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六十五話 魔王崩壊


 魔王崩壊サタンバースト


 崩壊した魔王から、溢れ出した光が辺り一帯を金色こんじきに染めていく。


 圧倒的魔力。

 それに触れた小さな木々が、突然、樹齢千年ほどの大木に成長した後、パァァアンと弾けて爆発した。


 それは誰にも受け止められない、世界を飲み込む魔力の濁流だくりゅうだった。


『ぎゃーーっ、もう終わりやっ! タッくん、ちゅうしてっ! 最後やから、うちにぶちゅーってしてっ!!』

「お、落ち着け、カルナっ、ヌルハチがなんとかしてくれるっ、たぶんっ!」


 受け止めることはできなくても、き止めることはできるかもしれない。


「波動球・ぜんっ!!」


 ヌルハチの全魔力が球になり、それが、ぷよぷよと幾重にも連なっていき巨大な防壁が完成する。


 ドォーーーーンっ、と崩壊バーストした魔力がそこにぶつかった。


「とまっ……!?」


 ピシッと防壁に亀裂が走る。


「長くはもたんっ! 今のうちに少しでもっ!」


 少しでも? 少しでも離れてどこへ行くんだ?

 世界が崩壊するまで止まらないなら、どこへ逃げても同じじゃないか?


「アリスっ!! なんとかしてくれっ!!」


 崩壊した魔王の一番近くにいたアリスは、魔力に飲み込まれていない。

 まるで魔力のほうからアリスを避けているように、そこだけポッカリと空間ができている。


「やってみる」


 魔王の身体からは、今も止めどなく魔力が噴出していた。

 そこへ向かって、アリスが全力で拳を叩きつけた。


「あ」

「あ」

『あ』


 蛇口が水漏れして叩いて直そうとしたら、さらに勢いよく水が噴出した、あの日を思い出す。


 収まるどころか、魔王崩壊サタンバーストはさらに加速して、世界崩壊のカウントダウンが早まった。


「リ、リックっ! わかったっ! 俺、世界の王になるっ! だから止めてくれっ!」

「もう遅いんだ、タクミ。アレはもう魔王の意志とは関係ない。世界を飲み込むまで止まらない、ただの魔力の集合体だ」


 あきらめないでっ、あきらめないでくれっ! ヌルハチの防壁が壊れる前に、なにか別の手をっ!!


『あかんわ、タッくん』


 ピシッピシッ、と破滅の音はさらに広がっていく。


『ヌルハチの魔力なくなってもうた』

「え? チ、チハル?」


 目の前で全ての魔力を使い果たした大賢者の姿は、小さな幼女に変わっていた。


「ごめんね、ちゃくみ」


 最後に振り向いたチハル、いやヌルハチの前で、パァァーーアンと音をたてて防壁が崩れていく。


 抑えられていた魔力のうずが、爆発したように襲いかかる。

 そして、一番最初に飲み込まれるのは、先頭で魔法を唱えていたヌルハチだった。


『え? タッくんっ!!』


 気がついた時には、魔剣カルナを地面に突き刺し、走っていた。

 小さくなったヌルハチの前に出て、バッ、と大の字で立つ。


「ちゃくみっ!!」


 無駄なことだとはわかっていた。

 俺が魔王崩壊サタンバーストを止められるわけがない。

 すぐ後に、ヌルハチや他のみんなも同じことになるだろう。

 だけど、どうせ終わるなら、みんなが破裂する姿なんて見たくなかったんだ。


「でも超こわい」


 ドドドッ、と魔力が波のように上から覆い被さってくる。

 光が全身を包み込み、あたたかい何かが込み上げてきた。



「ずっと俺に魔王を演じていろ、と?」

「そうだ。魔王だけじゃない。ギルドランキング一位で、人類最強のアリスの師匠。ずっと宇宙最強の魔王でいて欲しいのだ」


 これは? 俺の記憶?


「言わないで下さい、お願いしますのキスだ」


 いや、違う。動揺するマヌケ顔の俺が見えている。

 これは魔王の記憶なのか。



「もはや一刻の猶予もない。このまま何もしなければ、君の破壊衝動は限界を迎える」

「パーフェクトワールドか。の上に立つものができたとて、この破壊衝動が消えるとはおもえんぞ、リック」


 ただの魔力の濁流ではない。

 魔王の記憶が全部、俺の頭の中に流れてくる。


「まあ、よいわ。お主には借りがある。破滅までの日々を楽しむことにしよう」


 悲しみ、憎悪、諦め、様々なものが混ざり合い、魔王の感情をうまく表現できない。



「この娘は?」

「リンデン・リンドバーグ。西方の魔法王国で、天才と呼ばれる魔法使いだ。ヌルハチのように長くは持たないが十年ほどなら、憑代よりしろとして耐えることが出来るだろう」


 あれ? どこかで見たような気がするぞ。俺はリンデンさんを昔から知っているのか? 


「よいのか? お主の人生を奪うことになるぞ」

「構わないわ、私が憑代になる」



「なにをしているのだ?」

「花のタネを蒔いている。貴方から漏れ出る力で土や水、光がなくとも、きっと咲く」


 あの花(ブルーローズ)のタネを蒔いたのは、ヌルハチだったのか。


「いつか、貴方より強くなって迎えに来てあげる」


 魔王の中に新しい感情が生まれていた。



『誰か来りゅよ』

『誰が来ようと同じだ。あの扉は誰にも開けれない』


 魔王と幼いアリスが見守る中、誰にも開けれない扉が開かれる。

 そこから光が溢れて、全てが真っ白に染まっていく。



「あ、あれ?」


 魔王の記憶が終わり、俺は魔力の濁流に飲み込まれる前の姿で、立っていた。


魔王崩壊サタンバーストは?」


 ヌルハチもリックも、カルナやアリスも答えてくれない。

 誰も何が起こったのか、わからないみたいだ。

 驚愕の表情のまま、固まっている。


「え? 俺が全部受け止めたの?」


 魔力の濁流は綺麗さっぱりなくなって、穏やかな川のせせらぎと、小鳥のさえずりだけが聞こえてきた。



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