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水の精霊・セレーネ


「まさかあいつ、団長になってたとはな。」


アスラはかつての戦友が魔導師団長になっていたことを知り心底驚いていた。確かに同時期にいた魔導師の中では頭一つ抜けた実力を持ってはいたが・・・


「きっとそれなりの力を有した方なのですよ。わたしはなんとなくその理由わかります。」


ふふっと笑うエリスとそんな話をしながら歩いていると約束の時間になり、二人が街の入り口に近づくと既に準備を終えたナーガが誰かと話している様子が見えた。


「・・・だ。・・・・・の可能性・・・ある。」


(遠くて聞き取れねぇな。何を話してんだ?)


気づかれないように近づいてみたが、ちょうど話の聞こえそうな距離まで近づいたところでナーガと話をしていた人物は敬礼をした後足早に立ち去り、コソコソする意味の無くなったアスラは背後からガーナの肩に肘を置き


「よ、団長様。取り込み中だったか?」


と、意地の悪そうに声をかけた


「だから知られたくなかったんだよ・・・相変わらずの皮肉屋だね。君は。」


「光栄なこった。・・・しかしすげぇな。たった数年で、しかも俺らの年齢で上り詰めるなんてそうそう出来ることじゃないぜ。」


「・・・どうしたんだい?君がそんなことを言うの珍しいじゃないか。」


「そうだな。ま、そんなことはさて置きだ、さっさと水の聖域に行こうぜ。このままじゃ下町が水没しちまうぜ。」


「そうだね。懐かし話はまた今度だ。急ごう。」


こうして三人は街を出て水の聖域に向かい始めた。道中度々魔物に襲われたがアスラとガーナのコンビネーションは抜群で苦戦することも足を止めることもなく順調に歩を進めている。


「魔導師団を抜けてしばらく経つけど、剣も魔法もまだまだ衰えてないみたいだね。」


「お前こそ、団長様はなかなか前線に立たないからな、鈍ってんじゃないかと心配したぜ。」


そう言い合いながらも二人はどこか嬉しそうでもあり楽しんでいるようにも見え、エリスは二人の戦いっぷりを見て少し羨ましく感じていた。


「二人は本当に仲が良いんですね。わたしには一緒に肩を並べられるような友人はいませんので・・・少し羨ましいです。」


「仲良しなんてもんじゃねーよ。腐れ縁だ腐れ縁。」


「素直じゃないね。歴戦の相棒じゃないか。」


「そう言うことにしといてやるか。さて、どうやら着いたみたいだが?」


話もそこそこに三人は目の前に広がる広大な川を見渡した。どうやらここで間違い無いらしい。マナの濃度が高くそこら中から強い力を感じる。


「おかしいね。この前来た時はここまでの力の強さは感じなかった・・・何が起きているんだ。」


「アスラ・・・もしかしてこれはアイリスの言っていたように精霊に何かあったのでは・・・」


「ああ、どうやらそうみたいだな。まずはその精霊様を探しに・・・って思ったがどうやらその必要はないみたいだな。」


どういうことだ?とガーナが口に出そうとした瞬間


(クルシイ・・・クルシイ・・・)


精霊の声がアスラの頭に聞こえ突如として川の中心あたりに巨大な渦が巻き起こり、天高く打ち上がった。やがて大量の水が全て川に落ちる頃"それ"は姿を現した。


「これは・・・?」


「これが精霊様さ。・・・ちょっとヤバそうな雰囲気だが。」


姿を現した精霊は三人を確認すると急速にマナを練り上げ始めた。どう見ても向けられている敵意に気づき三人は臨戦態勢を取るが


「アスラ!これは・・・戦っても良いのでしょうか?なんというか、彼女とても苦しそうです!」


エリスがそう叫び二人は驚いたがどうやら考えている余裕もなさそうだ。


「とりあえず今はそうするしかなさそうだな・・・油断するなよ!ガーナ!」


「わかってるよ!・・・万象を遮る不可視の壁よ。」


ガーナが詠唱を始めるのと同時に精霊から強力な魔法が三人を襲った


「アスラ!」


心配そうにエリスが叫んだがアスラは見てなと言わんばかりに笑いながらガーナの方を見た。そして凄まじい弾丸のような速度を持った水流が三人を打ち抜こうとしたその時


「ーーエレメント・リフレクト!」


見えない壁に遮られるように精霊の放った魔法は三人に届くことは無かった。そして


「まだまだ!」


ガーナは防いだ魔法をそのまま精霊に向かって跳ね返しアスラに視線を送ると了解、と目配せし走り始めた。精霊が自らの放った魔法を跳ね返され身動きが取れないこの隙を逃すまいとたたみかけようとしている


「エリス!援護してくれ!」


「はい!!」


そういうとアスラは走りながら詠唱を始めエリスはいつでも迎え打てるようにマナを練り上げた。しかし跳ね返しただけに過ぎない魔法は案の定すぐに突破され、すぐさま次の攻撃が発射されアスラを襲うがエリスの魔法が的確に相殺してくれるおかげで無傷のまま包囲網を突破した


「いくぜ・・・ガーナ!仕上げだ!」


「任せろ!!ーーその雷は闇を奔り数多のものの動きを封じん・・・エレットリク・ウェイブ!!」


ガーナの展開した術式から発生した雷は地を走り水上へ広がり精霊の動きを封じた。雷の魔法に弱いらしく、帯電し苦しそうにうずくまっている。


「でかした。さあこれでおしまいだ・・・くらえ、アンチマジック・プレスチェーン!」


その瞬間精霊の体表に魔法を無効化する術式が展開され、荒れていた川は次第に落ち着きを見せ始めたようだ。


「やっぱりな。精霊って言うくらいだからアンチマジックならと思ったんだが、大当たりのようだな。」


しかし、あくまで捉えただけであってどうしたものかと考えているとアイリスのルーンが光り始め語りかけてきた。


(久しぶりですね、アスラ。彼女は水の精霊・セレーネです。・・・やはりとても苦しそう。異常なマナの流れに当てられて正気を失っているようですね。)


「!?この声は・・・?」


「わたしも聞こえます・・・この声はもしかして。」


「お前らも聞こえてるのか・・・だそうだぜ、アイリス。」


(恐らくマナの異常によるものでしょう・・・それに・・・いえ、今はその話はやめましょう。今は彼女の方が先決です。)


「・・・そうだな。で?具体的にはどうすればいい?」


何かを言いかけ濁したアイリスを気にしつつも解決策を問いかけた。魔法を使えるといっても精霊を正気に戻すような術は聞いたこともない。と言うより、精霊の存在自体誰も知らないようなものなのだから当たり前のことだ。


(そうですね・・・通常このような暴走状態になってしまった場合、同等の力を持った精霊に毒になってしまっているマナを取り除いてもらうのが一番ですが、今のわたしにはそれができませ。しかし・・・)


(エリス。あなたの力なら彼女を正気に戻せるはずです。)


アイリスは少し間を開けたがエリスに向けてそう言ったが、当のエリスは戸惑っている様子だ


「ど、どう言うことですか?わたしにそんな力は・・・」


(いいえ・・・あなたはその力を有しているはずです。お願い、力を貸して・・・)


「・・・わかりました。」


アイリスは何かを知っているかのようにセレーネの救出を頼みエリスはそれを承諾し、アスラとガーナはそれを黙って見守っている。


「なぁ、エリスは一体何ができるって言うんだ?そしてお前は何を知ってるんだ?」


アスラは当然と言った質問をアイリスに投げかけたが、今はごめんなさいと回答を得ることは出来なかった。


「・・・しょうがないか。で?エリス。具体的に何をするつもりなんだ?」


「今からわたしの治癒魔法で彼女のマナの流れを中和します。・・・成功する確証はないですが、不可能ではないはずです。」


「治癒魔法・・・そんなの使えたんだな。」


数多くの魔導師がこの世には存在するが、治癒魔法を使えるのはほんの一握りの人間しかいない。通常魔法というのはマナを用いてこの世の自然に働きかけその現象を引き起こすのだが、治癒魔法は人間の生命力にその力を作用させる。よってより緻密な力のコントロールが要求され、仮に使えるようになっても簡単な怪我の自然治癒の促進程度しか出来ない魔導師がほとんどだ。


そんな高度とされる治癒魔法をエリスは精霊に施そうとしている。


(人間以外のものに治癒魔法だなんて聞いたことがない。そんなこと可能なのか・・・?)


ガーナも半信半疑といった様子でことの流れを見守っている。何より、さっきから人知を超えたことばかりで頭の整理が追いついていない。


「・・・いきます!」


エリスは深く息を吸い込むとマナを練り上げ術式を展開させた。アスラもガーナも初めて見るその術式に驚いたが、それはどこか優しく見ている二人にすらその力は暖かさを感じさせた。


「・・・っ!」


相当な力を使っているのだろう。徐々にエリスの顔に疲労の色が見え始めた。


(頑張って・・・もう少し・・・)


アイリスも心配そうに声をかける。そして


「う・・・こ、これ・・・は・・・?」


「! 意識を取り戻したぞ!」


アスラがそう叫ぶとエリスの術式は消滅しそのままふらっと後ろに倒れこんだ。アスラはそれを受け止め大丈夫かと問いかけると彼女は疲れ切った表情でにこりと笑った。


「わたしは・・・大丈夫です。うまくいったみたいですね。」


「そうみたいだな。・・・セレーネって言ったか?意識は戻ったみたいだが、調子はどうだい?」


「ええ、先ほどまでが嘘のように。あなた方が私のマナを浄化してくれたんですね。そしてこの気配は・・・」


(セレーネ。良かった・・・正気に戻ったのですね。)


「やっぱり、アイリス。心配をおかけしました。この者達はあなたが?」


(ええ。そしてあなたにお願いがあります。)


アイリスはこれまでの経緯を語り始めた。黙って聞いていたセレーネだったが一通り話しを聞くと優しい笑みを浮かべながら口を開いた。


「街の水道術式はきっと暴走した私の魔力に当てられて異常を起こしてしまったのでしょう。じきに元に戻るはずです。」


それを聞いたガーナはホッと胸をなでおろした。そして


「私もあなた方に同行しましょう。きっと他の高位精霊たちと戦う時にこの水の力は役に立つと思います。他の仲間たちも最近のマナの異常には困っているはずです。・・・それでは私はアイリスのルーンに宿ります。私の力が必要な時はいつでも呼び出してくださいね。」


セレーネはそういうと光となってアイリスのルーンに飛び込んだ。


「信じられないことばかりだ・・・一体これは・・・」


「俺にもよくわかんねぇけど。とにかく今はおかしくなってる精霊がいたら元に戻して回らなきゃな。ってことでどうやら下町の問題は解決したらしいぜ?」


アスラも思うところは多かったが今はそれでも良かった。


「そうみたいだね。・・・僕はこれ以上留守にできないから城に戻るよ。君たちは?」


「俺らは少し休んだら出発するよ。下町の連中にも会っておきたかったけど、全部済んだらまた会いに行くさ。」


「そうか・・・わかったよ。じゃあ、今回のことはまた改めて礼をさせてくれ。・・・君は相変わらず無茶ばかりのようだけど言っても聞かないんだろう?気をつけていけよ。」


「わかってんじゃねぇか。ま、死なない程度に頑張るさ。」


二人は会話の後握手を交わしガーナは一人立ち去った。立場は変わってしまったものの中身は変わってなかった彼の背中をアスラは見送った後エリスの方を向いてこう言った。


「イイ奴だっただろ?」


笑顔で言うアスラの顔を見て座り込んでいたエリスもまた「そうですね」と笑顔を返すのだった。



ーーガーナが城へ戻り少し経った頃。


今回のことの顛末を報告した後、彼もまた自室にてとある報告を待っていた。


「ーー失礼します。例の件の報告に参りました。」


「・・・ご苦労様。結果は?」


「ガーナ様に言われた通り登録されているギルドの情報を照会してみましたが。確かに該当するギルドは存在していました。」


「そうか。それなら・・・」


「存在していた。過去の話です。」


「どういうことだ?」


「保管されている情報によるとギルド・最果ての夢は十年ほど前になんらかの事情により壊滅、及び解体されています。」


「なんだと・・・ーーーエリス。という人物については?」


「該当ナシ。ですな。」


なんてことだ。初めから違和感はあったがこうも悪い方へ的中してしまうものなのか。


「アスラ・・・」


ガーナは既に旅立っているであろう何も知らない彼の身を案じた。



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