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七十三話 タクミ魔法は語れない

 

 青空教室に生徒が一度で入りきらなくなり、同じ授業を二回ずつするはめになってしまった。

 月曜、木曜は剣術の授業。

 火曜、金曜は格闘術の授業。


『タッくん、水曜、土曜に魔法の授業いれへん?』


 カルナがとんでもないことを言ってくる。


「え? 俺、魔法使えないよ」

『知ってるよ。でも、関係ないやん。タッくん、剣術も格闘術も出来へんやん』


 う、うん、確かに全部できないが、魔法なんて基礎の基礎もわからない。


「さすがに魔法は無理だよ。どうしてもっていうならヌルハチに頼んでみよう」

『ちゃうねん、タッくんがやることに意味があるねん。まぁ今度お試しでやってみようや』


 どうしてカルナはこうまで俺に先生をやらせたいのだろうか。

 直接、聞いてはいけないような気がして、レイアがカルナに力を吸わす特訓をしている隙に、クロエに聞いてみた。


「小さい頃からカル姉は、先生に憧れてましたからね。自分を怒ってくれる熱血先生がいたら、グレなかったといつも言ってました」


 カ、カルナは俺を熱血先生にしようとしているのか。


「力に溺れてドラゴン一族を追放されたカル姉は、自分と同じような道を、誰にも歩んで欲しくはないのでしょう。だからタクミ殿が皆を導く立派な指導者になることを望んでいるのだと思います」


 理由を聞かなければ良かったと後悔する。

 ますます先生を辞めれなくなってしまった。


『ちょっと、クーちゃん、こっち来てっ。ヌルやんに通訳してっ』


 カルナがクロエを呼んでいる。

 どうやらヌルハチから魔法のことを習うつもりのようだ。

 ふぅ、と大きく息を吐き出した。

 こうなったらやれるところまで、とことんやってやろうじゃないか。


 洞窟の外で洗濯をしているサシャの所に向かう。


「サシャ。ちょっと頼みがあるんだけど……」


 俺の頼みをサシャは、嬉しそうな顔で承諾してくれた。



 週六の授業は大変なので、火曜、金曜は隔週で格闘術と魔法の授業を交互にやることになった。

 そして、今日はその魔法の授業の初日となる。

 青空教室には、いつもの屈強な武芸者達とはタイプの違う、線の細い魔法使い達が大勢集まっていた。


「えーー、それでは魔法の授業を始めたいと思います」


 そう言って、教卓の上にあるスイッチを入れる。

 ブォンという音がして、自分の背後に巨大な白いスクリーンが映し出された。


 生徒達から、おおっ、と歓声があがる。

 サシャに頼んで発注してもらった、このスクリーンは南方のデウス博士が開発したもので、教卓に置かれた小さなノート型の画面に文字や絵を描くと、そのまま同じものが映し出されるという優れものだった。


「それでは今日は魔法の基礎である五大魔法について、授業をしていきます。まず魔法は火、水、木、金、土の五つが基本となり、そこに光や闇といった……」


 昨日の夜、カルナに教えてもらった魔法の基礎を思い出しながらノートに火や水の絵を描いて説明していく。


 だが、授業を進めるにつれ、授業を受けている魔法使いの生徒達から、小さな騒めきが聞こえてくる。

 なにか間違ったことを言ってしまったのだろうか。

 ノートを確認するが、特に問題はない。

 なのにざわざわはどんどんと広がり大きくなっていく。


「タ、タクミ先生、質問よろしいでしょうか?」


 前の方の席にいる一人の魔法使い生徒が手をあげる。

 なんだ? 俺はなにか間違ったことを教えてしまったのだろか。


「は、はい。どうぞ」

「そ、そこに書かれているのは、あ、あの伝説の召喚獣イフリートですか?」

「へ?」

 

 質問の意味がわからず、ぽかんとなる。

 イ、イフリートてなに?

 しかも最初の質問に答える前に、また別の生徒が手をあげた。


「せ、先生っ! その隣は大精霊の秘魔法 緑一色グレイトフルグリーンですよねっ! 全体像を見たのは初めてですっ! 」


 うん、だからグレイトフルグリーンてなに??

 二人の生徒の質問が終わった後、青空教室がどっ、と盛り上がる。


「うおおぉ、すげーーっ! やっぱりそうだったんだっ! 口伝のみ伝わる超級魔法を絵にしてくれてたんだっ!!」

「まじかーーっ! じゃあ右下のは創造神魔法 天地崩壊アースクエイクかっ! ほ、本当に存在していたのかっ! 魔法の歴史が(くつがえ)るぞっ!!」


 だからなんだよ、アースクエイクて???


「……信じられん。そうなると真ん中に描かれているのは、失われた始まりの魔法 星海スターオーシャンなのかっ!?」

「馬鹿なっ! 人類が誕生する前に失われた魔法をどうやって知ることができたんだっ!!」


 いや知らないよ、スターオーシャン????


 生徒達の興奮がピークに達し、雄叫びや歓声が飛び交う中、こっそりカルナに話しかける。


「カ、カルナっ、何でこんなことになってるんだっ? 俺、何か間違えたかっ?」

『わ、わからへんわっ。タッくん、ちょっと描いた絵、うちに見せて』


 言われた通りに、後ろの大きいスクリーンの方にカルナを向ける。


『ぶばっっっっ!!!』


 その瞬間に魔剣カルナの全身から大量の(しる)が飛び散るように(あせ)が溢れ出た。


「大丈夫かっ!? カルナっ!!」

『だ、大丈夫ちゃうわ。なんやねんっ、あの絵はっ! タッくん、絵には自信あるから任せとけ、いうたやんかっ!』

「え? ちゃんと描けてるだろう?」

『全然違うわっ! なんで火を描くのに、手とか足あるねんっ! 顔まで描いてるやんかっ! しかも顔怖いっ! 半分崩れてるっ! 夢に出てくるレベルやわっ!』

「可愛く描いたらみんなが喜ぶと思って。ほら、マスコットみたいになるかなぁ、て」

『だーかーらーっ! 可愛くないねんっ!!』


 初めてカルナにすっごい怒られる。


『ほんでこれは木かっ!? 下手くそやのになんでこんなにいっぱい木描いたんっ!? しかもなんなん、この色っ! なんで(むらさき)で描いてしもたんっ!? 呪いやんっ! どう見ても呪いの森やんっ!!』

「たくさん描いたほうがわかりやすいと思って。色はフィーリングかな。強いてゆえば……」

『強いていわんでええわっ! まともな絵を描いてからっ…… ゴフッ! ゲフッ! グフッ! あ、あかん、体調悪い。魔王の力吸った時より気分悪いわ』


 俺の描いた絵のせいで、カルナが絶大なダメージを受けている。

 おかしい。料理の次くらいに自信があったのだが、時代が俺についてきていないのだろうか。


「タクミ先生っ! 何故、基本魔法の授業で、こんな伝説級の魔法を描いたんですかっ!?」

「まさかっ! 今から実践して見せて頂けるのですかっ!?」

「うぉおおおっ! すっげえっ! すごすぎるぞっ! この授業っ!!」


 地響きが起こるくらいに盛り上がるタクミ教室。


「ど、どうしよう。カルナ」

『うちしらん。もう今日は寝る』


 頼みの綱であるカルナが寝てしまい、絶対絶命の大ピンチの中、一人の生徒の怒号が鳴り響く。


「静まれっ!」


 あまりの大声にこれまで馬鹿騒ぎしていた生徒達が静まり返る。

 全員が声の主に注目する。

 教室のど真ん中で、レイアが両手を組んで仁王立ちしていた。


「タクミ先生がなぜ基本魔法の授業で伝説魔法の絵を描いたのか。お前達はそんな簡単なこともわからないのかっ!」


 うん、俺もわからない。教えて、レイア先生。


「タクミ先生にとっては、伝説級の魔法ですら基本に過ぎないっ! その意味を込めて、素晴らしい絵を描いてくださったのだっ!」


 俺と同じくらい魔法を知らないレイアが自信満々にそう言って俺のほうを見る。


「そうですよねっ! タクミ先生っ!」


 生徒達全員があの言葉を待っている。


「うむ、よくわかったな、その通りだ」


 タクミ教室がこれまでにない大歓声に飲み込まれていく。

 第一回目の魔法授業は大盛況のまま終了し、隔週では我慢出来ない生徒達が次々と押し寄せる。


 授業は週四から週六になった。

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