異世界合衆国領レーオー 3
『異世界の発見!有史以来の大発見!』
『科学者も騒然!各国は異世界への調査を米国に打診』
『米国株が軒並み大幅に上昇、ダウ平均株価の上げ幅も過去最大を突破』
『トーマス大統領の支持率が70%に上昇、救済スピーチが功を奏したか』
『平和団体、異世界への武力介入に反対。ロサンゼルス近郊で座り込みの抗議活動』
インターネットだけでなく、世界中のあらゆる場所でアメリカに出現した異世界との接続地点の話題で騒然となった。
各ソーシャルメディアは発表と同時に人々がコメントをするためにアクセスが集中したためにサーバーパンクが各所で発生。
テレビ番組も通常の胡散臭い通販番組などを取りやめてすべて緊急特番を組んで報道している。
アメリカだけではない。
全世界でSNSのトレンドタグに「異世界」が入る日など今まであっただろうか?
6月15日、アメリカが異世界の存在を公表したことで全世界が熱狂的なほどに興奮しているのだ。
異世界はファンタジーだけの世界。
それが今日を境に現実となったのだ。
そうなれば興奮せずにはいられないもの。
特に、日本では熱狂的に報道された上にオタクたちのハッシュタグ「#異世界でしたいこと」が一週間以上トップに乗るほどであった。
一方現実世界が騒がれている状況でも異世界との接続地点、及び橋頭堡として臨時の基地を構えている異世界合衆国領「レーオー」ではトンネルの建設が黙々と進められていた。
分厚いコンクリートと特殊合金で補強された骨組みはミサイル攻撃にも耐えきれるように作られている。
ロサンゼルスを襲ったドラゴンが再び襲ってくる危険性もゼロではない。
なので、防衛能力を強化するために異世界とロサンゼルスを結ぶ出入口は強固に守られている。
これほど強固な守りをしている場所はそう多くない。
ホワイトハウスの地下深くに設置されている大統領危機管理センターぐらいだろうか。
そのトンネルの周りをM4カービン小銃で武装した海兵隊の兵士たちとM1エイブラムス戦車とLAV-25歩兵戦闘車が取り囲んで守りをしている。
異世界合衆国領レーオーの領土は現在安全が確認された5キロ四方の場所だ。
接続地点は草原が広がっているが、すぐ近くに森とそこそこ大きい河川があるので小型の攻撃的野生動物が襲い掛かってくるケースが度々あった。
なので草原一帯を有刺鉄線を取り囲み、さらに高圧電流が流れるフェンスなどを立ててモンスターの侵入を防いでいる。
さらに塹壕などもショベルカーで掘られており、銃座や監視塔も建設が完了している。
ちょっとした米軍基地といっても過言ではない。
第二次世界大戦時の野戦基地のような姿へと様変わりしている。
ヘリコプターは偵察機が優先的に配備が行われており、OV-10と共に日夜問わず偵察・情報収集任務を行っている。
OV-10は航続距離の短いヘリコプターよりも遠くに行ける利点を生かして燃料を増やせる増槽タンクを取り付けて長時間の偵察任務に励んでいる。
陸軍、海軍、空軍、海兵隊…全米軍のうち4軍種が異世界入りしており、このうち異世界に進出するにあたって異世界入りした米軍は異世界派遣軍として現地にて再編成されることになった。
つまるところ、異世界に入ってしまえば軍の指揮系統が一つに統一されるということだ。
それぞれ別々の指揮系統では現地で混乱するだろうと陸海軍の大将がトーマス大統領に直接言ったうえで、統合軍の再編を訴えたのだ。
トーマス大統領はこれを了承し、現地入りした各アメリカ軍部隊を統合化する案を承諾。
アメリカ陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊、宇宙軍の6軍種がアメリカ軍の礎となっているが、これらを異世界で統合化した「異世界統合軍」が7月1日付けで発足される。
そのため、第一陣として現地入りする部隊は整い次第、まず初めに所属している軍種の登録を済ませてから正式に統合軍入りする。
統合軍が編成される際にどこの部隊が、何時、何処にいたのか基地から出入する際に克明にしなければならない。
というのも異世界で万が一逃亡や脱走をしたり、異世界で入手した資料などを仮想敵国のロシアなどのスパイが貴重な資料を持ち運びが行われたりしないよう厳重なセキュリティーチェックが徹底されているのだ。
実際問題、異世界入りした直後に度胸試しと称して陸軍の兵士5名が無許可で基地を抜け出して森に入った際に小型攻撃的生物に襲われ、うち2名が負傷する不祥事があったのだ。
小型攻撃的生物に噛まれた2名の兵士にはすぐに狂犬病ワクチンや破傷風ワクチンなどが投与され、現在隔離病棟にて精密検査が行われている。
今のところ重大な病気などは確認されていないが、万が一異世界の動物に対してワクチンの効力がないとすれば一大事となる。
下手をすれば、現地生物がエボラ出血熱のような致死率の高いウイルスを保有しているかもしれないし、大腸菌など人体に有害な菌類に汚染された水や食べ物になっている可能性もある。
もしくはウイルスや菌の基本構造が異なっていることも考えられるので、アメリカ医学会の代表者から安全性が確認されるまで、決して食べ物や水を口に摂取してはならないと言われているほどだ。
なので、現在レーオーの基地内で消費されている食べ物や水は全て米軍が持参したものだけである。
全世界で部隊を展開しているアメリカ軍ですら、異世界での対処法には手を焼いている状況でもある。
異世界人でアドバイザーが一人いるが、それでも見知らぬ土地であることを理由に人…ないしアメリカ軍に対して友好的な種族の集落や町を探しているのだ。
8種族…事前情報として指揮官クラスに配布された資料に異世界で人間の外見に酷似ないし二足歩行型で知能のある種族は8種族とされている。
しかし、異世界に派遣されてからまだ一週間と経過していないが、未だに集落どころか現地人すら接触を取っていない。
これら8種族のうち1種族でもいいから早いうちに見つけ出したほうが良い。
異世界合衆国領レーオー最前線基地(仮称)で積み上がった書類に決済のサインをしながら各軍の指揮官や専門家たちと共に、あと半月ほどで結成される統合軍への準備を進めていたのであった。