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精霊・アイリス


ゴンに村の警備を頼まれた日の夜、早速アスラは村の外へと足を運んでいた。


「・・・特に変わった様子はないんだけどな。」


普段と変わらない見慣れた景色の中を闇に紛れて歩いているが、特にこれといって気になる魔物がいるわけでもない。時間帯特有の魔物はちらほら見かけるがどれもが弱くとても脅威になるような個体ではない。


やっぱり思い過ごしか・・・そう思い帰路につこうとした時だった。


(アスラ・・・)


「!! 誰だ!?」


どこからともなく自分を呼ぶ声が聞こえ辺りを見回してみたがどこにも人影は見当たらない。


(アスラ・・・わたしはここに・・・)


「この違和感、頭の中に直接語りかけてきてるな。どこにいやがる。」


アスラは声の主が魔法で遠距離から語りかけていることを察知し発信場所を探し始めた。


「魔力には魔力だ。・・・リバースサーチ!」


リバースサーチ。自分に干渉している魔力を解析し同じ魔力を持った術者の居場所を割り出すアンチマジックと言われる種類の魔法だ。


「こっちだな。」


微力な魔力を探知して足を向けた先にあったのはセネルの村からそう遠くない場所に位置する広大な森だった。果たしてこんなところから一体誰が、とは思ったものの調査を継続することに決めた。


(不思議なところだな。普通夜の森は魔物がうじゃうじゃいるっていうのに・・・それどころかここは)


違和感を感じつつもまるで森の不思議な雰囲気に導かれるようにアスラが歩を進めるとやがて広場のような場所へとたどり着いた。


「まさかこんなところがあるとはな。・・・森のこの雰囲気の理由はこれか。」


そこには思わず見惚れてしまう巨木が聳えていた。もっとも、どうやら既に枯れかけているようだが。


「神木か。こんなところに存在しているなんて聞いたこともないぞ。」


そう言いながら神木に手をかざしたその瞬間アスラの視界は強烈な光とともに真っ白に染まった。


(アスラ・・・よく来てくれました)


「これは幻覚か?いや・・・」


「誰だか知らんが相手になるぜ。」


(待って・・・わたしはあなたと戦うつもりなどありません・・・)


そういうと声の主は光の中心にその姿を表した。


「・・・驚かせてしまってごめんなさい。わたしはこの木に宿る精霊。名をアイリスと申します。」


精霊。書物や言い伝えによって誰もが知ってはいるが、あくまでも空想上の存在とされている。目の前に現れた人間の女性を形取った"それ"は確かに自らをそう名乗った。


「てっきり空想上のおとぎ話だと思ってたぜ・・・実在するなんてな。」


「ふふ。時を経て伝わる物事にはそれなりの理由があるのですよ。」


「はは。ごもっともだが・・・その精霊さんが俺に一体何の御用で?」


敵意はないと判断しつつもアスラは一瞬足りとも気を抜いてはいなかったが、それを悟ったのかアイリスはクスクスと笑い始めた。


「安心してください。我々は人間に害をなすような存在ではありません。」


そういうとアイリスは少し寂しげな表情をしながら口を開いた。


「アスラ・・・あなたはきっとこれから多くの困難に立ち向かっていくことになるでしょう。それも遠くない未来に。」


「これまた唐突な話だな。精霊さまには未来でも見えるってか?」


「ふふ・・・残念ながら大きな魔力を持った精霊にも未来視の力はありません。ですが、今あなた方の生活しているこの時は我々が遥か昔から危惧していた未来であることに変わりありません。」


「・・・どういうことだ?」


「今この世界はバランスが崩れ始めています。わたしの口からは多くを語ることはできませんが、あなたにわたしの力を少し託したいと思います。今日はそのためにお呼び出しさせて頂きました。」


そう語ると徐々にアイリスの体は透け始め、事態の飲み込めないアスラは慌てて声をあげた。


「おい!!どういうことだ!!まさかこれだけ話しておさらばかよ!!」


既に半分ほど姿の消えかかっているアイリスは申し訳なさそうにアスラを見つめ弱々しい声で最後に口を開いた。


「・・・今のわたしに出来ることは残り少なくなった力を分け与えることだけ。そしてアスラ。あなたはそれをきっと上手く使ってくれるとわたしは直感しています。・・・あなたはきっと今のこの世界を変えてくれる。そんな力を感じました。身勝手でごめんなさい。またあなたに会える時を楽しみにしています。」


アイリスはそう言い残すと完全に消滅し、同時にアスラの視界は元いた神木のある広場へと戻っていた。


「・・・一体どういうことだ。」


アイリスの言っていたこともそうだが、何より驚いたのは先ほどまでは枯れ始めといった程度だった神木が完全に変わり果てた姿へと変貌していたからだ。そして自分の掌が何かを握っていることに気づく。


「これは・・・ルーン?」


ルーン。ごく稀に自然界に発生するマナの結晶だ。ものにもよるが大抵は並みの魔導師数人分程度の魔力を有している。アスラが握っていたものは形こそ小ぶりだが七色に輝き相当量の魔力が込められているように感じた。


(そうか・・・これを残すために力を使い果たしたんだな。)


意図のわからないまま消えてしまったアイリスのルーンを握りしめ神木を見上げたその時だった。


カーン・・・カーン・・・


遠方から鐘の音が聞こえた。もう深夜だ、普段ならこの時間に鐘が鳴ることなどあり得ない。


「まさか・・・!」


嫌な予感が頭を過ぎると同時にアスラは森の出口に向かって走り始めていた。


(くそっ・・・アイリス・・・一体精霊たちは何を予見していたんだ・・・)


アスラは村を出てからの出来事を整理しきれずにいたが今はそれどころではない。記憶に間違いがなければあの鐘の音はセネルの村のものだ。そしてこんな時間に鐘が鳴らされる理由・・・


「無事でいろよみんな・・・!」


アイリスのルーンをポケットに突っ込み、アスラは非常事態を知らせるセネルの村へ急いだ。

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