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六十一話 推して参る

 

連層千枚ノ盾(シールドミルフィーユ)無限アンリミテッドっ!!」


 アリスの拳を拒絶するかのように、リックの前に数えきれないほどの盾が何層にも重なり並べられていく。


 それでもアリスは止まらない。

 ただ真っ直ぐに、一直線に、そのままに。全力の一撃を叩き込む。


 パパパパパパパパパパパパンッ、と小気味よい破裂音と共に、次々と盾が砕かれていく。


「我を過ぐれば永劫の罰あり、我を過ぐれば滅亡の始まりなり。聖なる威力、比類なき叡智、無慈悲なる愛、我を造れし物として我より先に造られし物はなし。しかして、われ永遠にそびえ立つ。汝等、ここに入るもの一切の望みを棄てよ」


 盾が破壊される中、リックが早口で呪文のような言葉をつぶやいている。


「カルナっ、あれはっ!?」

『失われた暗黒魔法やっ!』


 リックの足元の地面が隆起して、突如、巨大な何かが出現した。


羅生地獄門らしょうじごくもん


 それは盾ではなく、歪な形をした門だった。

 扉には様々な姿で苦しむ人達や骸骨が彫刻され、門の上部には、それを監視する鬼の彫像が鎮座している。

 地獄絵図が描かれた巨大な門は、あまりにも禍々しく、不気味なオーラを放っていた。


「アリス、気をつけろっ! ただの門じゃないっ!」

『そんなん誰が見てもわかるわっ!』

「大丈夫」


 やっぱりアリスは気にしない。

 盾を砕いた勢いのまま、巨大な門をゴーーンッと思いっきり殴りつける。

 扉は簡単に破壊され、人間や骸骨の彫刻が飛び散り、門の中心にポッカリと大きな穴が開いた。

 だが、その向こうに見えるはずの、リックの姿が見当たらない。

 扉の穴の向こうには、ただドス黒い空間が渦をまいて広がっていた。


「終わりだ、アリス。暗黒に飲み込まれろ」


 ぶわっ、と門の穴から無数の黒い腕が伸びてくる。

 それらの腕が次々とアリスに纏わりつき、全身を覆い尽くす。


「カルナっ、あれっ、バルバロイ会長の暗黒(ダーク)吸収陣(ドレインサークル)とそっくりだっ!!」※

『バルバロイのは劣化版でこっちが本家本元やっ! 力、吸い尽くすだけやなくて、地獄に引きずり込まれてまうっ!』


 リックのヤツ、こんな暗黒魔法を隠していたのか。

 まったく力のない俺は平気だったが、アリスはヤバい。

 力が服を着ているような子なんだもの。


「ヌルハチっ、アリスがピンチなんだっ、ちょっと助けっ……あれ? ヌルハチは?」


 いない。ヌルハチだけじゃない。そういえば過去回想が終わってからみんなを見かけていない。サシャとバッツもいなくなってる。


「邪魔されたくなかったから、少し退場してもらったわ」

「リ、リンデンさんっ」


 どうしてここに、という言葉を飲み込んだ。

 過去回想でリックと繋がっている場面を何度も見てきた。

 空間魔法を使える彼女がここに来ることは予測できたはずだ。


「……み、みんなはどこに?」

「安全なところよ、少し遠いけど。戦いが終わったら戻してあげる」


 何もない空間から、真っ赤な二人がけソファーを取り出して足を組んで腰掛ける。

 並んで座れというのか、空いてる隣をトントン叩いて手招きしてきた。

 魔王に逆らったら怖いので、素早く、ちょこんとリンデンさんの隣に座る。


「心配しなくても、アリスはこれくらいじゃ止まらないわ」


 ほ、本当に? 今にも門の中に吸い込まれそうなんだけど。


「ふんっ」


 アリスが吸い込まれる寸前で、両足に力を入れて踏み止まる。


「無駄だ、アリス。すべての力は吸収される」


 全身に纏わり付いた黒い腕が、さらに勢いを増してアリスの力を吸っていく。


「あ」

『どうしたんっ、タッくんっ』

「黒い手が、ぱんぱんにふくらんでる」


 骸骨のように細かったすべての腕が、今は破裂寸前の風船みたいに、ぷぅーーっ、と膨張していた。


「はぁっ!!」


 アリスがさらに力を込めると、ベゴんっ、とその衝撃で地面がへこみ、クレーターのように広がっていく。


 同時に許容量の限界を超えた黒い腕が、パァァアンっ、と花火のように爆発した。


「地獄がぜる。さすがね、アリス」


 パンっパンっパンっパンっパンっパンっパンっパンっ、と漆黒の花火が連続で打ち上がり、羅生地獄門がガラガラと崩れていく。


 鎧姿のリックの表情はないはずなのに。

 崩れる門の向こうで、信じられないといった驚きの顔が、ハッキリと浮かんで見えた。


「タクミがじじいのやつを無視したみたいにはできなかった。まだまだワタシは、タクミの足元にもおよばない」

「無視したんじゃないよ、ただ吸われる力がなかっただけだって」

『タッくんの器、空っぽやもんな』


 昔、ヌルハチが俺の器のことを言っていた。

 壊れた器。誰もが持っているはずの、力を貯める器が俺にはないと。


「誰もわかってないのね。アナタの器は壊れてなんかいないわ。ただ、あまりにも大きすぎて気付けない。それはどこまでも広がる聖杯と呼ばれる代物よ」

「セイハイ? 何それ?」

「……今はいいわ。いずれ知る時がくるから」


 え? 今の俺の話じゃないよね? 

 リックとアリスの戦いがクライマックスで、ちゃんと聞いてなかった。


「もう来ないの?」

「……暗黒魔法は莫大な魔力を消費する。これでネタ切れだよ、アリス」


 少し残念そうな顔をしたアリスが再び拳を振りかぶる。


「推して参る」


 凄まじい轟音と共に、人類最強の一撃がリックの鎧に撃ち込まれた。



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