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七十七話 クロエVSアリス

 

「タクミさん、クロエを弟子にしたというのは本当でしょうか」

「あ、ああ。うん、そうだな、弟子にしたぞ」


 晩御飯の後、後片付けをしている時にレイアがやってきた。

 最近、穏やかな表情になってきたと思っていたのに、かなり険しい顔をしている。


「タクミさんの弟子になる為には、アリス様に認められないとならないはず。クロエはアリス様と戦ったのですか?」

「えっ?」

「えっ!」

「ごめん。そんなこと今はじめて聞いたんだが……」


 レイアがびっくりした表情のまま固まった。


「つい先日もアリス様はタクミさんの弟子になりたいという生徒達をブチのめしていましたよ」


 いつのまにそんなことをしていたのだろうか。

 まあ、これ以上弟子が増えても困るから、助かるといえば助かるのだが。


「恐らくですが、クロエも今頃は……」


 まさか、クロエとアリスが戦っているのだろうか。

 いくらブラックドラゴンのクロエといえど、アリスの攻撃を喰らって無事にすむとは思えない。


「ア、アリスはどこにいるんだ?」

「晩御飯の後、青空教室に向かってました」

「わかった。レイアも付いて来てくれ」

「わかりました。行きましょう」


 クロエとアリスが戦っていたら俺では止められない。


「カルナ、クロエが大変だぞ。アリスと戦っているかもしれない」

『そうなんや。まあ、大丈夫やろ、クーちゃん、かなり頑丈やから。それより、レイアにも番号の書かれた紙をアリスから貰ってないか聞いてくれへん?』


 ダメだ。さすがに姉妹であるクロエの一大事なら、しっかりしてくれると思ったが、カルナはまるで(うわ)の空だ。

 一体、アリスはどういう意図で、みんなに数字の書かれた紙を配っているのか。

 後でアリスにも聞いてみなくてはならない。



 青空教室に着くと、並んでいた椅子と机が隅のほうに置かれ、草原の真ん中でアリスとクロエが対峙していた。

 まだ戦いが始まっていないことにほっ、とする。


「アリス、やめ……」


 戦いを止めようと声をかけようとした時だ。

 対峙するアリスとクロエの真ん中に、あの白い者が立っているのが見えた。


「お、お前っ、なにをしてっ……!」


 あまりの驚きにうまく声がでない。

 二人になにかしようとしているのか。

 ゆらゆらと揺れながら、アリスとクロエの顔をじっ、と見ている。

 だが、それに対し、アリスもクロエもまるで反応がない。

 まさか、白い者は俺にしか見えていないのか?


「レイア、アリスとクロエの間に何が見える?」

「はい、お互いの闘気のうねりが見えます。今にも戦いが始まりそうですねっ」


 違う、そういうことを聞いてるんじゃない。

 本当に俺以外、白い者が見えていないことが判明する。


『……これは』


 白い者が声を出す。

 その声は前と同じ、地の底から響くような、天から囁くような、二つが混ざりあった不気味な声だった。


『ナカナカ、楽しみな戦いじゃないノカ……』


 白い者は、アリスとクロエの戦いをただ見学しに来たのか?


「……聞こえたか? レイア」

「はい、クロエの心臓が激しく動き、こちらまで心音が聞こえてきます」


 うん、違う。そんなものは俺には聞こえない。

 どうやら白い者の声も、俺以外には聞こえないみたいだ。


『アリスは変わろうとしているノカ。キミに近づくものをただ壊すだけではなく、認めようとしているノカ。それなことをしても、無駄だということに気づかないノカ、……ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ、ノカ』


 無駄?

 アリスが変わろうとしているのが無駄?


「ふざけるな、それは絶対に無駄なことなんかじゃない」

「タクミさん?」


 俺が何を言っているのかわからないレイアが首を傾げている。

 そして、その言葉を聞いた白い者は、俺のほうをじっ、と見て……


『ニタリ』


 何もなかった白い顔に、前と同じように、笑みが浮かび上がる。


 そして、まるでそれが開始の合図となったように、アリスとクロエの戦いが始まった。


「いくでっ! アリスっ!」


 最初に仕掛けたのはクロエだった。

 なんの策もない、正面からの真っ向勝負。

 ドラゴン弁で叫びながら、ただ全力でアリスに殴りかかる。


 アリスはそれを避けようともしなかった。


 ばんっ、とクロエの拳がアリスの顔面に食い込むようにヒットする。

 だが、それでもアリスは動かない。

 そう、殴られた顔面すら、全く一ミリも動かなかった。


「……その程度の想いでタクミの側にいようと思ったのか?」

「な、なんやて?」


 どんっ、と爆発したような轟音とともにクロエの身体が吹っ飛んだ。

 頭から地面に激突し、そのまま地面を削りながら、遥か後方に飛んでいく。


『アリスは他とは違う。受け入れられるのはキミだけだ。それがわからないノカ』

「ちがうっ、そんなことはないっ!」


 俺がそう叫んだ時だった。


 クロエが吹っ飛ばされたほうから、大きな咆哮がこだまする。

 黒い巨大なドラゴンが天に向かって吠えていた。


「アリスは変われる。きっと、他のみんなともうまくやっていける」

『……ムリだよ。アレはバグだと言っただろう。変われるワケがないんだ』


 俺が白い者と話す中、ドラゴン形態になったクロエとアリスが再び激突する。


「それでも俺はアリスを、みんなを信じている」

『……バカなんだね。いいよ、今は見ていてあげる』


 白い者はそれ以上何も言わず、アリスとクロエの戦いをじっ、と観察する。


 クロエは何度も何度も吹っ飛ばされたが、倒れず、アリスに立ち向かう。


 クロエが立ったまま気絶した時、白い者はその姿を消していた。





 

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