炎上、ロサンゼルス3
「おい、このバカげた大きさは何だ?俺は夢でも見ているのか?」
目視で確認したのは、巨大な飛行生物がロサンゼルスの街を燃やし尽くしている光景であった。
ダウンタウンのあった場所は完全に燃え尽きており、市街地の大半で大規模な火災が発生している。
ハイウェイはロサンゼルスから脱出を図っている車で埋め尽くされており、中には逆走してでもロサンゼルスから逃げようとしているトラックや自動車の姿もある。
陸軍の車列がロサンゼルスに向けて走っているが、歩兵の小銃程度でどうにかなるような相手ではない。
早期警戒管制機から続々と地上の情報が報告されていく。
「地上では市民たちが我先にハイウェイや一般道を使って脱出しようとしているようだ。陸軍や他の警察の応援も渋滞に巻き込まれて直ぐには迎えにいけないそうだ」
「あれを倒すには燃料気化爆弾でもぶち込むべきだな、このミサイルだけで倒せるのか疑問だぜ…カタルシス、陸軍の攻撃ヘリ部隊は?」
「対戦車ミサイルを満載したAH-64Dの大編隊を送っている最中だが、一般市民を乗せるための輸送ヘリも同伴している。また海軍のイージス艦も全速力で向かっているが到着には時間が掛かる模様…つまり、今現在反撃できる戦力はお前達戦闘機部隊だけだ」
「…だろうな、空よりも地上が地獄絵図…まるで世界大戦のような光景だ…」
市街地の大半が焼けているロサンゼルス、その上空を巨大飛行生物迎撃のために緊急発進した36機の空軍機が到着する。
早期警戒管制機とドラゴンの炎で焼かれずに済んだ地上レーダー基地からドラゴンから発する強力な熱源を頼りに対空ミサイルが発射可能距離になればミサイルを撃てる。
F-16に搭載しているのは中距離空対空ミサイルのAIM-120だ。
打ちっ放し式のミサイルであるため、ロックオンを行えば自動的に目標を追尾していくミサイルである。
「オアシス1から全機へ、もうじきあの馬鹿デケェドラゴンにミサイルをぶち込むことが可能になる。いいか、ロックオンしたらミサイルを撃つと同時に左右に分かれて旋回して各自の判断で攻撃しろ、炎の餌食になるなよ」
「こちらオアシス2、了解しました。ですが隊長、後続のアライ隊のA-10はどうしますか?彼らには自衛用の短距離ミサイルと無誘導のロケット砲しか搭載されていませんよ」
「アライ隊は俺たちがあのドラゴンに攻撃した際にまだドラゴンが無事だったら30ミリガトリング砲とロケット砲を叩きこめ、ミサイルは効くとは思うが…ドラゴンがミサイルの攻撃に耐えきれるかもしれない…ということもあり得る。いざという時の保険として俺たちの後ろで待機していてくれ」
「…アライ隊、了解しました…では速度を落としてオアシス隊がドラゴンを攻撃した後に、ドラゴンに損傷がなければ我々が攻撃します」
36機もの戦闘機と攻撃機の編隊がドラゴンの腹部に狙いを定める。
どうやらそこが一番熱源を溜め込んでいる場所らしい。
F-16のパイロットたちはAIM-120に切り替えてドラゴンに照準を合わせる。
照準が完了し、ミサイルの射程圏内に到達するとオアシス1の指示で攻撃が開始された。
「全機、ドラゴンを攻撃せよ!オアシス1、交戦!ミサイルロックオン、フォックス2!」
「オアシス2、交戦!フォックス2!」
「オアシス3から7、交戦開始!」
「オアシス8、交戦…!」
F-16から一斉にドラゴンに向けてミサイルが発射される。
一発ずつ、計28発の中距離空対空ミサイルがドラゴンに吸い寄せられるように発射されていく、その様子を地上から眺めていたTVレポーターが興奮した様子で伝えている。
レポーターだけではない、ロサンゼルスから避難している市民もF-16の姿を見ると歓声を上げている。
「見てください!空軍です!空軍のF-16が到着しました!ドラゴンに対して攻撃を開始しています!」
「おおお!!空軍がやってきてくれたぞ!!」
「いいぞ!ドラゴンをヤキニクにしちまってくれ!」
28発のミサイルはドラゴンの腹部に着弾する。
爆炎と爆発によって生じる煙でドラゴンが見えなくなる。
だが、まだドラゴンは墜ちていない。
先ほどの攻撃が効いていないのか煙を自身の口から吐き出す炎で消し飛ばすと、その強靭な身体をパイロットたちに見せつける。
地上で見ていたレポーターや民衆はその光景に絶句し、パイロットたちが悲鳴をあげた。
「嘘だろ!!AIM-120を28発喰らっても悠々と飛んでいるだと!!!B-52やTu-95ですら二発で耐えきれない筈だ!」
「カタルシス!ミサイルは全弾命中したんだよな!」
「こちらでもデータリンクと地上の映像で着弾を確認している…クソっ、こいつは文字通り化け物だ…まて、ドラゴンがお前達の方向目掛けて飛行を開始している!散開しろ!」
「!!!前方のドラゴンがこっちを向いているぞ!!!散開!散開!」
「畜生!夢なら醒めてくれ!!」
蜘蛛の子を散らすようにF-16戦闘機が各機ごとにバラバラになって飛行をはじめる。
ドラゴンは、地上よりも自分を攻撃してきたF-16を敵と認識したようだ。
鋭く緑色に光る二つの眼光が複数のF-16を捉えて炎を噴き上げた。
炎に呑み込まれたF-16は、ミサイルが直撃しても耐えきれるように設計してあるにも関わらず、ドラゴンの吐き出した熱は機関砲が直撃したように機体の各所から熱がコックピットに押し寄せていき、最終的にはパイロットの絶叫や悲鳴と共に機体が墜落していく。
「こちらオアシス3!機体が…機体が炎に包まれて…うあああぁぁぁぁ!!!―――ガガガッ…」
「メーデー!メーデー!こちらオアシス5!操縦不能!操縦不能!墜ちる!!!―――ガッ…」
「オアシス8、機体がやられた!脱出する!!!―――ガガガガガッ…」
28機のF-16のうち、ドラゴンの炎に焼かれて墜落したのは6機。
カタルシスのデータリンクの情報では、脱出できたのは2機のみ…残りの4機は脱出装置が作動しないまま地上に墜落したという表示が点灯している。
さらにドラゴンはF-16を殺虫剤のようにふんだんに炎を噴き上げて次々と落としていく、その光景を見ていたアライ隊はオアシス隊の援護を行うために僚機と共にドラゴンに攻撃を仕掛けた。
ただし、攻撃した場所は腹部ではなく頭部であった。