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旅立ちへ



その日の夜。すっかり日も落ちた頃眠りから覚めたアスラは十分に力が回復していることを確認しつつ、ゴンの家を訪れていた。主のいない空席を挟みアスラが腰を下ろし、その隣ではエリスが静かに待機している。


「よく休めましたか?」


「おかげさまで。色々聞きたいことはあるけど、とりあえず今はゴンのじいさんの話が先だな。」


アスラが横の席へ薄く笑みを向けるとエリスも安心したかのような笑みを返した。そしてさらに少し時間が経った頃、ゴンは現れた。


「待たせたのう。・・・さて何から話そうか。」


「俺が知りたいのは村を襲った連中の正体と目的、ハイルーンについてだ。」


アスラのぶれることなく追求せんとする姿勢にゴンは一瞬たじろぎながらも隠し事をする気はないと言わんばかりに両手を小さく挙げた。


「此の期に及んで隠し事をするつもりはないわい。一つ一つ喋らせておくれ。」


一呼吸置くとゴンはゆっくり今回の経緯を語り始めた。少し前に昨日村を襲った奴らがここを訪れハイルーンのありかについて訪ねて来たこと。ゴンはそれに応えず黙秘を続けたこと。報復を恐れてエリスの所属するギルドに依頼を出したが間に合わなかったこと。おおよそは予想通りだったが一番アスラが知りたいことはそれらよりも他にある。


「大方その辺については予想がついていたさ。エリスも黙ってるってことは相違ないってことだろ?でも俺が知りたいのはそこじゃない。」


そういうとアスラはポケットから"あるモノ"を取り出し机の真ん中に起きながら続けた。


「俺が聞きたいのは、あいつらが狙ったハイルーンと・・・これのことについてだ。」


机の中心に置かれたそれを見た瞬間、明らかにゴンとエリスの表情が変わり焦った様子でゴンは口を開いた。


「そ、それは!まさかお前さん・・・アイリスに会ったのか!?」


「ああ、確かにアイリスと名乗る精霊に出会ってこれを渡された。もっとも随分弱っていたようで、すぐに消えてしまったがな。」


「これは、虹のハイルーン・・・彼らはこれを狙っていたんですね。今朝方わたしもアイリスが棲むとされる森を見て来ましたが、残念ながら会うことは出来ませんでした。このルーンを見る限り確かにほとんど力は感じられません。」


虹のハイルーン。どうやらこれそう呼ばれるものらしい。どうやら奴らはこれを狙っていたようだ。


「でだ、こいつは一体なんなんだ?詳しく説明してくれ。」


アスラが更に説明を求めるとゴンに変わってエリスが口を開いた。


「ここからはわたしが説明しますね。これは虹のハイルーン。高位精霊の長・アイリスによって生み出される力の結晶。そして・・・彼らのギルド・解放軍が最優先で探しているものです。まさかアスラが所持していたとは思いませんでしたけれど・・・」


「ちょっと待てよ、精霊の長って言ったか?そんな大それたもんがなんでこんな辺境の村の近くにいるんだ?それに力がほとんどないって・・・」


「アスラがアイリスに出会った場所。あの森の最深部にそびえる巨木はかつて"世界樹"と呼ばれているものです。今では枯れてしまっていましたが・・・」


「そういうことじゃ。そしてこの村はな、その世界樹を代々見守ることを使命とした一族によって作られたのじゃ。ワシはその一族の人間。・・・今ではそれを知っているのはごく一部の人間だけじゃ。それも、皆今回の戦いで死んでしまった。」


ゴンはそう語ると立ち上がり窓際から村を見渡しながら


「なぁ、アスラよ。この世界を救ってはくれないか?」


と、唐突にゴンはアスラに告げた。


「・・・はぁ?唐突すぎて訳がわからん。どうしてそうなるんだ?」


アスラは全く意味がわからなかった。おおよその話を聞いてもこの流れを理解できる者はいないだろう。


「それはお前がアイリスに出会うことが出来た人間だからじゃ。何故お前なのかはわからん。加えてルーンまで託されたなんて前代未聞じゃ。今の世界の歪みを直せるのはお前しかおらんのじゃないかとワシは思う。」


「世界の歪み?なんのことだ?」


「欲に溺れた人間たちの起こす争いじゃよ。今回のようにな。そんな奴らから精霊たちを・・・この世界を守って欲しい。きっとお前にはそれだけの力がある。そうでなければ精霊の長であるアイリスが人間にルーンを託すなんてことはしない筈じゃ。・・・どうか考えてくれんか?」


アスラは困惑していた。唐突すぎる話と、今の状況を整理するのに時間が必要だと思ったのかなかなか口を開かないアスラにゴンは優しく告げた。


「アスラや・・・その気になったらで良い。またワシのところへ来ておくれ。今日はもうこれでお開きにしよう。エリス殿も今日も村に泊まっていくと良い。こんな状態ではあるが、宿を用意しよう。」


「ありがとうございます・・・お言葉に甘えさせて頂きますね。アスラ・・・追い討ちをかけるみたいですが、仮にあなたが拒んでも誰もあなたを責めません。でも、力を貸していただけるのならとても嬉しいです。・・・それでは失礼致します。」


エリスが先立ってゴンの家を後にするとアスラもまた自らの家へと戻り、一人暗がりでしばらくこの二日間の出来事を反芻していたが、そう簡単に答えは出せずにいた。


「・・・また行ってみるか。」


もう一度会えば何かが変わるかもしれない。そう思いアスラは再びアイリスと出会った森の最深部へと向かった。


そこは相変わらず不思議な雰囲気に包まれている。何故今までこの森に足を踏み入れなかったのか、普段の生活に必要がなかったからといえばそうなのだが、何か別の理由があるようにも感じたのだ。そんなことを考えながら歩いているとほどなくして世界樹のある広場へと到着した。


「ここだな・・・アイリス。いるか?」


アスラは枯れてしまった世界樹に向けて語りかけたが返答はなかった。やはりダメか・・・そう思い踵を返したその時


(・・・やはりほんの少しこの場所へ力を残しておいて正解でしたね。)


「アイリス!いるのか!?」


姿はみえないが初めて出会った時と同じように頭の中に直接語りかけるこの感じはアイリスのものだ。


(姿をお見せできるほど力がないのでお会いすることが出来ず申し訳ありません。しかし、なんとなくあなたが再びここにくることは予想できました。・・・言いたいことはわかっています。)


「どうして俺だったんだ?他にも力を持った人間なんかいる筈だろ?」


アスラは矢継ぎ早に疑問を投げかけた。するとアイリスは優しくこう語りかけた。


(確かに力を有している人間ならばいくらでもいるでしょう。しかし、それではダメなのです。強い力を持ちながらも・・・決して淀まぬ強い意志・・・あなたからはそれを感じました。だから、どうか、この世界を助けてあげてください・・・今の私にできるのはあなたにルーンを託すことだけ・・・)


「世界を助けるって言ったって、どうすりゃいい?俺は何をすりゃいいんだ?」


(精霊たちを・・・忍び寄る魔の手から・・・救って・・・あげて・・・そして私のルーン・・・へ・・・)


「アイリス!?」


徐々にアイリスの声が遠くなってきた。力が薄れてきているのだろうか。


(ごめん・・・なさ・・い。もう・・・これ以上・・・・は・・・・・・アスラ・・・・・・・どう・・・・か・・・)


そういうと完全にアイリスの声は途切れ、気配も消えてしまった。


(精霊たちを救う・・・)


そう言い残して消えたアイリスのルーンを握りアスラはしばらくその場で考え込んでいたが、やがて口を開きもうそこにはいないアイリスへと告げた。


「・・・いいぜ。どこまでやれるかわからんが、やってやるよ。折角精霊の長様に認めてもらったこの力だ。それに元はと言えば魔法はあんたらの力なんだろ?恩を仇で返したんじゃ忍びねえからな。・・・やってやるさ。精霊たちもあんたも救ってやる。」


「どうやら、決心がついたようですね。」


「エリス・・・見てたのか。」


アスラがアイリスに決心を語り終えると、隠れていたであろうエリスが茂みから出てきた。


「ごめんなさい・・・あなたが村を出るのを見てしまったので・・・」


はは、とアスラは軽く笑いエリスの方へ歩み寄りながら口を開き


「世界、救うことになっちまったよ。未だによくわかんねぇことが多いけど・・・アイリス直々の頼みじゃ断れねぇよな。」


「アスラ・・・」


「それにしてもだ!俺一人じゃ何にも出来ん。しばらくこの村から出てないしな。エリス・・・申し訳ないけどしばらく力を貸してくれないか?」


アスラが協力を求めると同時にエリスはアスラの手を強く握り食い気味に反応した。


「もちろんです!!!!こちらこそ微力ですが、よろしくお願いします!」


「お、おう・・・そんな食い気味に来られるとちょっとびっくりするな。それと・・・手、痛いぜ?」


そう言われて初めて自分がアスラの手を握りしめていることに気づいたエリスは「あっ・・・」と顔を赤らめ、アスラの手は潰されることなく無事に解放された。


「ご、ごめんなさい!一緒に戦っていただける仲間が出来たのが嬉しくてつい・・・」


「一緒に戦う仲間か・・・懐かしい感触だな。改めて、俺はアスラ。・・・ってそういえばあんた最初あの戦いに割り込んできた時から俺の名前知ってたよな?」


「そっ、それには色々事情がありまして・・・ギルドに属していると色々な情報が入ってくるのです・・・!」


ふと思い出した疑問をエリスに投げかると更に顔を赤くしながら苦し紛れに弁明した。


「そんなもんなのか。ま、いいや。改めてよろしくな。かつては魔導師をやっていたこともあったが、今ではしがない傭兵兼農民さ。」


「・・・はい、こちらこそ!私はギルド・最果ての夢のエリス。よろしくお願いします。」


お互いが改めて自己紹介を終えると自然と握手が交わされ、何故かアスラはどこかでアイリスが微笑んでいるような気配を感じた。


(随分大事になっちまったけど・・・なるようになるか。)


こうしてアスラは住み慣れたセネルの村を離れ、精霊を救うための旅に出る決意を固めた。

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