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運命の人  作者: 梅干 茶子
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木乃美


 テラスの様子は、実は店内から見えてる。

 あいつらは海ばっかり見て気が付いてないみたいだけどな。

 厨房と店内を繋ぐカウンター越しに、私―――木下木乃美は、春斗と夢香と一緒に見てた。


 「ひゅー!やった!」


 二人がキスをした瞬間、横の夫婦二人から拍手が出た。


 「―――ふん。あてられたな」

 「取られちゃったな木乃美」

 「何言ってるんだ。あいつは私のもんじゃない」


 ひらひらと手を振って、私は厨房の奥に引っ込んだ。

 もうすぐ二人が戻ってくるだろう。外は暑いだろうから、冷たい飲み物でも用意してやろう。


 「木乃美さん、凌空さん好きだったんですか?」

 「ん?いや・・・そうだな。昔好きだったことはある」


 それはまだ、高校の時だ。

 でも私はその気持ちを微塵も言わなかったし、相手に感じさせたこともない。

 女子の中ではあいつが警戒しないことを良い事に近くにいたが、結局友人止まりだった。

 あわよくば、って思わなかったわけじゃない。

 フランスに行くときに絵葉書をねだったのも、繋がりが切れるのが怖かったからだ。


 ま、春斗は気が付いていたみたいだけど。

 凌空の方は全然、気が付かなかったみたいだ。


 「なんか、すみません・・・私、割り込んじゃったみたいで・・・」


 夢香が口元に手を当てて、本当に申し訳なさそうにしている。

 別にもう、気にすることじゃないんだけどな。


 「いや、あいつが幸せになるのは、私も嬉しい。あいつ、見た目と違ってすっごい不器用だったからな」


 冷凍庫から五人分のグラスを出す。

 保冷庫からは白ワインだ。


 「それは友人として?」


 春斗が意地悪く聞く。こいつは本当に、性格悪いな。


 「友人として。当たり前だろ。いつの話をしてるんだ」

 「だって、木乃美も浮いた話ないじゃん」

 「あれ?言ってなかったか?あるぞ、浮いた話」

 「え!?」


 意地悪春斗を驚かすのは楽しい。

 私はケラケラと笑う。


 「半年後に結婚する予定だ」

 「ええ!?相手は!?」

 「ここをオープンするときにお世話になった銀行員」

 「マジか!」

 「マジだ」


 額に手を当てて、あちゃーって言ってる春斗は楽しい。

 横で両手で口を覆って驚いている夢香は可愛い。

 背が高くて不器用な凌空は弟みたいな感じ。

 お相手の琉亜さんはすごい美人だった。モデルか女優なんじゃないの?ていう人だ。


 ああいいな。この仲間は最高だな。


 私はなんだか嬉しくなって笑ってしまう。


 「お、おめでとうございます!」


 なぜか私からワインをひったくる夢香。


 「俺あいつら呼んでくる!」


 走り出す春斗。


 「・・・別にいいのに」


 お祝いはみんなでってか?嬉しいよ。凄く嬉しい。

 けど、それを出すのは照れ臭い。

 私は苦笑して見送る。


 「・・・もう一本、出そうか」

 「そうですね。仕事後なのに済みません」

 「いや、私も飲みたい気分だし。どうせあいつらの話も全部聞くんだろうし」


 そう言って、はっとした。


 「ごめん、今日は春斗と夢香の結婚式なのに・・・」


 夢香を見ると、嬉しそうに笑ってる。


 「いいえ、私、この日にお姉ちゃんをくっ付けたかったんですよ。一緒にお祝いしたくて。それに木乃美さんが増えて、すごいですね!みんなお祝いできる!」


 言ってるうちに興奮したのか、言葉の後半はワインを持ったまんま飛び跳ねた。三回くらい。

 夢香は本当に可愛い。妹に欲しいくらいだ。


 あ、でも、もし凌空と琉亜さんが結婚したら・・・春斗と凌空は兄弟?

 あいつ気が付いてるかな。

 夢香が妹なのは問題無いだろうけど、春斗が弟ってキツイな。


 考えたら笑えた。逆だろ。

 春斗はいつも凌空の面倒を見てたからな。


 「よし、とっておきを出そう」


 私はワインセラーから、お気に入りの一本を出す。

 結構高い赤ワイン。

 仕入れの時に気に入って、自分用にと取り置いていたとっておき。

 今日こいつらの為に空けるなら、惜しくない。


 「私から、春斗と夢香へのお祝いだ」

 「え!」

 「ちゃんと言ってなかったよな?おめでとう」


 そう言って、栓を開ける。


 「おい春斗!早く戻ってこないとうまいワイン開けちまうぞ!」

 「ええ!?」


 怒鳴りながら夢香のグラスにワインを入れる。

 横の春斗のグラスにも入れてやる。

 あと三つ、全部入れるとワインボトルは空になる。

 大瓶じゃないから、こんなもんだ。


 「白いのは後にしよう。こっちの方が春斗と夢香が好きな味だから」


 笑顔で夢香から白ワインを受け取って、机の隅に置いた。

 春斗も夢香も、結婚が決まってから毎週ここに夕食を食べに来てた。

 気に入ってくれたようで嬉しかった。うちの初めての常連夫婦だ。

 だから、このワインは感謝の気持ち。


 「う、うえええん!木乃美お姉様~!!」

 「お、おい・・・お姉様はヤメロ・・・」


 夢香が本当に泣きながら抱きついてきた。

 仕方がないので、頭をポンポンとやってやる。


 「ま、なんかあったらここに逃げてくるといい。春斗にガツンと言ってやるから」

 「頼りにしてます~!」

 「あ!何嫁泣かしてるんだよ!」

 「お前が凌空ばっかりにかまうからだろ」

 「ええ!?そうなの!?心当たりがあり過ぎるんだけど!?」

 「・・・冗談だよ」


 またその反応に笑う。

 夢香も涙を拭いながら笑ってる。


 テラスから、凌空が琉亜さんをエスコートして戻ってくる。

 ああ、あいつ。ちゃんとエスコート出来たんだな。


 なんだか誇らしくなった。


 私の愛した男が立派になりました、ってか。

 あ、駄目だ。凌空顔真っ赤じゃん。


 私はまた、笑った。



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