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七十話 大武会優勝

 

 大武会の決勝戦、俺はまったく戦ってないと勝手に思い込んでいた。

 全部を倒したアリスが試合放棄して俺が優勝する、そんな流れだと確信していた。していたのに……


 鬼のようなアリスの一撃が、唸りをあげて一直線に俺の顔面に迫ってくる。どう考えても生き残るイメージが浮かばない。


「うわぁあああああああああっ!」


 過去の俺ではなく、回想を見ている俺が悲鳴を上げた。

 大武会に立っている俺は、まだ夢見心地で、ぼーー、としている。


 おもわず今の自分の顔面を撫でまわす。

 この顔、もしかして二代目なのか? 一代目はすでにお亡くなりになって、誰かが代わり(スペア)をつけてくれたのか?


『タッくんっ!!』

「いやだっ、見ないぞっ! スプラッタな俺の顔っ!!」

『違うっ、タッくん、飛んでるっ!!』

「へ?」


 ぶわっ、と俺が天高く舞い上がっている。

 地上では、アリスが拳を突き出したまま、止まっていた。


「な、なんで?」

『ち、力が無さすぎたんや。アリスの拳が当たる前にオーラと風圧に負けて飛んでってしもた』

「ぇええっ!?」


 ヒラヒラと花びらのように舞う俺は、なかなか下に落ちてこない。


「さ、さすがタクミさんっ、アレは身体中に巡る一才の力を抜き無我の極地に達することで、羽毛のように舞う伝説の奥義、浮雲うきぐもっ!!」


 舞台のそばでレイアが訳の分からないことを叫んでいる。

 うん、違うよ。最初から力は一才ないし、無我の極地じゃなくて意識が飛んでるだけなんだよ。


「やはりタクミは、まだワタシが到達できない位置に立っている。それでも、せめて、たった一撃だけでも。ワタシの全てを受け止めてほしい」


 落ちてくる俺を待ち構えていたアリスが、すっ、と力を抜く。

 今までに見たことがない脱力した姿で、目を閉じてゆっくりと息を吐く。

 白い息が狼煙のろしのように上がり、それ以外の時間が止まったように、ピシッと世界が凍りついた。


「まさか、アリス様も無我の極地にっ!?」


 え? それって、どうなるのっ!?


『あかん、タッくん』


 まるで、スローモーションのように、目を閉じたままのアリスがゆっくりと拳を突き出す。


『当たるわ、コレ』

「いやぁああああぁぁあぁっ、当たらないでぇっ!!」


「あ、あれ? アリス?」


 俺の叫びが、過去の俺に聞こえたのか。

 落ちてきた俺が不意に目を覚ます。


「う、うわっ、なんで俺、落ちてるのっ!? ああっ、アリスっ!!」

「タ、タクミっ!」


 驚いたのは俺だけではなくアリスもだった。

 意識を戻した途端に身体が硬直して、ヒラヒラと舞っていた俺が急速に落下する。

 さらにタイミングを外したアリスの拳が大きく外れ、そのまま落ちてきた俺と激突した。


「あ」

『あ』


 過去回想を見ている俺とカルナがフリーズする。

 いや、大武会を見ていた全員が俺たちと同じように固まっていた。


『タ、タ、タ、タ、タ、タッくんっ!!」

「ち、ちがう、不可抗力だっ、だって覚えてないもんっ! 事故だ、事故っ!!」


 大武会の舞台の中心で、アリスに覆い被さった俺の唇とアリスの唇が重なっている。


 どちらもまったく動かない。

 俺も覚えてないから、また気絶したんだろう。

 静止した世界の中で、アリスの顔だけが少しずつ赤く染まっていく。そして……


 ギギギ、とぎこちない動作で俺の頭を掴んでゆっくりと唇を離す。

 いままでにないほどにダメージを負ったアリスが、フラフラとよろめきながら、なんとか起き上がる。


 パンパンと膝についたホコリを払い、意識の飛んでいる俺をチラリと見た後……


 ぴゅーー、と脱兎のごとく逃げ出した。


「え、えっと」


 解説の人も言葉に詰まって、しばらく呆然としていたが……


「タクミさんの力は余りにも大きく、触れてしまった者は身体に多大なる影響を及ぼす……」


 語り出したのは、舞台の側で、じっ、と戦いを見ていたレイアだった。


「ほんの少し触れられただけで、私は消滅するかもしれなかった。人類最強のアリス様といえど、直接口からその力を流し込まれては一溜(ひとた)まりもありません。そう、あれは断じて口づけなどではないっ! タクミさんの必殺技っ! 超必殺技なのですっ!!」


 まるで自分に言い聞かせるように絶叫するレイア。


「……ということらしいですっ!!」 


 わぁああぁぁあぁあっ、と静まりかえっていた会場から歓声が鳴り響く。


『タ、タッくん』

「う、うん、なんで女子のみんなが大武会の最後のことを教えてくれなかったのか、理解できたよ。超恥ずかしい」


 ようやく意識が戻った俺が、複雑な表情のバルバロイ会長から優勝トロフィーを受け取る。


「大武会優勝っ、宇宙最強タクミっ!!」


 何が起こったのかわからない俺は、頭にいっぱい???を浮かべながら、間抜けな愛想笑いでトロフィーをかかげていた。




 

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