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閑話 勇者と魔王

 

  

「勇者と魔王は戦うものだろ?」


 勇者と名乗る少年がに戦いを挑んできた。

 赤毛のショートヘアに栗色の瞳。

 声変わりしたばかりの少年は、勇者と呼ぶにはまだ幼く、余の相手としては未熟すぎた。


「弱すぎるぞ。殺す気にもならん」

「ふん、別にどうでもいい。どうせ俺が死ねば、次の勇者が生まれてくる」


 勇勇輪廻ゆうゆうりんね

 勇者として生まれ落ちた少年は、最初からそのシステムの存在が脳裏に刻まれていたらしい。


「ふむ、この世界のルールの一つか。勇者と魔王。確かに我らは戦う運命にあるようだ」


 余をこの世に生み出した者と同じ存在が作ったのだろう。

 相対する二つの勢力を常に争わせ、退屈な世界を拒絶し混沌へと導いていく。

 創造神。この世界を作った者は、ゲームのように我らを駒として扱うつもりだ。


「くだらんな。どうせ倒したら次の勇者はさらに強くなるのだろう?」

「そ、そんなことないぞっ、は、早く倒せよっ、早くっ」


 うむ、図星。絶対トドメはさしてやらん。


「勇者といえど、人間の寿命などたかが知れている。まあ、のんびり気長に遊んでやるわ」

「こ、このクソ魔王っ」


 それが一番最初の勇者。

 後に始まりの勇者と呼ばれるリックとの出会いだった。



「攻撃が単調で読みやすい。剣の才能はないのではないか?」

「黙れっ、戦いの最中だぞっ」

「まあ、逆に防御の方は少しマシか。今度、装備一式買ってやろうか?」


 黙ったのはリックのほうだった。

 まだ駆け出しの勇者で、お世辞にもいい装備とは言えなかった。


 銀の鎧と銀の盾。次の日に買い揃えて大迷宮ラビリンスの入り口に置いてたら、なかなか装備せず、リックは嬉しそうにいつまでも眺めていた。



 10年が過ぎ、20年が過ぎ、少年から青年へ、余にとっては瞬きするほどのわずかな時でリックはどんどんと成長していく。


「なんだ、それは? えらくたいそうな剣だな」

「聖剣エクスカリバー。岩山に刺さっていたが俺にしか抜けなかった。別にいらなかったが、周りがうるさいので持ってきた」


 創造神の介入か? いつまでも我々の決着がつかないので、チートアイテムを送り込んだか。


「まあ、次の世代に受け継ぐよ。俺には剣の才能がないから」


 何も答えず、余は攻撃を繰り返す。

 最近はどんな攻撃も、ほとんど無傷で防御されるが、リックは反撃してこない。

 盾に弾かれる心地よい音だけが耳に残る。


 明けない夜はないというのに。

 この戦いが永遠に続くものだと、余は勝手に思い込んでいた。



 あまりに突然の終焉だった。

 余の繰り出した一撃が、銀の盾を粉々に破壊して、銀の鎧を貫いた。


 破壊の衝動。


 限界まで溜め込まれた魔力が臨界を突破して、外に漏れ出す。大切なものを破壊したのに、それでも収まらない衝動が全身を駆け巡る。


「リックっ!! 余はっ!!」

「……タイム、リミットか。随分と前から我慢していたんだな」


 兜の中から、ごぼっ、と血が溢れ出た。

 怒っているのか、悲しんでいるのか、その表情を見ることはできない。この先も永遠に。


「魔力が暴走している。このままだとお前の身体も崩壊バーストする。いや、この世界ごとなくなるのか」


 それが勇者と魔王が馴れ合った罰なのか。


「その聖剣で余をっ」

「無理だよ。俺には剣の才能がないから」


 聖剣を放りなげて、バンザイするリックを殴りたくなる。

 ダメだ。そんなことをしたら致命傷だ。


「本体を捨てて、俺を憑代にしろ。たぶんその破壊衝動を抑えられる」

「馬鹿なっ、その身体でっ!? 受け止めきれずに消滅するぞっ!!」

「……それはどうかな。受けるほうは得意だからな」


 まさか、笑っているのか? 余に貫かれ、瀕死の状態で?


「大丈夫。いつかきっと誰も戦わなくていい、完璧な世界を作ってやるから」 


 それが勇者として、人間としての、リックの最後の言葉になった。




 青い薔薇(ブルーローズ)に囲まれ、氷漬けにされた本体の前で、鎧を着た騎士が祈りを捧げている。

 数千年が経過して、銀色だった鎧は見る影もなく、黒一色に染まっていた。

 中身は何もない。

 魔王崩壊サタンバーストの魔力を受け止めて肉体は消滅してしまった。

 鎧にその精神が憑依したのは余の魔力の影響だろうか。


「アリス、タクミ、リンデン・リンドバーグ。パーフェクトワールドへの鍵はすべて揃った」


『すべての痛みを知る、最も弱い人間が我らの王とならなければいけない。そして、その最弱の人間は、我らより強くなければならない』


 あの言葉が創造神の言葉だったとしても、それを信じてよいものか。

 大きな手のひらの上で踊らされている。

 そんな感覚がずっと抜け落ちない。

 だが、それでも余のために肉体を失ったリックに反対することなど出来なかった。


「聖剣は?」

「今の世代に受け継いだ。俺には……」


 才能はあったよ。

 ただそれを否定したかった。

 終わらない戦いが心地よくて、いつまでも続いてほしかった。


 余にとっての完全な世界は、すでにあの時、そこにあった。




書籍の発売中です!

一二三書房様のレーベル、サーガフォレストからの発売となります。

イラストはtoi8様です。

素敵なイラストを描かれる方に絵を担当して頂き、作者は舞い上がっております。


挿絵(By みてみん)


また、ページ数ギリギリまで書き下ろしを書かせて頂きましたので、かなり本は分厚くなり、お買い得でございます。【宣伝】


書き下ろし特別篇の目次を公開しておきます。


裏章

1. レイアとヨル

2.カルナと死の商人

3.ミアキスとザッハ

4.ゴブリン王とリック

5.ヌルハチと魔王

閑話 アリスとレイア


かなり気合いを入れて書かせて頂きました。


⬇︎下の方にある書報から予約も出来ます。⬇︎

皆様、どうか、よろしくお願い致します。


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