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六十四話 御伽話


 魔王とアリスの戦いが激化する中、意識を失っているリンデンさんの救出をこころみる。


 もちろん、怖いのでヌルハチの後ろに隠れてだけど。


 魔王やアリスの攻撃の流れ弾に当たったら、俺なんか一発で消し飛ばされてしまう。防御魔法を使えるヌルハチにしか、リンデンさんは救えない。


「……拒絶空間。リンデンのまわりに衝動を無効にする魔法が施してある。誰も触れることはできん。助けは必要なかったようじゃ」

「え? そうなの? 魔王はちゃんと憑代よりしろのこと考えていたんだな」


 人類を滅ぼすとか、破壊衝動とか恐ろしいことを言ってたけど、優しいところもあるじゃないか。


『ほんまやな、周りに被害が及ばへんように戦っているように見えるで。どっちかいうとアリスのほうが何も考えてへん感じが……あっ』

「ああっ! アリス、そっちダメっ! 洞窟がっ!!」


 空間をずらして魔王がアリスの攻撃をよけたが、そのままの勢いで、アリスが洞窟に突っ込んでいく。


 ドンガラガッシャーーンッ、と中の家具たちが破壊されていく絶望の音が響き、最後は洞窟の屋根を突き破ってアリスが戻ってくる。


「お、お家が。10年間住んでいた、思い出のマイホームが……」


 お家も再生リバースしてくれないかなぁ。


「ふぅーー」


 アリスが大きく息を吐く。

 おそらく、その瞳にはもう魔王しか映っていない。


「もう、ちまちまやるの、めんどくさい」


 これまでと違い、アリスは不用意に向かっていかない。

 ぐっ、と拳を握ったまま、深く腰を落として静止した。


「力を貯めているのか? そんな見え見えの構えで? そんなものに、余が当たるとでも思っているのか?」

「当たるよ。本気だから」


 ごくっ、と唾を飲み込んだ。

 辺りの温度が上昇し、空気中の水分が蒸発していく。


 ダンっ、と踏み込んだ地面が爆発し、アリスの最大の一撃が魔王に向かって解き放たれる。


 ぐにゃり、と、空間が歪む。


 魔王の位置がブレるようにズレて、余裕の笑みを浮かべる。

 その笑みが一瞬で凍りついた。


 ピタリ、と。


 ズレた魔王の目前に、アリスの拳がうねりをあげて迫っていた。


「わざとずらしたのかっ!?」


 アリスに細かい計算ができるはずがない。

 野生の本能が、ズレる距離を完全に予測していた。


 引きつった笑みを浮かべた魔王の顔面に、アリスの拳が炸裂する。


 ゴゴゴゴッツっっんんンッッッ、と聞いたことのない大轟音が響き渡り、魔王の顔が爆発したみたいに粉砕された。


 初めてクリーンヒットしたアリスの一撃。しかし、魔王は潰れた顔面で、例の魔法を無詠唱で発動させる。


再生リバース


 完全に致命傷だと思われるほどのダメージも一瞬で回復していく。

 あまりにも理不尽な魔王の能力に、誰もが絶望を覚える中、アリスはまったく気にしない。


「参る」

「ま、まてっ! 」


 無詠唱が可能な魔法だが、一つの魔法が終わるまで次の発動はできないのか。

 髪の毛一本ほどの回復が残る、わずかな隙間。

 空間をズラせない魔王のみぞおちに、アリスの拳が突き刺さる。


「ぐぬぅっっ」


 すべての臓器が機能を停止したのか?

 声にならない声を上げる。


 たまらず、バッ、と後方に飛んだ魔王を追いかけて、そのままアリスが並走へいそうしていた。


「リ、再生リバース

「遅い」


 今度は回復が始まる前に、追撃の拳を魔王の上から叩き込む。


「がはっ!!」

「さらに参る」


 すべての敵を一撃で倒してきたアリスが、初めて終わりのない連打を繰り広げる。

 なのに、それは今まで何度も繰り返してきた技のようで、ゾクッとするほど美しい。


「こ、これ、もうアリスが勝っちゃうんじゃないか」

「……魔王はそんなに甘くない」


 答えたのはヌルハチでもカルナでもなかった。

 アリスの一撃で破壊されたボロボロの鎧が、なんとかここまで戻ってくる。


「リックっ!」

「破壊衝動、魔王の降臨、そして崩壊。俺が止めたかったものが、ぜんぶ揃ってしまった」


 え? これアリスが魔王を倒してハッピーエンドじゃないの?


魔王崩壊サタンバースト。あの話は本当じゃったのか」

「知ってるのっ、ヌルハチっ」

「某大な魔力で構成された魔王の肉体が滅ぶと、魔力が暴走して世界が崩壊するまで止まらない。誇張された御伽話おとぎばなしかと思っておったわ」


 世界が崩壊っ!!

 う、うそだろっ!? 

 魔王をフルボッコにしているアリスを止めないとっ!!


『む、無理やで、タッくん。あんなん止められるん、この世におらへん』


 ほ、本当だ。もはやアリスのほうが世界を崩壊させてしまいそうな勢いで暴走している。

 すでに魔王の肉体は原型をとどめていなかった。


「お前が、世界の王になるしかなかったんだ、タクミ。魔王崩壊サタンバーストはアリスにも止められない」

「いや、俺が王になっても止まらないよっ! パーフェクトワールド(笑)で本当に全部解決すると思ってたのかっ!?」

「(笑)をつけないでくれ、タクミ。アレは俺が考えたんじゃない。この世界が誕生した時から伝わってきた創造神の言葉なんだ」


 そ、創造神? それこそ御伽話か何かじゃないのか?


『あかんっ、タッくんっ! 魔王がっ!!』

「ストップぅっ! 待つんだっ、アリスっ!!」


 やっぱりアリスは止まらない。

 無慈悲な一撃が魔王の身体を貫いて、そこから、まばゆい光があふれ出す。


 世界崩壊のカウントダウン、魔王崩壊サタンバーストが始まった。




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