表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/424

七十六話 クロエの弟子入り

 

「タクミ殿、今日の授業について聞きたいのですが」


 ピザパーティーの翌日の月曜日。

 剣術の授業が終わった後に、クロエが質問してきた。

 今日はサシャがレイアと共に晩御飯を作るそうで、洞窟前の岩場に座り、休憩していたところだった。


「前回の剣術の授業で、剣の極意が剣を持たない事だと言われてましたが、今日は普通に剣術の基礎を教えていましたね」


 あれは単にデタラメな授業でタクミ教室の評判を落とし、生徒達に俺の授業は時間の無駄だということをわかってもらう為の嘘だった。

 カルナにめっちゃ怒られたので、今日はしぶしぶまともな授業に戻したのだ。


「そうだな。まだ剣の極意を教えるには早すぎた。やはり基礎から覚えていかないといけないからな」


 カルナにあらかじめ教わっていた言い訳を堂々と言う。

 しかし、話はここで終わらなかった。


(われ)も正直に言って、タクミ殿の極意は理解出来ませんでした。しかし、アリスやレイアは理解したように強く頷いておりました。それが悔しくてなりません」


 アリスとレイア、理解していたのか。

 すごいな、俺はまったくわからないぞ。


「我はタクミ殿がドラゴンの王となり、その側にいるだけでいいと今まで思っていました。しかし、タクミ殿の真の強さもわからずに、隣に立つことなどできましょうか」


 うん、真の強さなんて存在しない。あとドラゴンの王にもならない。


「タクミ殿、どうか我もアリスやレイアと同じように弟子にしてはもらえないでしょうか」


 いきなりとんでもないことを言い出した。

 アリスやレイアだけでもいっぱいいっぱいだというのに、三人目の弟子を取る余裕などない。


「ど、どうしよう、カルナ」

『え? なに? クーちゃん、弟子になりたいって? 別にええんとちゃうか』


 小声でカルナに尋ねると、適当な返事が返ってくる。

 今日の朝からカルナの様子がなんだかおかしい。

 真面目に授業したのに、ずっと心ここにあらずといった感じだ。

 なにかあったのだろうか。


「お、俺の修行はめちゃくちゃに厳しいぞ、クロエ」

「望むところです。どんな過酷な修行にも耐えて見せます」


 望まないでほしいなぁ。

 ただでさえ、今は毎日授業で忙しい上に、謎の白い者まで現れている。

 どんどんと自分の時間が減り、安らぎがなくなっている。


「そうだな、まずはレイアと同じく芋剥きから初めてみようか。それが完璧に出来たら次の修行に……」

「お待ち下さい、タクミ殿。まずは修行の前にタクミ殿の強さの一部でも理解したいと思っております。大剣聖と呼ばれているのに、まだ我はタクミ殿が剣を振るう様を一度も見たことがありません。どうか一度でいいから、その剣の腕、我に見せては頂けないでしょうか」


 クロエを弟子にした瞬間に大ピンチを迎える。

 剣なんて冒険者時代にほんの少しだけ、振り回したくらいしか記憶にない。


「カ、カルナ。ヤバイことになったぞ」

『大丈夫やて、クーちゃん、剣のことなんて知らんし。適当にうちを振り回したら納得するんちゃう。それより、クーちゃんに番号の書かれた紙をアリスから貰ってないか聞いてくれへん?』


 ダメだ。カルナはカルナで別の問題を抱えているみたいだ。番号の書かれた紙とはなんだろうか。

 アリスが何かしているのなら、もしかして白い者と関係しているかもしれない。


「わかった。一度だけしか見せないからよく見ておくんだぞ」


 そう言って魔剣カルナの(つか)を握りしめる。

 クロエが真剣な目で、俺を見つめている。

 カルナは適当に振り回したらいいと言っていたが、そんなもので誤魔化せられるだろうか。

 いざとなったら緊張して、なかなか動きだせない。

 カルナを握る手が、汗ばみ、力が入る。


『ちょっ、タッくん。そんな強く抱きしめたらあかんてっ。照れてまうわっ!」

「いや、抱きしめてないよっ。普通に握っているだけだよっ」


 やはり、カルナはどこかおかしい。

 今までにこんなことを言ったことは一度もなかった。

 しかも、真っ黒な魔剣カルナが、だんだんと紅く染まっていく。


『ちょ、ちょっと待って、タッくん、一回、落ち着こ。こういうことは段階を踏んでいかなあかんと思うねんっ。まだうちらには早過ぎる思うねんっ!』


 魔剣カルナが漆黒から、完全に真っ赤になってしまう。

 しかも、剣全体から大量の煙が噴出している。


『あ、あかんっ、タッくんっ! なんかあかんっ! うち、うち、すっごい恥ずかしいっ!』


 カルナの叫びに手を離そうとするが、緊張していたからか、握った手が固まって離れない。

 その時だ。


「タクミ殿っ!!」


 クロエがカルナを持った俺の腕にしがみつく。


「わかりましたっ。全てわかりましたから、カル姉を離してくださいっ!」


 クロエがカルナを握りしめ、ガチガチに固まった俺の手からカルナを取り上げる。


「り、理解できましたっ。タクミ殿が本気で剣を振るえば、ほとんどの剣はその力に耐えられないのですねっ。我のわがままで、危うくカル姉を破壊してしまう所でしたっ」

「う、うむ。よくわかったな、その通りだ」

「剣の極意が剣を持たないと言われた意味が、少しだけわかった気がします」


 俺以外の人達が、俺が全く理解していない極意を理解していく。

 超不思議。


「これから、少しでもタクミ殿に近づけるよう修行に励みますっ! どうかこれからもよろしくお願い致しますっ!」


 そう言って、カルナを俺に返して走り去るクロエ。

 カルナは黙ってしまって、何も話さない。

 いつも頼りにしているカルナが、なぜかおかしくなってしまった。


 次から次に起こる問題(トラブル)に、俺は天を見上げて、頭を抱えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ