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なんでテロリストなんかに協力してんだろ俺


 一時間後。



 俺は会議室のテーブルに着いて、紙にボールペンを走らせていた。



 生育が早くてすぐ食べられる作物の種類と、植える時期、必要な気候をリストアップすると、メンバーの一人に手渡した。



「そこに書いてある作物の種と苗をできるだけ集めてくれ。適した気候でないと育たないから、国内の土地と気候のデータをまとめて。あと国民を管理するために住民の戸籍、マイナンバーも作るように頼む。それから使用可能な農地、使えなくなった農地、湿地帯、乾燥地、痩せた土地のデータと、どこの村で家畜は何を飼っているかもまとめて欲しい」



 なんで俺、こんなことしているんだろうとは思うも、連中の腰に挿している銃を意識すれば、逆らう気にはならなかった。



「あと肥料とか詳しいことは、紙に書くよりもどこかの村で直接指示してやらせて、村の人たちがどんどん周りの村に広めていったほうが早いと思う」


「そうか」



 俺が縄を解かれてから、初めてオウカが口を開いた。



 オウカは立ち上がると、威圧感たっぷりに歩み寄ってくる。



 ――ひぃ、美人だけど怖ぇ。



「私はオウカ、本日をもって、この国の大統領に就任した。貴君の名を聞こう」

「た、たかはし、しょうたです」

「そうか、ならばショウタ、貴君に任務を与える。ナナミ、お前の故郷は首都郊外の農村だったな。ショウタを案内してやれ」

「え、こいつを私の村にですか?」



 ちょっと唇を尖らせて、ナナミは嫌そうな顔をした。



「そうだ。ショウタは貴君が連れてきたのだ。最後まで責任を持って管理しろ」

「りょ、了解です」



 しぶしぶ、ナナミは承諾した。俺だって行きたくねぇよ。



「言っておくがショウタ」

「はい!」



 ドスの利いた声に、思わず声が裏返ってしまう。



「貴君の話が嘘だった場合。また、逃げ出せばどうなるか、解っているな?」


 オウカの一言で、会議室の全メンバーが、腰の銃を引き抜き、不穏な音を鳴らした。



「ヒィッ!?」



 銃口を向けられながら、俺は頷いた。


 ――あぁ、余計なことを言うんじゃなかった……。


 俺は、一時間前の自分を猛烈に攻めた。




   ◆




 それから俺は、宮廷の駐車場に案内された。



 赤道に近いパシク国の気温は高く、六月なのに真夏日並の気温と日差しがキツイ。



 今すぐエアコンの効いた室内でアイスを食べたいも、拉致られた俺にそんな自由はない。



 しかも、目の前にあるのは、天井のないオープンタイプのジープだ。

 これでは、車内のエアコンも期待できない。



「お前の故郷って遠いのか?」

「安心してください。車なら一時間もあれば着きますよ」



 ――このクソ暑い中、一時間も車に乗るのかよ。



 早くも愚痴を言いたくなった。



「ほい、エンジン始動です」


 ぱっと見、俺より年下に見えるナナミが、慣れた手つきで車のキーを挿して回すのは、なんだか違和感があった。



「よし、じゃあお前が運転するのです」

「え、俺は人質だろ?」

「だからですよ。運転で手がふさがっていれば逃げられないでしょう」

「いや、俺、車の免許持っていないんだけど?」

「免許? 車を乗るのにそんなものがいるのですか?」

「この国ねぇのかよ。とにかく、運転なんてしたことないからわかんねえよ」


 カルチャーショックを受けながら俺が断ると、ナナミは可愛い眉間にしわを寄せた。



「四の五の言うなです。車なんてアクセル踏んだら進んでハンドル回せば曲がってブレーキを踏めば止まるんですから。子供でもできますよ」

「わかった、わかったから銃をしまえ」



 拳銃をチラつかせながら脅してくるナナミに屈して、俺はジープのドアを開け、運転席に座った。



 代わりに、ナナミは助手席に座って、拳銃片手に前方を指さした。

「では行くのです。あ、発進するときはクラッチを半分くらい踏んだ状態でアクセルを踏むのを忘れないように」

「あー、いわゆる半クラってやつか」



 半分がわからないので、一度完全に踏み込んでクラッチペダルの最大値をはかってから、俺はやや浅く踏んだ。



 ――これぐらいかな?



 それから、ゆっくりとアクセルを踏むと、ジープは徐々に動き始めた。



「おう、走った」

「そりゃ走りますよ。車ですから」


 ゲームセンターのレースゲームを思い出しながら運転すると、割とスムーズにジープは動いてくれた。


 そこからは、ナナミの指示に従って宮廷の敷地から出て、外の道路を走った。


 街の中を走るのは不安だったけど、道路はガラガラで走りやすかった。


 物資不足でみんなガソリンが無いか、貧しい国で、車が普及していないのが原因だろうか。


 ――ていうか俺、どうして人質なのにテロリストの国内統治に加担しているんだろ。まさか、これで共犯扱いされて将来逮捕されたりしないよな?


 日本の新聞に、テロリスト一味として自分の顔が載るのを想像すると、不安が募ってくる。


 本当は、今頃はハワイなのに。ビーチで水着美女たちと戯れている筈なのに。


 そうした想いが溢れて、俺は堪えられずに叫んだ。


「ああもう! 俺のハワイ修学旅行返せよぉおおおおおおおおお!」

「と、突然何なのですかお前は!?」


 助手席で、ナナミがぎょっと声を上げた。




   ◆




 一時間後。

 俺らは首都から離れ、荒野に敷かれた道路、と言ってもアスファルトで舗装もされていない地面の上を走っていた。


 日差しは強いし、ジープにはエアコンも天井ない反面、向かい風のおかげで、少しは暑さがまぎれる。それがせめてもの救いだ。


 しかし、新たに騒音問題が発生していた。そう、俺のすぐ隣で。


「というわけで、民を虐げる邪知暴虐の王を倒し、パシク国民を幸せにするべく、姉様は我々を率いて戦ったのです。どうですか? 姉様は凄いでしょう?」

「へいへいそいつは凄いな」

「む、お前、ちゃんと聞いているのですか?」

「聞いてる! 聞いてるから銃を下ろせ!」


 こっちは、初めての運転で事故らないか不安で、話なんて流し聞きが精いっぱいだ。


 なのに、ナナミはさっきから延々と、オウカがいかに素晴らしい人物であるかを聞かせてくる。


 うっとうしくてしょうがない。


 ——車は思い通りに動いてくれるけど、やっぱ緊張するな。それにこれ、急にエンストしたりしないだろうな?


 あるいは、何かにタイヤを取られてスリップして事故って、外に投げ出されたり。

 人生初の運転に、不安は尽きなかった。


 本当に、己の運命を恨む。


 ――美少女てんこ盛りの未開拓地で現代知識チートしたいとは思っていた。でも、拳銃を突き付けられて脅されたいとは思ってませんよ神様。ああ日本に帰りたい。


「人の話を聞いているのですか?」

「聞いてる! 聞いてるから銃口を頬にぐりぐりするな、暴発したら死ぬから!」


 他のメンバーと違って、外見の怖さはゼロだけど、どうしても銃には弱かった。


「いいですかショウタ。貴方は人質ではなく日本人協力者、というていにします」

「へ? なんでだ?」

「なんでもです!」


 ナナミの顔色が変わる。ばつの悪さを誤魔化すように、声を荒らげた。


「いいですか、村ではちゃんと働くのですよ。役に立てば、姉様もお前を悪いようにはしないのです」


 その言葉で、俺の中で何かがキュピンと光った。


 ――そうか、これは千載一遇の好機なんだ。これで役に立って連中のご機嫌を取れば、日本に返してもらえるかも。


 そうとわかれば、やる気も湧いてくる。


 ――見ていろよテロリスト共、俺の現代知識フォルダが火を噴くぜ。


 ノート50冊分の異世界転移計画書の力を見せてやると、心の中で意気込むと、不意にナナミがしおらしくなる。


「ショウタ……本当に、お前のやり方に従えば……みんな、お腹いっぱいご飯を食べられるのですか……」

「なんだよ急に?」

「だから……お前の言う通りにすれば、みんな、ひもじい思いをせず、日本人みたいに暮らせるのですか?」

「たぶんな」

「たぶんとはなんですか!?」

「銃を下ろせ銃を! 農業に絶対はないだろ! 天候で不作の年だってあるんだから! 絶対豊作になる方法とか言う奴がいたら信用するな! 俺もしねぇから!」



 釈然としない顔で唸りながら、ナナミは拳銃を下ろした。



「ふん、まぁ、豊かな先進国の知識がどれほどのものか、お手並み拝見なのですよ」



 鼻息を荒くしながら、ナナミはドカッと座席に座って、背もたれに体重を預けた。



「たく、物騒な奴だな。そんなんじゃ嫁の貰い手ねぇぞ」

「お前、人質のくせに態度がデカイですね」



 ジロリと、ナナミの視線が刺さってきた。



「はっ、俺を拉致った連中になんで敬語使わないといけないんだよ」



 下手に出ていたら対等な交渉なんて出来ないしな。


「ところでお前、年いくつだよ? 俺は今年で17だ」

「年? 今年で16歳ですけど?」

「やっぱ年下か。なら敬語はいらないな」

「年齢で人の上下を決めようとするとは、これだから先進国のお坊ちゃまは」



 やれやれ、とナナミは小馬鹿にした顔で首を振った。



「そういや、お前ら若い女しかいないけどなんでだ?」

「それはさっき言ったでしょう。お前ほんとうに人の話を聞いてないのですね!」

「そうだったか?」

「だから、姉様の父親は正義の軍人で、国王に逆らった罪で両親を殺されたあと、一人になった姉様がスラムの少女たちを率いて反政府組織を立ち上げたのがパシク解放軍の始まりなのです。それから、一人では生きていけない弱い少女たちが、売春などに手を染めなくてもいいよう、少女を中心に仲間を増やし、今に至ります」

「そういえばそうだったな」

「そうですよ、あと、姉様にはちゃんと敬語を使うのです。姉様はお前よりも年上なのです、18歳なのです」

「…………え?」



 オウカの美貌と豊乳が、脳裏をよぎった。



「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」

「だからうるさいのです!」



 ナナミの銃口が、俺の顔面を突き回した。

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