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明日のために今を


水の精霊・セレーネとの戦いを終えガーナと別れた一行は水の聖域から少し離れた川辺で野営を張っていた。


「そういえば、セレーネのやつアイリスのルーンに入っていったけど一体どうなってんだろうな。」


アスラが夕食のスープをすすりながら不意にもっともらしい疑問を誰に問うでもなく呟いた。そう、確かに戦いの後正気に戻ったセレーネは虹のルーンに宿ると言いその中へと消えていったのだ。精霊が別の精霊のルーンに宿る。もっとも、今となっては驚きもしないのだが。そんなことを考えていると、不意にルーンが光り始めセレーネが語りかけてきた。


「確かに私はこのルーンに宿ってますよ。」


「セレーネ・・・聞いてたのか。しかし、高位精霊ってだけあってそれなりの力を持ってるんだな。まるでなんでもありみたいだぜ。」


「ふふ・・・確かに我々は人間から見たら計り知れない力を有していることでしょう。けれど、私たちにも弱点になるものは存在するし、無限ではない力を使い果たせば消滅もします。・・・そもそもなんでもありなら、こんな事起こらないはずでしょう?」


言われてみれば確かにその通りだ。人知を超えた存在とはいえ、現にセレーネは暴走状態に陥ってしまっていたしアイリスに関しては実体化できないほど力は低下してしまっている。


「そうらしいな。それで、今こうやってアイリスのルーンから話しかけてきているけど精霊ってのは誰でもこういうこと出来るのか?」


「いいえ。我々高位精霊でも他者を自らのルーンに宿すことは出来ません。これは精霊の長たるアイリスの力。アイリスの主たる力は調和。こうして宿ることで間接的にあなた方の力になることが出来るのです。・・・どうやらあなたは無理のようですが、エリスならばきっと使いこなしてくれるでしょう。」


「え、アスラに出来なくてわたしには可能なんですか・・・」


静かに話を聞いていたエリスがキョトンとした顔で驚いている。アスラは少し不服そうだが。


「なんでエリスに出来て俺は無理なんだい?過信するわけじゃねぇがそれなりの力は備えてるつもりだぜ。」


「理由はいずれ分かるでしょう。アスラ、決してあなたの力が弱いから。そういった理由ではないことはわかってくださいね。あなたの力が如何程のものかは対峙した私自身が一番わかっておりますから。」


「ふーん。まぁ、いいぜ。」


「ではセレーネ。その時が来たら、是非よろしくお願いしますね。」


「もちろんです。ところで、あなた方の次の行き先ですが・・・」


セレーネは詳しい理由は話さず次の行き先について提案をしてきた。話によるとここから三日ほど歩いたところに今ではその活動を止めた火山が存在するらしい。活火山でなくなった後もその険しい道のりから登ろうとする命知らずはほとんどおらず、人目につかないことを好んだ高位精霊の一人が住みかとしているらしいが・・・


「ここ最近違和感を感じます。私の時と同じようなマナの乱れとでもいいましょうか。もしかしたら彼の身にも何か起きているのかもしれません。同類の力は少しなら感じ取ることは出来ますが詳しいことは私にも・・・」


「火山・・・行ってみましょう。もしセレーネのような状況に陥っているとしたら何か被害が出ている可能性もあります。」


「そうだな・・・行ってみよう。」


考えるまでもなく火山行きを了承した二人だったが、ここでアスラはあることを思い出した。


「そういえばエリス。ここ数日のドタバタですっかり忘れていたんだが、お前こんなに単独行動続けてて平気なのか?セネルの村に来たのだって依頼があったからだろ?流れで力を貸してくれなんてことになっちまったけど、冷静に考えたらそろそろまずいんじゃねぇの?」


「それは・・・確かにその通りなのですが・・・すいません。今はこのまま一緒に旅を続けさせてくださいませんか?」


エリスは何かを迷っている様子だったがぺこりと頭を下げアスラの反応を伺った。


「・・・わかったよ。何か事情があるんだろ。力を貸してくれるっていうのならそれを拒む理由はねぇよ。・・・報酬はそんなに払えなぇけどな。」


そう言って笑うとエリスは安心したように笑い返した。そう、意地の悪いことを聞いたようだが今回の一件を解決するのは自分一人では厳しいだろうということを予想している。理由はなんであれ同行を続けてくれるのはありがたいことに変わりない。


「アスラ・・・その・・・」


「ん?」


「今回のことが落ち着いたら・・・また改めてお話しさせてくださいね。」


「ははっ。じゃあそうしてもらうかな。さて・・・世が明けたら出発だ。そろそろ休もうぜ。」


「はい!!」


精霊と世界を救う。唐突に自らに課せられた使命に似たものをアスラは少しずつ自分の中で消化しようとしていた。未だ想像もつかないことばかりでぼんやりとはしているが、なんとなくアイリスの言っていたことも現実味を帯びてきている。そんな中でパートナーという存在がいかに大事なものかはよくわかっていた。惨劇から始まった出会いで未だその素性すらもよく知らないが、エリスのまっすぐさと誠実さはアスラも認めている。


(ま、何事も時間をかけて・・・だよなぁ)


お互い様々な思想や理由があるだろうが、今はこの旅が良い結末で終わることを願っている。


「その為には目の前のことを全力で・・・今を生きなきゃな。」


アスラはそう呟くと既に眠りについているエリスの寝顔を確認すると、自分も明日へ向けて目を閉じた。


今回はまったり回ですね。


エリスがその胸に秘めていることをアスラが聞く日はいつになるのでしょうか。


もしかしたら、そう遠くない未来なのかもしれません。

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