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卒業式は3月9日に行われる。
つまり、今日だ。
式の間、暖かくなってきた日差しは体育館の窓から射し込み、冷える体育館の空気を少しだけ和らげていた。
卒業式は恙無く始まり、終わった。
多くの生徒と同じく、瑠璃花も3年間を思いだした。
同級生と沢山の思い出を話ながら校庭に出た瑠璃花は写真を撮りながらも、辺りを見回した。
皐月はどこにいるのだろうか。
雄大に告白された日から今日まで瑠璃花は学校に来ていなかった。
特別に登校しなければいけない理由はなく、掃除手伝いという大義名分もない今、皐月と二人きりにはなれないと思ったし、何より告白すると決めたらつい先延ばしにしてしまったからだ。
会いたい、と思いつつ、怖い、とも感じている。
雄大は告白すればスッキリすると言っていたが、本当にそうだろうか。
別に言わなくてもいいと思っている自分がいることに瑠璃花はため息をついた。
「…一ノ瀬さん」
うーん、と一人で唸っていた瑠璃花は背後から声をかけられ振り返った。
「…大畑くん。卒業おめでとう」
「あ、おめでとうございます。…あのさ、例の件どうなった?」
周囲を憚ってか、告白とは言わず雄大は瑠璃花に問いかける。
困ったように笑いながら瑠璃花は首を振った。
「…まだ言ってないんだ。どこにいるかもわかってないの」
卒業式には当然出ていたし、どこかにいることも確かなのだが、姿が見えない。
卒業生に囲まれているのかもしれない、と考えると憂鬱になるが、これが皐月と会う最後の機会だと思えば、やっぱり気持ちを伝えておきたいとも思う。
目で皐月を探す瑠璃花に雄大がスマホを見せた。
「…連絡先だけ交換しておきたくて」
雄大に笑って頷き、自身のスマホを取り出した瑠璃花は雄大とスマホを見せ合う。
ふっと視線を上げた瑠璃花は雄大の向こうに皐月を見つけた。
皐月は瑠璃花を見つけたのか、微かに笑う。
その笑顔に胸が高鳴る。
瑠璃花は雄大と早々に話を切り上げ、皐月の方へと向かって行った。
皐月は瑠璃花が近づいてきているのに気づいているのに、その場から動き出す。
慌てて追う瑠璃花と付かず離れずの距離を保ち、皐月は徐々に人気のない方へと進んでいく。
まるで誘い出されているようだ。
皐月の誘導に乗せられて瑠璃花は体育館の裏側へと進んでいく。
生徒も教師も保護者も、徐々に姿を消していく。
完全に姿が見えなくなった時には、第2グラウンドの用具倉庫まで来ていた。
そこまで来て皐月は瑠璃花を振り返った。
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