親友の結婚式
短編で投稿したのが間違いな長さだったので分割しました。
人の結婚式に出るのは、今年何度目だろうか。
広く浅く、友人の多い俺は、何かとこういう行事に呼ばれやすい。
六月だけでもう三件目だ。
正直財布が痛い。ついでに胃も痛い。
今月の給料日まではこれで終わりだけど、それまで後五日間を二千円だ。
・・・無理だろ、と思う。
冷蔵庫にもろくな食材は無かったから、手作りして乗り切るのも難しい。
はぁ。カップラーメン箱買いして凌ぐか・・・
ザワザワと人の多い披露宴会場で、俺はそんな事を思っていた。
「それでぇ、凌空さんはぁ、恋人とか居ないんですか~?」
化粧の濃い、完全に今日はキメてきました!って感じの女性が先程からしつこく声をかけてくる。
ほぼ話を聞いていなかったので、何がそれでなのかサッパリわからない。
俺の背後には、控えた女性が後二人居る。三人組なのかと思ったら、どうやら違うらしい。
それぞれ別なのかな。お互いに声を掛け合っている様子はないから。
今日は多いな・・・俺なんか、金もないのによく寄ってくるよ。
ホテル代も出ないのに、お持ち帰りなんかするわけないだろ。
・・・正直、ウザイ。
「あー。居ないけど、俺好みが厳しくてね〜」
君は好みじゃないと、言外に示して笑顔で返す。
大抵の女性はコレで引く。
顔は良いけど口が悪い。
コレが俺の評価だから。
「えぇ~?じゃあ、この後私が好み似合うかどうか、試して下さいよぉ。一緒に飲みに行ってぇ」
「あぁ。新郎空いたみたいだ。ちょっと声かけてくるわ」
ニコニコ微笑んだまま、ビール瓶片手に俺はさっさと席を立つ。
ただ単に、タイプじゃない。
化粧が濃すぎるのも問題だが、俺のタイプはこういう馴れ馴れしい女性じゃない。
オドオドするのも得意じゃない。イライラするから。
どちらかというと、気の強い女が良い。そういう女性は中身が案外もろい。
そこを助けつつ主導権を握るのが俺の好みだ。俺は完全に攻め手だから。
披露宴中の、食事と歓談の時間だ。新婦はお色直しに立っているから居ない。
新郎の周りには、さっきまで奴の会社の上司が壁を作っていた。
その人たちがゾロゾロ席へ戻っていく。
合間を縫うように、配膳のスタッフが次々食事や飲み物を運んで居た。
俺はその間を縫うように新郎に向かう。
赤い顔してるが、緊張で酔えない新郎は俺に気づいて明らかにほっと息を抜いた。
「おー、春斗。おめでとなー」
「なんだよその気の抜けた言い方は」
一応、祝いのビールをコップに継ぎ足してやる。
全然減っていないコップに、嫌がらせのように表面すれすれまで入れてやった。
「いや、俺の今月、残り日数が怖くてな」
「なんだ?金か?」
「そー。金欠。お前で三件目だぞ結婚式」
「祝いの席でそんな話かよ。最悪食いに来るか?俺んとこ」
「やだよ。なんで新婚夫婦の家に結婚式翌日から転がり込まなきゃいけないんだよ」
「俺の嫁さん料理美味いぞ?」
「知ってるよ。飯食ってるときに目の前でイチャイチャされる身にもなれよ」
「あはは。じゃあ今日は旨い料理沢山食ってけ。試食してここに決めたんだ。料理はなかなかいいぞ」
「知ってる。すげえ食ってる。ただ、女がウザイ」
「ああ。仕方ないさ。お前の顔は女ホイホイだからな」
「ひでえな。俺は好きでこの顔してんじゃねえぞ」
「いいじゃないか。イケメンで。選びたい放題」
「好みがいねえ」
「そりゃ残念」
春斗は笑いながらビールに口を付けた。一口飲んで、コップを置く。
顔が真っ赤なのにこぼさないとは流石だ。
「そうだ。そんなお前に朗報。今日二次会にお前のドンピシャの子を呼んである」
「何?マジで?」
「おう。嫁さんの先輩だ。行き遅れてて焦ってるから、お前が良ければすぐ持って帰れるんじゃないか?」
「お前、俺がそういうの苦手だって知ってるだろ・・・」
「あはは」
春斗との付き合いは高校時代からだ。
広く浅く人付き合いをする俺が、唯一親友と言えるのがこいつだ。
そりゃ、金銭的に厳しくても、結婚式に出席する。
出ないなんてことは考えられないくらいだ。こいつには世話になってるしな。
大体今月の結婚式は、会社の先輩、従弟、コイツ、だ。どれもこれも断れなかった。
俺は高校時代、女教師とデキた。ひどい遊ばれ方をして終わったので、正直黒歴史だ。
大学でも卒業間近の先輩とデキた。だが、先輩は就職した途端、他の男に乗り換えた。
付き合ってみたら、案外つまらなかった。
そう言われた。
かなりショックだった。結婚まで考えていたから。
それ以来、俺は女っ気が無い。
怖くて手が出せない。
そう、俺は自分で思う程攻めてない。呆れるくらい奥手だ。
理想と現実は違うもの、それを嫌というほど思い知らされた。
春斗はそれを全部知ってる。
俺が年上にめっきり弱いことも知っている。
それと、気に入った女子に滅多に声をかけられないほど奥手になってしまったことも。
お陰で会った初日にお持ち帰りしたことは、今まで一度もない。
大体は、他の女に声をかけられてるのを見られて、遊び人かと誤解されて、終わる。
俺の好みの女は、近寄ってすら来ないのだ。
仕事は一級建築士。
四年生の建築系大学を卒業、と同時に二級建築士を取得。
大手に就職して四年の実技を経て、二年前ようやく一級に合格した。
高学歴、高身長、高スペック、高収入。
はっきり言って「優良物件」だ。自分でもそう思う。
そして、自分と同じくらいの優良物件だった春斗が今日、結婚した。
ますます女どもは俺に寄って来るだろう。
溜息が出る。
俺は女遊びが苦手なのだ。
「ま、俺達ももう二十八だ。結婚までいかなくても、相手がいてもいい年だろ?」
「そうなんだがな・・・」
「親とか親戚とか、うるさいだろ」
「・・・見合い話ばっかり持ってくるよ。正月とかマジできつい」
「だろ?今日は、二次会楽しみにしとけよ?」
「・・・ああ。そうだな。それよか春斗、本当におめでとうな。夢香さん大事にしろよ?」
「わかってるよ。俺にはもったいないくらいの嫁だからな。俺も頑張らなきゃな」
「とりあえず、酔って吐くなよ。酒は下のバケツに入れるんだって聞いたぞ」
「あるぞ、机の下に」
「一杯になるまで使ってやれ。もしくは、俺が注いだ分飲まないで、一杯ですって言って乗り切れ」
「ああ。ありがとな」
ひらひらと手を振って席に戻ろうとして・・・女が待っているのでゲンナリした。
はあ、後どれくらいで式が終わるんだ。
春斗のおじさんやおばさんへの挨拶も、春斗の会社関係の人への顔つなぎも終わってしまった。
そうなると、会場内で席を立って移動する理由が無い。これは辛い。
とりあえず、歓談の時間が早く過ぎて欲しい。
そのまま自分の席を素通りして、会場を出る。
とりあえず、トイレってことで。