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異世界合衆国領レーオー 2

記者たちが一斉にカメラのフラッシュを焚く。

とてつもない衝撃をもたらした。

異世界の存在を認めたばかりでなく、異世界に接続している部分を”アメリカ合衆国領”とした事に衝撃が走ったのだ。


異世界における利権などは全て合衆国に帰属する。

トーマス大統領の宣言はそれだけ大胆で他国を寄せ付けない強さでもあった。

記者たちの質問の場となった際、この事に対して批判的に質疑をする記者が多く目立った。


「マンハッタンタイムズのリー・フェンです。まず大統領にお伺いしたい。ロサンゼルスを襲ったドラゴンがやって来た場所が地球ではない異世界であるとおっしゃいました。であるならば、異世界の保護は国連主導の元…各国と連携してやるべきではないのでしょうか?」


「マンハッタンタイムズの君の意見も一理ある。国連でやったほうがいいのではないかとね。私達もそれに対して議論を重ねた。しかしながら、異世界に関してはまだまだ未知の事が多い。特に、異世界に存在する未知の野生動物や病原体をうっかり持ち込んでしまって環境破壊が起こった場合の対処法などを取り決めている間にドラゴンが再び襲ってくるとも限らない。我が国の安全保障上の観点から照らし合わせた結果、アメリカ合衆国軍による異世界の保護が重要であると結論付けたまでだ、では次の人どうぞ」


マンハッタンタイムズの記者はもう一言ほど言いたげそうに不満顔であったが、トーマス大統領はそんなことは気にせずに次の記者にマイクを渡すように指示を出した。


「カリフォルニア経済新聞のマイケル・ゼクションです。それでは異世界で発見されるであろう地下資源や新生命体などは全て米国の物になるのでしょう?明らかに米国が発見などを独占してしまうことになるので諸外国から非難されることが予想されますが?」


「利益が独占されるのを嫌うのは主に中国やロシアだろう?現在合衆国の中でも精鋭を送って現地調査をしているが、まだ地下資源に関しては膨大な量が眠っているという報告は入って来ていない。それに、合衆国は異世界からの攻撃によって大損害を被った国家だ。14万人以上の国民が死亡・行方不明になり、経済的損失は3000億ドル以上…ロサンゼルスの完全な復興には早く見積もって5年は掛かる。マイケル君、君はロサンゼルスの被害をしっかりと見ていたのかね?」


「いえ大統領、私が申し上げているのは異世界において地下資源や生命体に関する独占への対応を…」


「マイケル君、それではいけないのだよ。ロサンゼルスで多くの人があの忌々しいドラゴンによって殺されたんだ。結婚して間もない妻が亡くなった人もいるし、長年付き添ってきた家族を一瞬で失った人もいる。そうした人たちへの救済には何が必要だと思うかね?」


一瞬だけマイケル記者が沈黙した後に答える。


「…時間ですか?」


「時間か…確かに時間も必要だろう、だが私が重要視しているのは遺族や損害を被った企業への経済的支援だ。遺族に対して合衆国政府は保険会社などを通じて支援をしているがそれでも損害の規模が大きすぎる上に、我が国の国家予算から引かなければならない。企業に関してもロサンゼルスに本拠地を置いている大企業などは多大な損害を被った。君も経済界を取材してきているのなら知っていると思うが、ロサンゼルでダウンタウン以外に有名な場所といえばずばり何処だと思う?」


「…ハリウッドですかね?」


「そうだとも、私がかつて出演していたハリウッドのコメディー番組や大手映画スタジオ・アニメーション制作会社もロサンゼルスのハリウッドにあった…合衆国が誇るサブカルチャーの象徴的で優秀な人材が多くいた…。それがドラゴンによってすべて焼き払われたのだよ。私と仲の良かった俳優や映画監督も亡くなったよ…合衆国の映画産業は大打撃だ、これだけで直接的な被害は700億ドルにもなる。君が取材をした有名人もいただろう。そうした亡くなった方や物理的・経済的に被害の被った企業に対しての救済金の一部は、異世界で産出した利益で当てようと考えている」


異世界で産出した利益を救済金として補填する。

トーマス大統領の異世界進出を後押しする大義名分その2だ。

ロサンゼルスで被った被害はかなりのものであり、特に西海岸に住んでいる世界的にも有名な大物俳優や映画監督が命を落とした。


特に大手アニメーション制作会社の本拠地が破壊されたことにより、今年の7月に世界同時上映される予定であったファンタジー映画の情報などはすべて焼かれてしまい、幻の映画となってしまった。

東海岸や日本などにアニメーション制作の協力企業があったものの、大手アニメーション制作会社の制作陣が軒並み死んでしまった為に映画の著作権や主導権などを巡って裁判に発展している。


そうした事態を踏まえてドラゴンの攻撃で家族が死亡・負傷した者や損失を被った企業の救済金の一部を異世界で産出した利益で賄おうと宣言したのだ。

単に利益を独占すれば諸外国や記者たちからバッシングを被るだろう。

だが、利益を遺族や負傷者…それに企業に分配されると宣言されれば記者たちも無暗に非難することもできない。


「それに、現時点でロサンゼルスに拠点を置いている80社以上の企業が倒産法を申請している。こうした企業への資金援助を我々は直ちに行う。決して彼らを見捨てたりはしない!」


おまけにロサンゼルスの企業としても大損害を被り倒産するかしないかの瀬戸際に立たされている所も多く、ロサンゼルスや郊外に点在する企業で連邦倒産法第11章(チャプターイレブン)を申請した企業は6月1日から15日の間に80社以上に昇っている。

そうした企業に対する救済措置としての救済金支給は、企業からしてみればまさに救いの手であり、マスメディアなどが挙って非難すれば、たちまち企業からの信頼を失ってしまうだろう。


「以上だ、他に質問のある記者はいるか?」


最後の質問を行ったのはフロリダに拠点を置く保守系メディアの新世界通信社の女性記者であった。


「新世界通信社のアリーナです、現時点でアメリカ軍が異世界に展開しているそうですが、既に異世界の接続地点の名称などは決まっているのですか?」


記者の質問に満面の笑みでトーマス大統領は答えた。


「勿論だ。接続地点の名前は”レーオー”と呼んでいる。この場所が異世界の最重要拠点となるだろう」

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