END
あれから一年。
俺達は、今日結婚する。
絶対同じ日に!一緒に結婚祝いがしたい!って言う夢香に逆らえず、二人揃って「まっいいか」ってなって。
夢香の御実家と、流亜は、仲が良かった。
流亜の実母は、高校に上がって直ぐに心筋梗塞で亡くなったそうだ。
それを聞きつけたお父さんが、家族を説得して流亜を引き取った。
皆、凄く良くしてくれたけれど、ここに長く居ちゃいけないと思って、大学入学と同時に一人暮らしを始め、そのままらしい。
だけど寂しがった夢香が、姉の就職先を受けて合格。見事姉の後輩に収まった。
苗字が違うから、最初は姉妹だと思われなかったそうだ。それがバレたのは夢香が言って回ったからだとか。
夢香は、お姉ちゃんが大好きだった。
今でもそうか。
昔はもっとベッタリしてて、姉が男に絡まれてるのを何度も助けたとかなんとか。
それから春斗に出会って、俺を知って、この人なら!とだいぶ最初の頃から目をつけられていたらしい。
そんな夢香の経っての願いだ。やっぱり姉と兄としては聞いてあげたいじゃないか。
感謝もあるし。
ちなみに御実家へ挨拶に伺ったら、家族総出でお出迎えされて、凄く喜ばれた。
うちも同じだった。というより、うちの場合は「息子が女優を連れてきた!」ってちょっとした騒ぎになったくらい。女優じゃないけど。
とにかく俺達は、双方の家も大歓迎の上で結婚を迎えることが出来た。
ホント、反対されなくてよかった。
帰宅後二人で安堵の息を吐いたのは、言うまでもないか。
俺たちは本当に、内面が良く似てた。
俺も、琉亜もお互いを分かりあうまでそんなに時間を必要としなかった。
二人で居れば、煩わしさとも解放された。
まさに理想。最高のパートナーだ。
ちなみに、もう半年前から同棲を開始している。
俺が設計した高層マンションの一室だ。
色々諦めてたので、老後の親の面倒を見るつもりでかなり部屋数の多い物件を買っておいて良かった。
ま、気に入ったのは景色なんだけどな。
琉亜に初めて見せた時、感動してくれた。
都会の夜景と海の景色。
ここで一緒に暮らさないかと言ったら、泣いて喜んでくれた。
俺、この家買ってよかった。かなり無理したけど。
おかげで食費も交際費もギリギリだったけど。
琉亜の為に買ったんだと思ったら、おつりが出るくらいの出費だ。
よくやった。グッジョブ俺。
さて、今日の会場は『ゼロ』だ。
実は近くに教会が立ったとかで、『ゼロ』でも結婚式をやるようになった。
海の見えるテラスに簡易教会を作って、近くの教会から出張神父を呼ぶんだ。
今日は親族だけの小さな式。
最も親しい友人と言える代表の春斗が、身内になっちゃったからな。
俺も、琉亜も、それだけで十分だと言う事になった。
会社なんかに向けての二次会は、後日都内で行う予定だ。
今日は気の置ける仲間とだけ祝うことになってる。
煩わしいのはゴメンだからな。
木乃美にはコース料理を頼んだ。おいしいやつ。絶対に皆が満足すること請け合いだ。
そうそう。木乃美のご主人な、なんと銀行辞めてソムリエの資格を取って、今一緒に働いてるんだ。
木乃美にべた惚れで、凄いんだこれが。嫁自慢が。
店じまいの時間に来ると、永遠と聞かされるんだよ。
俺達ともあっという間に意気投合して、今じゃ家族ぐるみの付き合いだ。
最初物凄い敵意を向けられたんだけど、何だったんだろうなあれは。
「おい、凌空兄ちゃん。嫁さん準備出来たぞ」
「やめろよ気持ち悪い」
春斗が控室の入り口から顔を覗かせる。
今日の俺たちは、あの日と逆。春斗はスーツで俺は白のタキシード。
背の高さの所為で、特注になるのが痛いところだ。
今日しか着ないのにな・・・
でも、琉亜が喜んでくれるなら、俺はそれでもいいと思うことにしたんだ。
「おお。凌空、男前」
「勘弁してくれ」
「まあまあ。これなら釣り合い取れてっかな」
「どういう事だよ」
「琉亜姉すっげえから、腰ぬかすなよ?」
「いやあ、どうかな。襲いたくなるかも」
「それは後でやれ後で」
笑いながら新郎控室を後にして、俺たちは琉亜の居る新婦控室へ向かった。
※ ※ ※
ドアを開けて、俺は固まった。
すごいなんてもんじゃない。どこの雑誌の撮影だろうかってくらい、琉亜が綺麗だ。
普段はあまり化粧をしない琉亜も、今日ばかりはモデル顔負けのメイクで、いつもの倍は美しさが凄い。
普段ストレートで降ろしている髪も、今日ばかりはカーラーで巻かれて、ふんわりアップヘアだ。
髪には生花で作った髪飾りが左右から大きく彼女の側頭部を包んでいる。
それがけばけばしいわけじゃなくて、凄く控えめに見える。白と青の花飾り。黒い髪に良く映えている。
耳にも大きめの、垂れ下がる長いピアス。
真珠をメインにしたそのピアスは、幾重にも重なるように涙型を描く。
首周りはもうドレスの一部だ。総レースの襟には真珠とかいろいろな石がキラキラしてて、ネックレスの代わりに彩っている。
ウエディングドレスは、アメリカンネックのAラインタイプ、と言うらしい。
胸から上の部分は総レースで、所々に光る石が付いてる。スワロフスキーだったかな?
腰はきゅっと締まっていて、その下のドレス部分は広がり過ぎない程度にふんわりとしている。
スカート部分のフロントには、下から蔦が伸びるような刺繍が中央に集まるように施されていて、それがラインとなって足が更に長く見えた。
後ろは腰に小さなリボンが付けられていて、ドレス後部を覆うようにチュールが広がっている。それにも刺繍が施されてて、花の柄にスワロフスキークリスタルが縫い付けてある。
所々パールをあしらったそのドレスは、本当にきれいに琉亜を飾っていた。
「・・・すっげぇ・・・」
「え、と。おかしくない?」
「これをおかしいって言ったら、俺の目が疑われるよ」
「・・・ほんと?なんか自信なくて」
きょろきょろと、ドレスを見回す彼女に、俺は近づいてその手を取った。
「世界一、綺麗だよ」
彼女の顔が赤くなる。
あ、濃い化粧かと思ったらそうでもないのな。
元々色が白いから、ファンデ薄いんだな。赤くなったのがしっかりわかったよ。
「もう、やめてよ」
「なんでだよ。本当に綺麗なのに」
俺は彼女の耳元に顔を寄せて、耳にキスをした。
「ひゃっ」
「化粧落ちたらいけないから、ここな」
そういって、いたずらっぽく笑う。
そうしたら、彼女は俺の腕を叩いてきた。
「いて」
「もう!」
ちょっと怒ったかな?いかんいかん。
ほどほどにしなきゃな。これからが本番なんだから。
「凌空も、世界一、かっこいいわ」
「え?本当に?いつもの俺だよ?」
「いつも!世界一かっこいいの!もう!」
そんな事言わせないでよ!っていう幻聴が聞こえた気がした。
ぷーっと膨れた彼女を見て、自然と笑顔になる。
俺は彼女の手を掴んで引き寄せた。
彼女は俺の腕にすっぽりと収まる。
その耳元にささやきかける。
「本当に、最高だよ。俺のお姫様」
「凌空・・・」
甘い空気が広がった。そのまま口づけをしてしまいそうになる。
「あー、ゴホン!」
春斗を忘れてた。わざとらしい咳払いしやがって。
俺が春斗に目を向けると、ニヤニヤしてるし。だよな。俺でもニヤニヤするわ。
「そういうのは終わってからな!」
「・・・ちょっとだけ」
「駄目!凌空兄!そのドレス作るのに何か月かかってると思ってるの!?」
春斗の後ろから出てきたのは、この度俺の妹になる夢香だ。
夢香は本気で怒っている。
それもそのはずで。なんとこのドレス、三か月かけて夢香が同僚の助けを借りて縫い上げた物だった。
この姉妹の職場は、とある服飾ブランドメーカーで、姉はデザイン部署、妹はパタンナーだった。
姉はわりと職場が長い。もう平社員でもない。
なので、彼女の部下達は腕に寄りを掛けて、威信にかけてこのドレスを仕上げてきた。
本当に、凄いよな。
彼女にぴったりの、すっげえ似合う一着だ。
俺のは次いでだ。ついででも作ってくれたのがすごいけど。
それよりも凄いのは、これ、タダなんだよ。全部。
部署総出の結婚祝いだって、全部くれたんだ。
お金、出し合って作ってくれたんだって。仕事外の時間で。
うちの琉亜は愛されてるよな。ホントに。
本人はまだ、人付き合い苦手だと思っているみたいだけど、こんだけ誠意で示されてるんだ。疑っちゃダメだろ。
ちなみに、制作にかかった皆さんは、全員二次会にご招待してる。会費?取れないよそんなの。
二次会でもこのドレスを着る予定だから、本当に、今壊したら夢香に泣かれるな。
でもな、実は後二着あるんだぜ。ドレス。手作り。
お色直ししちゃうんだぜ、レストランウエディングで。
今日一番の楽しみは、それかも知れないと俺は思う。
だって、普段着飾らない琉亜だもん。
今日の琉亜には目いっぱい楽しんで欲しいし、俺はその綺麗な姿が見たいんだよ。
写真も頼んだ。一生残すんだ。今日この日を。
「わかったって。ちょっと待ってろお前ら。俺まだ大事な事言って無いから」
「何?」
入り口の二人に手を振って、俺はもう一度琉亜を見る。
「俺と結婚してくれて、ありがとう」
その右手の甲にキスを送った。
琉亜の顔が、ボンッって思がするんじゃないかってくらい一瞬で真っ赤になった。
「ちょ!凌空!お前!」
「くさい!くさすぎる!」
「うっさい!黙ってろ!」
アホ夫婦に言われて、俺の顔も赤くなる。
「・・・ふふっ」
その様子を見て、琉亜が笑う。
緊張が解けたみたいだな。良かった。
「お前マジか。ずっと言おうと思ってたのか」
「そうだよ。悪いか」
「うわっ、鳥肌立った。言ったことが悪いんじゃなくて、言い方だよ。手にチューだよ、手にチュー。どこのお貴族様よ。うっわ鳥肌止まんないんだけど」
「そこまで気持ち悪くねえよ!」
「あはっ!あははははっ!」
「あ!琉亜姉!笑い過ぎて泣いちゃだめよ!それは後に取っといて!」
「誰の所為だ誰の!」
「お前だろ!」
琉亜の笑いは止まらない。
その笑い声は、すごく幸せそうで。
バカップルと喧々諤々としながら、本当に結婚できて良かったと、俺は思うんだ。
俺の心は、その笑い声で満たされてしまうのだから。
※ ※ ※
その日、港の見えるレストランに、鐘の音が鳴った。
その音はスピーカーから聞こえてきたけれど、二人には関係のない事だった。
ただただ、幸せ。
小さな結婚式の、大きな幸せ。
それを参加者全員に分け与えて、参加者全員から、幸せを貰って。
そうして彼らは、これから始まる。
お付き合い有難うございました。
切りどころに悩みましたが、内容に変化はありません。
ぶつ切りで読みやすくなれば幸いです。
二万字弱をスクロールって苦痛ですよね。すみませんでした。
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