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お前ソレ食えるんだぞ?

 俺が計画した堆肥作りと土壌改善計画は、次のようなものだった。


 まず、村の人をABC三つのグループに分ける。



 Aグループには、【家畜小屋の土】を、畑の近くに運んで土山を作ってもらう。


 その中には、今は落ち葉などを入れて混ぜてもらいつつ、今後、俺が調達してきた肥料と石灰を混ぜてもらう。


 家畜小屋の土は、長年家畜の糞尿を浴びているから、堆肥にしやすいのだ。


 Bグループには、石灰のせいで枯れた【畑の土】を掘り返して、家畜小屋に撒いてもらう。土の交換だ。


 Cグループには、馬糞を捨てていた【道の脇の土】を、掘り返した畑に入れて、客土作業をしてもらう。


 最初は、石灰で枯れた畑じゃなくて、汚染された畑に入れる予定だった。けど、枯れた畑があるならそっちが優先だ。


 汚染された畑は、ソバと麻の浄化能力でも対応できる。



 暴君を倒したナナミの紹介のおかげか、みんな俺のことを信じて、よく働いてくれた。



 作業はどこも順調で、異世界転移系主人公気分を味わえた。



 大工たちによる上総掘りのためのやぐら作りにも、特に問題がないことを確認してから、俺とナナミは、住宅区を後にした。



 今は、除草剤や化学肥料で汚染された畑を目指して歩いている。



 その途中、ナナミが感心した声を漏らした。



「それにしても、石灰が肥料ではなかったとは、騙されましたし驚きましたよ」


「はは、撒いた途端豊作になったら誰でも勘違いするよな。日本でも江戸時代に同じ事件が起こったよ」



 石灰は肥料ではない。


 石灰は、土中の微生物を活性化させて、土の生育を早めるだけだ。


 だから、肥料と石灰を一緒に撒くと、肥料は素早く土に還る。



 けれど、【石灰だけ】を撒くと、土の中の有機物が片っ端から消化され尽くして、土の栄養はガス欠を起こしてしまう。



 科学の発達していない江戸時代でも、石灰を撒くと最初は豊作になったので重宝されたが、年々凶作になるので、途中から使用禁止になってしまった。



「とにかく、今後は肥料、石灰、堆肥を上手く使って食料問題を解決するぞ。あと、汚染された土地には浄化効果のあるソバと麻を植えまくる。ソバは暑すぎると育たないから、この村は麻だな」


「そのことですが、収穫はいつ頃になりそうですか? ソバと麻は90日以上かかると会議室で言っていましたよね?」


「う~ん、それが問題なんだよな。今、俺がリストアップした生育の早い野菜の種と苗を調達して貰っているんだけど、どんなに生育の早い小松菜やミニトマトでも一か月はかかるし、主食になる程大量にとれるわけじゃない。今すぐ植えても多くの作物が収穫できるのは二か月以上先だ」



 井戸掘りに客土、堆肥作り。飯は増えないのに労働は増える。


 最初の二か月は地獄だ。



「今すぐ飯を増やすには、実はこれ食べられるんです系だけど……ナナミ、イナゴを食べるのに抵抗あるか?」


「イナゴって食べられるんですか? 金持ちがハチの子を食べるとは聞きますけど」


「食えるぞ。しかも結構うまい。俺が田舎の爺ちゃんの家に行ったときはイナゴの佃煮が毎日食卓に上がったぞ」



 けど、虫は虫だ。


 虫を食べることへの抵抗感、それが、昆虫食最大のネックなのだが、



「食べられるなら食べますよ。こっちは日本と違って本気で餓死者が出てますからね。ザリガニだと思えばイナゴぐらい余裕です」


「お前たくましいな」


「ふふん、ショウタがお坊ちゃまなんですよ」



 昆虫食で誇らしげにする女子に、俺はカルチャーショックを受けた。



「ですが、残念なことにイナゴの大量発生時期はまだ先です」


「うっわ、流石現実。ラノベみたいにご都合主義は起こらないか……」



 がっくりと肩を落として、俺は舗装されていない道を歩き続けた。



「近くに森も山もないなら山菜やキノコを採ることもできないよな」


「それに、教えてもらわなくても、食べられる草やキノコぐらい、この国の人間は全員熟知していますよ。山や森の近くに住む人々は山菜取りとキノコ狩りが日課です」


「やれやれ、現実は小説よりも奇なり、か」



 重たい足を引きずりながら、俺はやたらと葉っぱが大きくて、ナナミよりも背の高い植物の横を通り過ぎた。



「んあ!? ああ!?」


 思わず、足を止めて、二度見をしてしまった。



「どうしたのですかショウタ?」


「おま、これ……」



 口角を痙攣させながら、俺はその植物に取りついた。



 両手でがっしりと茎を握りしめて、両足を地面に突き立てて、背筋力で一気に引き抜いた。



「よいしょおおおお!」



 ずぼりと抜けたそれは、俺の予想通り、ゴボウだった。


 しかもかなり太くて長くて、日本のスーパーではお目にかかれないサイズだ。



「お前これ、ゴボウじゃねぇか、これ食えよ!」



 ナナミの眉間にしわが寄った。


「はっ? お前は何を言っているのですか? それ根っこですよ。いくらお腹が空いているからって植物の根にかじりつけって発展途上国の人間バカにしてます?」


「ちっげーよ! これ野菜なんだよ! 大根とかニンジンとかイモと同じ根菜類なんだよ!」


「えぇ? どこからどう見ても木の根っこじゃないですかそれ」


「え~~まじかぁ……」



 ナナミの視線は疑惑の塊で、私は騙されません、と訴えてくる。



 ――いや、待てよ。


 そういえば、聞いたことがある。



 ゴボウを食品として扱っている国は、世界でも日本だけだと。



 ナナミが言ったように、ゴボウはその見た目から世界中で【木の根っこ】と認識されている。



 第二次世界大戦中、ゴボウ料理を出された捕虜が戦後『木の根っこを食わせる拷問を受けた』と供述して、関係者の日本人に有罪判決が下ったのが、その証拠だ。



 日本以外の国では、せいぜい中国が漢方薬の材料にするぐらいらしい。



「お前なぁ、俺が人生の中で何十キロ分の金平ゴボウを食べてきたと思っているんだよ。嘘だと思うなら今夜これ食ってみせてやるから」


「本当に食材なんですか? そんなものでよければそこら中に生えてますよ?」


「へ?」


「ほら」



 ナナミが指をさしたほうへ視線を巡らせると、道から外れた草地に、ゴボウが群生していた。



 そこら中、ゴボウだらけだ。



「勝った!」



 その光景に、俺は口角を上げた。

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