張らないと」


カイは苦笑しながら言った。相変わらずカイは頑張り屋だ。


「じゃあ、そろそろ仕事に戻らないと」

「ああ、仕事頑張れよ」

「うん」


イーラは頷くとまたほうきに跨り、ほうきに魔力を送り込む。すると、ほうきがふわりと浮いた。さらに、魔法の呪文を唱える。


「『風よ我は命ずる、天空のパルスよ疾く走れ』」


すると、周りに風が生まれてイーラを高く飛ばす。最初に間違って発動した時は力のコントロールが出来ずに本や窓を壊してしまったが、今はそんな事にはならない。

因みに、なんでこの言葉がイーラが読めるのかはまだ分かっていない。

あれから沢山勉強して、大抵の本は読めるようになったが、どの本にも答えにつながるものはなかった。

イーラは一気に建物の上まで飛んだ。

ピアーズの屋敷を見渡す。

今は夏だ。日差しが少し痛い。庭には綺麗な緑色に染まって夏の花が咲いている。よく見ると、庭師のジャックとフィルが働いているのが見えた。

因みにイーラが乗っているほうきは、二人が使わなくなった古いものを貰った。

二人とも相変わらず仲が良く、幸せそうだ。

ジャックとフィルがイーラに気が付いたのか手を振る。イーラも手を振り返した。

昔はよく遊びに行って、お茶を御馳走になっていたが、最近勉強と仕事であまり行けていない。

それが理由でカイとも遊べていない。さっき喋ったのも久しぶりだ。少し寂しく思いながら、イーラは次の目的地に向かった。


「次はどこだっけ」


イーラはそう言って、届ける書類をバックから取り出す。


「えーっと……あっちだ」


目的地はすぐ近くの部屋だった。イーラはそのままふわりと飛んで、窓から部屋に入る。


「お届け物です」

「イーラ。ご苦労様って、うわ!風で書類が飛ぶ」

「あ、ごめん」


イーラの風魔法は威力を押さえているとはいえ、狭い部屋だとそれなりに風が舞う。イーラは慌てて床に降りる。

そうして、持ってきた書類を渡した。因みにここは、領内の経理を担当している部署だ。


「ありがとう。ついでに、これを秘書のヴィゴに渡してくれ」

「了解です。風ごめんなさい、書類は飛んで行かなかった?」


そう言うと、経理部署の人達は苦笑しつつも大丈夫という。


「今日は暑いから、丁度涼しくなったよ。ありがとう」


そんな会話をしてから、イーラは次の目的地に向かう。さっきと同じ要領で窓から飛んで出る。廊下や階段を使うより早いのだ。


「次は、食堂の方か」


イーラはそれを確認すると、くるりと回旋して食堂がある棟に降りる。


「あ、イーラ。丁度良かった、聞きたいことがあったんだ」


キッチンの裏手から、ヘンリーが出てきてイーラを見つけるとそう言った。


「どうしたの?」

「ちょっと、冷蔵庫の調子が悪いんだ。見てくれないか」

「いいよ」


イーラはそう言って地面に降りると、キッチンに入った。


「あまり冷えなくなって困ってるんだ。他の冷蔵庫は大丈夫だからまだいいけど、暑い時期だから、食材が無駄になる」


ヘンリーは困った顔で言う。

イーラは目的の冷蔵庫を調べる。冷蔵庫は魔力で動いている、魔法の勉強をしているイーラはその構造もある程度わかるのだ。

とは言え、専門的に勉強しているわけではないので原因は分かっても治せない場合もある。


「中にあるファンが止まってる。これは部品を交換してもらわないとダメみたい。専門技師を呼んだ方がいいね」


イーラは冷蔵庫を見た後言った。


「そっか……しかし、困ったな。腐りやすいものを早く使わないと」

「応急措置で、少しの間使えるように魔法をかけておくよ。こうしておけばしばらくは使えると思う」

「おお、ありがとう」


イーラは壊れた冷蔵庫に別の魔法をかける。


「『森羅万象に告ぐ全てを冷やし凍りつくせ』」


同じ作用でも魔法には色々な種類がある。これは時間が経てば消えてしまうが、魔法をかけた対象を冷やすことが出来るものだ。

因みにこの魔法もイーラが見つけた魔法の本に書いてある魔法の一つだ。

あの魔法の本は文字の発音と魔力さえあれば、簡単に高威力の魔法が使える。なんでイーラが読めるのかの謎以外は本当に便利でよく使っている。


「あ、そうだ。ヘンリーにも荷物が届いてたんだ」


そう言って、イーラはカバンからヘンリー宛ての荷物を取り出す。


「お、取り寄せてた調味料か。ありがとう……それにしても変わったな……」


荷物を受け取ったヘンリーが感慨深げに言った。


「なにが?」


イーラは首をかしげて聞く。


「初めて、ここに来たときはガリガリで。食事の仕方も知らなかったのに。こんなに頼りになる奴になるとは思わなかった」


そう言ってヘンリーは嬉しそうに、イーラの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「もう、子供じゃないんだから。撫でなくていいよ」


イーラが少し困ったように言うとヘンリーは笑う。


「まあ、まだまだ子供だしな」

「でも、ヘンリーも凄いよ。確か副料理長に昇進したんでしょ?」


ヘンリーの年齢からすれば、破格の昇進だ。そう言うとヘンリーはニヤリと笑う。


「まあ、まだまだこれからだ。目標にはほど遠い」

「頑張ってね」

「イーラも仕事頑張れ。あ、そうだ今日のおやつ持って行け」


そう言ってヘンリーはイーラにおやつの入った包みを渡す。


「ありがとう」


そうして、ほうきに乗ってイーラは配達を再開した。


「あ、そろそろ授業の時間だ」


あらかた配り終えると、勉強の時間になっていた。

イーラはほうきで飛んで、家庭教師のカーラの待つ部屋に向かい。窓から入った。


「間に合った。こんにちは、カーラ先生」


カーラは窓から入ってきたイーラを見て、呆れた表情になる。


「イーラ。いつも言ってますが、窓は出入りするためにあるんじゃないですよ」

「すみません先生。ドアの方に回ると遅れそうだったので」


そう答えたイーラに、カーラは諦めたようにまたため息をついた。


「まあ、いいでしょう。授業を始めます。課題はやってきましたか?」

「はい」


こうしてイーラの授業が始まった。

カーラはいつも通りのキリっとした表情で授業を進める。授業を聞きながら、ちらりとカーラ先生を見た。

カーラ先生と初めて会った時はその厳しい表情から、厳しく怖い人だと思った。しかし、勉強には厳しいが、根は優しい人だということはもう分かっている。頭ごなしに怒る事もないし、分からないところは根気強く教えてくれた。

イーラは習慣になった授業を始める。

しばらく授業を受けているとお腹が空いてきた。イーラはコッソリヘンリーから貰ったお菓子を取り出して食べる。


「イーラ、何を食べてるんですか?」


コッソリ食べたつもりだがすぐに見つかった。


「すいません。お腹が空いて……」


カーラ先生は呆れた顔をしつつも苦笑した。


「まあ、いいでしょう。そろそろ、休憩しましょうか」

「私、お茶を入れます」


イーラはそう言って、部屋のはしに置いてあるお茶のセットでお茶を入れる。魔法でお湯を沸かすとお茶を蒸らす。


「お茶を、入れるのも上手くなりましたね」

「ありがとうございます。あ、先生もヘンリーのお菓子食べますか?」

「ありがとうございます。いただきます」


そうして、二人で休憩する。


「美味しいですね」


カーラ先生はお菓子を食べてそう言った。


「美味しいですよね。ヘンリーのお菓子は世界一美味しいですから」


イーラがそう言うと、カーラ先生はふっと相好を崩し微笑んだ。

あんまり笑わないカーラだが、たまに笑うその笑顔はとても優しい。


「そう言えば、しばらく授業を休みにすると知らせがありました」

「え?そうなんですか?」

「ええ。ピアーズ様からです。いずれイーラにも詳しい知らせが来るでしょう」

「そうですか。でも、先生としばらく会えないの寂しいですね」


すると、カーラ先生は少し驚いた顔をしたがまた少し微笑んだ。


「まあ、何があるのか分かりませんが頑張って下さい」


そんなこんなで授業は進み、終わった頃には日が落ちていた。

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