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修学旅行中にハイジャック!? 夢の人質ライフ!

 ハワイ行きの飛行機の中で、俺、高橋翔太は読書に勤しんでいた。


 周りでは、修学旅行に浮かれる同級生がはしゃぎ、担任の先生が注意を促している。


「まったく、みんなは子供だなぁ。俺のように大人っぽく上品に読書を楽しめないもんかね」


 俺がニヒルな笑みを浮かべると、隣に座る友人、鈴木鉄平が首を伸ばしてきた。


「で、自称大人のお前は何を読んでいるんだよ?」


「【異世界転移したって博学スキルで現代知識無双】シリーズの第5巻だ! お前も読むか? つうか読め!」


「また異世界転移系かよ、お前はそればっかだな……」


 辟易とした溜息をもらす友人に、俺はくちびるを尖らせた。


「なんだよ。異世界転移ものは最高なんだぞ! 日本の面倒なしがらみも人間関係もなにもない別世界……凡人の俺でもそこじゃチート能力で活躍して美少女に囲まれてハーレムで、当たり前の知識を喋るだけで偉大な発明家扱いで金もガバガバ入ってくるんだ。くっ~、異世界転移してぇ!」


 まだ見ぬ理想郷に思いを馳せて、思わずトリップしてしまう。


「たとえば今すぐ異世界転移したら、このパラシュートもオーバーテクロノロジーだな。異世界の職人に再現させて売り出せば大儲けだ」


 背中のパラシュートをさすって、鈴木に説明してやる。


 普通、飛行機の乗客にパラシュートなんて配られない。


 けど、今回は試験導入、だかなんだかで、乗客全員にパラシュートが配布されている。


 使う機会があるとは思えないけれど、背もたれのいいクッション代わりになっていて、読書が進む。


 鈴木が表情を曇らせた。


「いくら試験導入でも大袈裟だよな。ま、最近、世界的にハイジャックが増えているから、その対策だろうけど」


「修学旅行中にハイジャックとかラノベかよ。そんなことあるわけないのにな。むしろ現実にあり得ないからラノベのネタになるわけだし。あー、早く異世界転移しないかなぁ」


「ブーメランがデカすぎるぞ」


「実は俺、異世界転移したらどうするかの計画書まで練っているんだぜ」


「人の話聞けよ」


「俺が異世界転移したらまず堆肥作って農業無双してぇ、水汲みポンプ普及させてぇ、石鹸作ってぇ」


 家族で異世界転移を理解してくれる人がいないので、ここぞとばかりに、【ぼくのかんがえたさいきょうの異世界転移計画書】の内容を披露する。


 5年がかりで完成させた、ノート50冊分に及ぶ内容は丸暗記済みだ。


「異世界転移なんてできるわけないだろ。妄想乙」


 独演会を中断されて、俺は攻撃に転じた。


「うるせぇ。お前だってゾンビパニックシミュレーションしてるじゃねぇか」


「残念でした。異世界転移と違ってゾンビパニックならワンチャンあるんだよ。今だってきっとどこかの製薬会社がゾンビウィルスを作っているに違いないんだ。そうしたら俺は鉄パイプの先端に包丁をくくりつけて即席の槍を作って、それから釘を打つエアーネイラーを改造して銃にしてスーパーマーケットに立てこもって俺以外の男とクソ女が次々ゾンビに食われて俺と美少女たちだけが生き延びてそれからそれから」


「んな上手くいくかよ。どうせお前なんてパニクって一人で逃げるのがオチだろ」


「馬鹿にするな! 俺は非常時には誰よりもクールに柔軟に対応できる男だぜ。そして俺はゾンビパニックの英雄として歴史に名を残して美少女たちとグフフフ」


「けっ、一生言ってろ」


 妄想世界にトリップする友人を横目で睨んでから、俺は気だるい息をついた。


「つうか異世界転移が流行るのって、結局、日本が駄目過ぎるからだよなぁ」


 日本が楽しくて、国民が夢と希望を持って努力できる国なら、異世界転移なんて流行らない。


 異世界転移の大攻勢、大隆盛、ブームが終わったと言われつつ、現実は新作アニメも新コミカライズ作品も、ウェブの人気新作も、異世界転移やそれに準ずる事実上の異世界転移系列、異世界転移分校ばかりだ。


 主人公が現代高校生ではなく、異世界の現地民だから普通のファンタジーかと思えば、


【冴えない俺がチートスキルに目覚めて冒険者ギルドでチーレムしちゃうぜ】


 という内容だ。



 ストーリーも、チートスキルに目覚めた途端、

 都合よく美少女たちと知り合い、

 都合よく助けた美少女が貴族王族の娘で、

 都合よく大規模クエストが発生してそれを独力で解決して英雄に。

 という内容だ。



 なんて素晴らしいご都合主義だ。うらやまけしからん。

 俺もなってみたい俺と代われ。俺も異世界に行きたい。


 ようするに、読者はみんな知っているのだ。


 日本は、努力して幸せになれる社会じゃない。


 いくら頑張っても、自分は何者にもなれない、と。


 テレビやネットを見ていればわかる。


 生まれた家庭の経済力で学歴が決まり、学歴で収入が決まり、その後の人生と自分の子供の将来も決まる。


 努力でカバーしようにも、富裕層同士の人脈やコネには勝てない。


 そうした格差を埋めるのが政治家の仕事だけど、日本の政治家は無能の極みだ。


 ことわざを見ればその国の体質がわかる。そして日本では【作業が遅いうえに効果がない仕事】のことを【お役所仕事】と呼ぶ。つまりはそういうことだ。


 一万円札の肖像画である福沢諭吉も言っている。日本の政治家は政治家になるのがゴールだから国民の将来を真面目に考えていないってな。


 少子高齢化で将来は財政破綻するとわかっているのに政治家は無策。


 予算が足りなければ増税するだけ。


 そのくせに金をドブに捨てるような政策を乱発。


 貧困層を切り捨てる一方で自分たちの待遇と保証ばかり手厚くする。


 野党は与党批判、与党は国民への誤魔化しと隠ぺいばかりだ。


 こんな国で頑張ろうと思えるわけがない。


 将来に希望を持てるわけがない。


 一部の人は、文句があるなら国会議員になって国を変えろと言うが、多数決の原理があるのに政治家一人で何ができる? 


 衆議院465人の半分、233人が味方でないと何も変わらないのに。


 だいたい選挙費用には何千万もかかる。政治家に立候補すること事態、金持ちにしかできないんだ。


 いつか、麒麟児のような総理が現れて、異世界転移主人公みたいに国を良くしてくれないかと期待したこともあったけど、そんなことあるわけがない。


 現実は小説よりも奇なりとは言うけれど、現実は小説よりも退屈で変化が無い。


「あーあ、日本じゃないどこかでチートしてぇなぁ」


「だな」


 ゾンビパニックで一発逆転を狙う鈴木も、一緒に溜息をついた。


 一発の銃声が響いたのは、その時だった。


 乾いた音に、機内が水を打ったように静まり返った。


 何人かの女性客が立ち上がり、上着を脱ぎ捨てて叫んだ。


「突然だが! この飛行機は我々が頂いた! 我々はパシク解放軍! 太平洋国家、パシク王国を王の圧政から解放するべく立ち上がった義士! お前たちには日本政府から支援を引き出すための人質になってもらう!」


 少女も混じる女性たちは、全員同じ格好をしていた。


 全員、灰色のニーソックスに象牙色の短パン、暗い黄緑色のノースリーブTシャツ姿で、いわゆるカーキ色の服装だった。



 手には拳銃かサブマシンガンを握り、銃口を俺らに向けている。


 ——なにこれ避難訓練!? ドッキリ!? でも天井の銃痕本物だよな? あの拳銃本物? 本物なのか!?


 本当に起こったハイジャック事件に、俺はバクバクうるさい胸を手で押さえながら、息を殺した。


 俺は主人公無いしチートもないただの高校生だ。


 ハイジャック事件なら、テレビで何度も再現ドラマを見ている。


 解決するのは警察の仕事だ。


 俺にできるのは、犯人を刺激しないよう、小さくなることだけだ。


「おい鈴木、犯人を刺激するなよ……鈴木?」


 隣の席に座る友人の顔を盗み見ると、様子がおかしかった。


 鈴木は青ざめ、震えながら、白目を剥いていた。


 こいつビビリすぎだろ。


「おい落ち着けよ、お前は非常時には誰よりもクールに柔軟に対応できる男なんだろ?」


 言って、鈴木の肩に手を置いた直後。


「にゅあぁあああああああああああああああああああああああああ!」



 謎の奇声を発して、鈴木は立ち上がった。


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 本作を読んでくれてありがとうございます。

 本作は予告なく、タイトルが変わることがあるので、続けて読みたいと思っていただける方は、ブックマークするか、私の名前、鏡銀鉢で検索してください。



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