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五十二話 カルナと過去回想

 

 ルシア王国を出た後、最初に向かったのはギルド協会の本部だった。

 リック達三人は、冒険者として登録していない為、ギルドへの入門試験と、ついでに俺のランク更新をしに受付に来たのだが……


『タッくん、タッくん』


 突然、頭にカルナの声が聞こえてくる。


『これ、過去回想てやつなん? すごいで、映像まで見えてくるで。タッくん、うち、前よりもタッくんと繋がってるわ』

「そ、そうなのか?」


 以前から考えていることは筒抜けだったが、まさか過去回想が画像付きで見られることになるなんて、恥ずかしいを通り越して、ビックリ仰天だ。


『あれやな、リックとの過去を振り返って、なんで黒幕やったんか調べるんやな。結構長い回想でも現実では数分しか経ってないとかいう例のヤツやな』

「あ、ああ、よくわかったな、そのとおりだ」


 カルナのテンションがめっちゃ高い。

 映画を見ている感覚なんだろうか。


『なぁなぁ、タッくん。所々にツッコミ入れてもええ?」


 自分だけでは気が付かない過去のこともカルナなら気が付いてくれるかもしれない。


「ああ、よろしく頼む」


 前代未聞のツッコミ搭載の過去回想が再開された。



「え? タクミはまだFランクのままなのか?」


 ヌルハチがギルドの受付で揉めていた。


「先日、クエストランク AAA(トリプルエー)のサラマンダークイーンの討伐を果たしたのだが、それでもFのままなのか?」

「はい、調査の結果、タクミ様はずっと荷物を持っていただけですので、功績ポイントはゼロポイントです。会長によると一度試験を落ちたタクミ様はマイナス100ポイントからのスタートですので、まだまだご活躍していただかないとEランクには上がれません」


 受付の眼鏡のお姉さんが感情のない声で淡々と説明する。

 そういえば、バルバロイのクソジジイはこの頃から俺を目の敵にしていた。


『タッくん、きっついスタートやな。Fランクなんか聞いたことないで』

「ああ、今も昔もFランクになったのは俺一人だけだ」


 カルナのツッコミに答えながら、情けない名誉に目頭が熱くなる。


「よろしければ、もう一度、入門試験を受けることをお勧めします。受かればEランクからのスタートですし、お仲間さんと一緒にどうでしょうか?」

「それ、落ちたらどうなるんだ?」

「もちろん、ギルド資格剥奪となります」


 可愛い顔して恐ろしいことをお勧めしてくる受付の眼鏡のお姉さん。


「これはやめといたほうがよさそうだな、ヌル……」

「面白い、受けてたとう」


 受けてしまったよ、ヌルハチが。


「ぬ、ヌルハチ。俺、ついこないだ試験落ちたばかりなんだけど」

「ビビるな、タクミ。馬鹿にされたままでどうする。落ちたら、またなんとかしてやる」

「二度目は絶対にない、と会長は申しておりましたが」


 眼鏡の奥のお姉さんの眼光が鋭く光る。


「お主、新しい受付か。なかなか生意気だな、名を名乗れ、覚えておいてやる」

「これはこれは、ギルドランキング不動の一位ヌルハチ様に覚えて頂けるとは身に余る光栄。リンデン・リンドバーグと申します。以後、お見知り置きを」


 バチバチと受付と火花を散らしているが、やめてほしい。かかっているのは俺のギルド資格だ。


「それでは今日は他にもう一人いらっしゃいますので、皆さん同時に試験に挑んで頂きま…… あら、こちらのバッツ様は罪人ですね。残念ですが、試験資格そのものがありません」

「む、女王め。まだ罪状を取り下げてなかったのか。すぐに手配をするよう伝えよう。今回はヌルハチの顔に免じて試験を受けさせてやってくれ」

「なりません。規則(ルール)は絶対です」


 再びバチバチとやり合うヌルハチと受付の眼鏡のお姉さん。それを止めたのはバッツ自身だった。


「いいよ、いいよ。オイラ冒険者にもランキングにも興味ないし、勝手にやってくれ」


 そう言いながらも受付の眼鏡のお姉さんに近づいていくバッツ。


「そんなことより、お姉さん、後でお茶しない? えっ? なに? お、おいっ 離せよっ」


 ギルドの衛兵に両脇を抱えられてバッツが退場していく。本当に冒険者に興味はないようだ。


「それでは、準備が出来次第お呼びいたします。各自、控え室にて、待機しておいて下さい」


 何事もなかったかのように、冷静に対処する受付の眼鏡のお姉さん。

 十年以上後に再び会うことになるのだが、魔王の影響で容姿が変わり、この時会っていたことを思い出すのは、大武会の後になる。


『タッくんっ、リックのほう注目してっ』


 カルナのツッコミが入る。

 過去では俺はこの場面で集中してリックを見ることはなかった。

 だが、記憶の中にはリックの姿とその時話した言葉は確かに残っていたのだ。


「……西方出身者か。かなりの魔力を持っているな」


 この時、リックはすでにリンデンさんに目をつけて観察していたのだ。魔王の器の候補として。


『タッくん、覚悟しといたほうがいいで』


 気楽に映画を見ているような感じだったカルナの声が、真剣なものに変わっていた。


『たぶん、この過去回想、見たくないものも見ることになるわ』

「ああ、それでも……」


 その予感は俺も感じていた。

 だが、俺はリックの真実を知らなければならない。


「それでも、俺はちゃんと思い出すよ」


 たとえ絶望することになったとしてもだ。



 控え室に向かうと、フードを深く被った人が一人座っていた。もう一人の試験者だろう。

 顔が見えず、男か女かもわからない。

 頭を下げて会釈をすると、向こうも同じように会釈を返してきた。


「ねえ、タクミ。入門試験てどんなことをするの?」

「毎回試験内容は変わるみたいだけど、試験はここの地下にある模擬ダンジョンで行うんだ」


 サシャに話しながら数ヶ月前に挑んで、何も出来ないまま、あっ、という間にリタイアした苦い思い出が蘇る。


「模擬ダンジョンにはギルドが用意した簡単な罠や、隠された宝箱、それに魔物が用意されている。合格条件は様々だけど、成績がよければいきなりBランクやAランクになる人もいるらしい」

「へぇ、アトラクションみたいで楽しそうね」


 はしゃぐサシャとは対照的にリックは無言で座っていた。


「準備が出来ました。こちらへどうぞ」


 控え室の扉が開いて、リンデンさんが現れた。

 二度目のギルド入門試験に、緊張で鼓動が早まる。


『あっ! タッくんっ!』


 再びカルナがツッコミを入れる。

 また、リックに何か怪しい行動があったのかと注目するが、別段変わった様子は見受けられない。


「なんだ、カルナ。別にリックに変わった所は……」

『ちゃ、ちゃうねん。タッくん、あんな……』


 こんなに歯切れの悪いカルナは初めてだった。


「言ってくれ。どんなことでも受け入れると決めたんだ」


 だが、カルナから出た言葉はとても受け入れられない事実だった。


『タッくんのチャック、全開バリバリに開いてるねん』


 変えられない過去の失態に涙目で目を背ける。

 出来れば知らないままでいたかった。


「さあ、行こう。サシャ、リック。入門試験だ」


 チャック全開のまま、カッコつけて模擬ダンジョンに向かう過去の自分を、とりあえず殴りたかった。

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