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閑話 アリスとカルナ

 

 ピザパーティーが終わった日曜日の深夜。

 みんなが寝静まった頃、そっと力を解放させる。

 魔剣のボディがみるみる人型形態に変わっていく。


「ごめんな、タッくん」


 寝ているタッくんを覗きながら、聞こえへんように呟いて洞窟の外に出る。



「カルナ、俺のことより自分のことを考えないと。力を溜めて剣から復活するんだろ?」

『ああ、それはもう大丈夫やで。いつでも…… い、いやなんでもあらへん。せ、せやな、授業が落ち着いてから考えるわ』


 そう、うちはタッくんに嘘をついている。

 もういつでも魔剣から復活することができるのに、あえてそれをしてへん。

 大草原での戦いの時、うちはタッくんにキスをした。


「ほな、行ってくるなっ! 続きはまた後でなっ!」


 とか、恥ずかしい台詞も言ってしもた。

 そん時に、もう魔剣の封印は解けてたんやろう。

 封印を解く鍵は、やっぱり愛の力やったんや。



「そうじゃ。ようやくそのことに気づいたようじゃな」


 封印が解けたことを最初に報告したのは、古代龍(エンシェントドラゴン)のじいちゃんだった。

 エメラルド鉱石で囲まれた大鍾乳洞で、人間形態で寝込んでいた。


「いや、それよりじいちゃん、どうしたん? 調子悪いん?」

「ただの腰痛じゃよ。アリス様が何処へ行くにもわしを乗り物がわりに使うのでな。無理矢理狭いとこに着地した時に、ぐぎっ、とやってしもうたわ」

「そ、そうなんや、大変やったな」


 かつて、ドラゴンの王として、生態系の頂点に君臨していた古代龍(エンシェントドラゴン)が形無しである。


「もう、衝動のままに暴れていたカルナはいない。タクミ殿の元で愛を知ることが出来たのだ。やがて、魔剣に戻ることもなくなり、封印は完全に解けるだろう」


 じいちゃんがうちが子供の頃みたいに優しい顔で話しかけてくれる。

 ちょっと、うるっ、ときてしまうが、ここで流されるわけにはいかない。


「ちゃうねん、じいちゃん。うち、まだ魔剣でいたいねん」

「へ?」


 さっきまでの優しい顔をしたじいちゃんの顔面が崩れる。


「タッくんは、うちが魔剣やから、ずっと側にいてくれるねん。もとに戻ってしまったら、きっと離れてしまう。うちはまだ、タッくんの側にいたいねんっ」


 言ってしまった。

 大草原の戦いが終わって、タッくんと一緒に先生の真似事して、それがたまらなく楽しかった。

 いつか、終わりがくるのはわかってる。

 でも、もう少し、もう少しだけ、一緒にいたかった。


 うちはどんな顔をしてるんやろか。

 きっと真っ赤になってるはずや。

 その顔をじいちゃんに見られたくなくて、じっ、と下を向いていた。

 じいちゃんはしばらく何も言わず、考え込んだ後、口を開く。


「わかった。なんとかしてみよう」


 じいちゃんは優しい笑顔でそう言った。



 封印が完全に解けても、魔剣に戻れる方法をじいちゃんは探してくれると言っていた。

 これで、まだタッくんと一緒にいられる。

 自然と頬が緩み、ニヤケ顔で大鍾乳洞から外に出る。


「そうか、まだ魔剣でいるんだ」


 びくん、と身体が震えるほどにビックリする。

 大鍾乳洞の入り口に、もたれかかる様にアリスが立ち、じっ、とうちを見つめていた。


「つ、つけてきたんか?」

「うん、感じたから」


 何を感じたというのか。

 無表情のアリスから不気味なオーラが立ち昇っている。


「で、なんか、文句でもあるんか?」


 戦っても勝てる望みはゼロやろな。

 それでも、譲られへんもんが、ここにある。


「ないよ、アナタがいなくなればタクミは悲しむもの」

「ほ、ほんま、アンタもそう思う? タッくん、うちがいなくなったら泣いてくれる?」


 再びニヤケ顔になってしまったうちをアリスが冷めた目で見ている。


「んっ、げふんげふん」


 わざとらしく咳払いをして、なんとか真面目な顔に戻った。


「ほな、あんたは何しにきたん?」

「ワタシは誰にもタクミは譲らない。そのことを伝えにきた。ライバル宣言だ」


 おおっ、どうやらうちを恋のライバルと認めてくれたようだ。

 純粋な戦いなら勝ち目はないが、こっちのほうなら互角、いや四六時中タッくんと一緒にいる分、めっちゃ有利やないやろか。


「望むところや、負けへんでっ」


 出会いは10年前かもしれへんが、長く一緒にいて同じ時間を多く共有しているのは、うちのほうや。

 まあ、魔剣としてやから、女として見られてへんかもしれへんけど、これからはちょこちょこ戻ったりして、色気のあるとこも見せていったるねん。


「じゃあ、コレ、あげる」


 そう言って、アリスが渡してきたのは七番と書かれたメモ用紙だった。


「な、なんやコレ? なんで七番なん?」

「整理券。アナタはワタシの七番目のライバルに認定された」

「ちょっ、ちょいまちいやっ、七番て他に六人もおるんかいなっ」


 三人くらいはわかってた。

 やけど、他の半分はまったく心当たりがあらへん。


「わからないの?」


 アリスが、ふぅ、やれやれ、みたいな顔でため息をつく。


「し、知ってるわっ。知ってるけど一応確認やっ。確認て大事やねんでっ」


 えと、レイアやろ、ヌルハチやろ、サシャやろ。

 もしかして、クーちゃんも入ってるんか?

 ドラゴンの王になってもらいたいだけで、恋愛感情はないと思ってたけど、ちゃうんかいな。

 あとは誰やっ、ああっ、リンデンかっ、忘れとったわっ。ライバルめっちゃおるやんかっ!


「たぶん、まだ三人くらい増えると思う」

「ぶはっ、やっぱりタッくん、もてもてやないかっ」


 頭を抱えて天を仰ぐ。


「大丈夫だ。何人増えようが、ワタシが最後に勝つ」

「なにいうてるん、うちかて負けへんで」


 夜が明けるまでの少しの間、アリスとタッくんの恋話(コイバナ)で盛り上がる。

 タクミに手を出してきたヌルハチやゴブリン王は、アリスに完膚なきまで叩きのめされたと聞いていた。

 今のアリスは最初の印象と随分違っているように見えた。


「なあ、もうタッくんに近づく奴は全部倒す、みたいなんはせえへんの?」

「しない。そんなことしなくても、タクミはワタシを選んでくれる。そう信じることにした」


 すごい自信に逆にうちが打ちのめされそうになる。

 そして、同時に恐ろしい考えが頭をよぎる。

 もし、タッくんがアリスを選ばなかったら、どうなるのだろうか。

 絶望したアリスが暴れても、この世界に彼女を止められる者など存在しない。


「では行く。タクミが起きる前にちゃんと魔剣に戻っておけよ」


 そう言って、立ち去るアリスに手を伸ばす。

 彼女に友達はいるんやろか。

 タッくんと一緒になることが、アリスのすべてだとしたら、それを失ったら、世界はかなりヤバイことになるんやないか?


「アリスっ」


 大声で呼び止めると、なに、と面倒くさそうにこちらを振り向いた。

 うちは普段なら絶対言わないようなことを、アリスに言ってしまう。


「う、うちと友達にならへんか?」


 アリスが心底嫌そうな顔をしたので、うちはちょっと傷ついた。




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