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五十四話 タクミ覚醒(嘘)

 

 地下二階層に降りていくフードの人物をじっ、と見る。

 確かに身長や体型はヌルハチと酷似している。

 しかし、受付のリンデンさんは確か、俺達が試験を受ける前にもう一人いると言っていた。

 事前にヌルハチが登録していたとは考えにくい。


『途中で入れ替わったんやな。最初控え室で会った時、フードの人、もっと体格よかったで』


 そう言われたらそうだった気がする。

 大丈夫なんだろうか。

 ギルドランキング一位が入門試験に紛れ込んだのがバレたらえらいことになる。


『タッくん、オロオロしても仕方ないで。これ、過去回想やん』

「そ、そうだったな」


 確か特に問題なく試験は終了した気がする。

 いや、それも俺が気がつかなかっただけかもしれないが。


 地下二階層の作りは地下一階とさほど変わらない。

 リックを先頭にフードのヌルハチ、俺、サシャの順番で慎重に歩を進めていく。

 前回は二階層まで辿り着かなかったのでここから先はどんな魔物が出るかわからない。


「みんな、ちょっと止まって」


 一本道の通路が左に折れる手前で、あることに気がついた。

 松明で照らされた通路の先から、薄っすらと影が伸びている。

 

「待ち伏せだっ。何かがいるっ」


 リックとフードのヌルハチが臨戦態勢に入る。

 同時に通路からゆっくりと剣を持った白い骨が姿を現わす。

 スケルトンだ。

 人間のように動く骸骨の魔物で知能は低いが魔法使いなどが操り、単純な指示を与えることが出来る。

 ギルドが待ち伏せを指示して壁際で待機していたのだろう。


『タッくん、やるやん。これは評価高いんちゃう?』

「残念だけど戦わないとそこまで点数は貰えないんだ」


 それは仕方のないことだと思っていた。

 作戦やサポートを上手くこなしても、実際の冒険では貧弱な者はすぐに死んでしまう。ギルドはその為に最低基準を設けている。


『そうなんや、でもカッコええで。チャック全開やなかったら惚れてまうわ』

「い、言わないでくれ」


 しかし、このチャック全開、試験が終わった後も気付いた記憶がない。一体いつまでこの状態なんだろうか。


 スライムの時と同じようにスケルトンの剣撃をリックが鮮やかな盾捌きで受け止めている。


「はっ」


 剣の攻撃に合わせ、リックが盾を叩きつけると、がいんっ、という鈍い音と共にスケルトンの剣が弾け飛んだ。


「サシャ、今だっ」


 スライムの時と同じようにサシャにトドメを頼もうとした時だった。


「あっ、タクミっ!」


 剣を失ったスケルトンが、リックの横を抜けてヤケクソ気味にこちらに突進してきた。

 完全に不意をつかれ、慌てふためく。


「うわぁああっ!」


 身体が宙に舞う。

 スケルトンの体当たりを喰らって吹っ飛んだ、そう思ったのだが、まるで痛みがない。


『タッくん、これ』

「ああ、ヌルハチだ」


 こっそりと浮遊の魔法を俺にかけてくれたのだろう。

 スケルトンのちょうど真上に俺が浮いている。


「タクミっ」

「おうっ!」


 サシャに応えるように空中で大剣を抜いて、そのままスケルトンめがけて振り下ろす。

 いや、正確にはだだ抜いただけで、重力に任せるままスケルトンに向かって剣が落ちていっただけだ。


 ざしゅ、という小気味のいい音と共にスケルトンが真っ二つに切り裂かれる。


「う、お、うぉ」


 大剣を握ったまま、俺はその場に立ち尽くしていた。

 そして、初めて魔物を倒した興奮に感情を抑えきれなくなる。


「うぉおおおおっ! 見た? 見たか、サシャ! 俺、なんか知らないけど覚醒したっ! 咄嗟のジャンプからの垂直斬りでスケルトン倒したっ! これが眠っていた力ってやつかっ! 俺、すげえっ!」


 チャック全開の中、半泣きで叫ぶ変質者。


『タ、タッくん』

「言わないで、なにも言わないで。あの時は自分の実力だと思ったんだよ。奇跡の力が覚醒したとか思ってしまったんだよ」


 そんなはずは無いのに、ヌルハチの存在を知らない俺は、興奮冷めやらぬまま、まだ何かを叫んでいる。


「そうだっ、今の技に名前をつけようっ! タクミスマッシュ、いや、タクミインパクトなんてどうかなっ!」

「あ、うん、い、いいと思うよ」


 なぜ、サシャがドン引きしていることがわからないっ!

 なんだ、この黒歴史のオンパレードはっ!


「そういえばカルナは力を貯めるために活動時間が短くなったんだよな、そろそろ寝ないでいいのか?」


 この恥辱にまみれた過去回想をもう見ないでほしい。


『大丈夫やで。実際は三分も経ってへんし、全然疲れへんわ。それにこんな面白いのん、見逃したくないやん』


 完全に喜劇を楽しむ観客気分のカルナ。


 さらに地下二階層を進んで行くと、左に曲がった通路の奥から、わらわらと数匹のスケルトンが湧き出てきた。


「タクミっ、どうするのっ」

「大丈夫、今ならやれる気がする」


 やれねえよっ!


 ドヤ顔で大剣を構える自分自身に思わずツッコミを入れてしまう。


『タッくん、あれ』


 フードのヌルハチから一陣の風が吹き、スケルトンに向かって飛んでいく。

 ピシピシとスケルトンに小さなヒビが入っていくのだが、ギリギリのところでその形を保っている。

 そんなことには、まるで気がついてない過去の俺は、自信満々にスケルトンの群れに突っ込んでいく。


『なんでタッくん、ちょっとカメラ目線なん? 画像も鮮明やし、このシーンだけ、なんかクオリティ高いでっ』


 冒険者時代、唯一のいい思い出だったので、はっきりと覚えているのだろう。

 大丈夫、次からはたぶんボカシとか入るから。


 めちゃくちゃに振り回した大剣は、スケルトンにかすりもしない。

 だが、大剣の動きに合わせて、ヌルハチがスケルトンに向かって振動の魔法を唱えている。

 風魔法で入った亀裂が振動により広がって、スケルトンが粉々に崩れていく。


「見たかっ。これがタクミタイフーンだっ」


 まるで剣風がスケルトンを破壊したかのように錯覚した俺は再び必殺技の名前をノリノリで叫ぶ。


 そして興奮状態の俺と違い、冷静なリックやサシャはここでヌルハチの仕業だと気がついたようだ。

 二人してジト目で、フードのヌルハチを見つめている。


「タ、タクミには内緒で頼む」


 どうやら二回目のギルド試験も俺は不正により合格したみたいだった。

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