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五十一話 始まりのパーティー

 

 リックは語らない。

 沈黙の盾と呼ばれる男は、無言のまま、俺の前に立っている。


 無意識のうちに黒幕がリックということを考えないようにしていた。

 ルシア王国の騎士団長であり、各国の役人と繋がりもある。

 なによりタクミポイントシステムには、ポイントを払わないと俺に近づけない鉄壁のガードが施されている。

 どこか懐かしいものに守られていたような気がしたのは、リックの盾術が影響していたのか。


「どういう事だ、リック?」

「……」


 やはり、リックは答えない。


『大武会、いえ、もっと前から計画を立てていたはずよ。綿密で壮大な計画。きっとタクミとアリスを利用して何かを企んでいる』


 サシャの言葉を思い出す。

 一体いつからリックはこの計画を練っていたのか。

 そして、その目的は一体何なのか。


 冒険者時代、リックと出会った日の事を思い出す。

 ああ、そうだ。

 最初、はじめて俺を見た時のリックは明らかにおかしかった。

 どんな時も冷静沈着なリックが、その時、明らかに動揺していたのだ。



「わかった。この三人、貰っていく」


 ヌルハチが女王から三人を預かり、城から出た後だった。

 城下町の酒場でサシャとバッツが自己紹介する中、リックはただ無言で俺を見ていた。


「リック、ほら、自己紹介、あなたの番よ」

「……ああ、そうか」


 エールが入ったグラスを持つ手が少し震えていた。

 大賢者を前にして緊張しているのだろうか。


「リックだ。ルシア王国の騎士団長をしている」


 軽くお辞儀をすると、再び俺のほうを見る。

 あまりに低レベルな俺が大賢者のパーティーにいることが信じられないのだろうか。

 確かに、俺の力はこのメンバーの中で飛び抜けて低い。

 いや、正確にはギルドでただ一人の最低のFランクだから、冒険者全体の中で断トツに低いのだが……


「俺はタクミ。今はまだ駆け出し(ルーキー)だけど、いつか立派な冒険者になるつもりだ」


 それでも、パーティーの先輩として頑張らないといけない。

 ヌルハチが俺を守るために集めたパーティーメンバーだが、いつまでも続けるわけにはいかなかった。


「よろしくね。サポートは任せて。たくさん回復してあげる」

「金さえ貰えれば文句なしだ。仕方ないから助けてやるよ」


 サシャとバッツが励ましてくれる中、リックが小さな声で呟いた。


「いつか、立派な冒険者か……」

 

 なんだか挙動不審な暗い奴、というのがリックの第一印象だった。



 酒場を出た後に向かったのは、城下町の片隅にひっそりと佇む武器屋だった。


「全員の装備をここで整える。各自、己に見合うものを探すといい」


 ヌルハチの言葉に一番喜んだのはバッツだった。

 拘束されていた鎖からは解放されたものの、上半身は裸で、下半身もボロ雑巾のようなズボンを履いているだけで、ロクな装備を身につけていない。


「値段の制限はなしか? いくらでも買っていいのか?」

「ああ、構わない。ただし、冒険者として稼いだら返してもらう。特別に利子は取らないでおいてやろう」


 バッツがあからさまにがっかりした顔になった。


「ちっ、セコイな、大賢者」


 ぶつくさいいながら、必要最低限の装備を整えるバッツ。


「私も新しい杖と替えの服を探そうかな。タクミはどうするの?」

「あ、ああ、俺は特にいらないよ」


 気さくに話しかけてくれるサシャに動揺を隠せない。

 年齢イコール彼女いない歴の俺にサシャの笑顔は少し眩しすぎた。


「そうなの? その短剣、だいぶくたびれてない? 大丈夫なの?」

「うん、後で研いでおくよ。小さい頃から使っていているから、手に馴染んでいるんだ」


 ナイフといってもいいほどの小さな短剣は、冒険者になろうと決意した時、自分で買ったものだった。

 何度も研ぎなおして大切に使ってきたが、確かにそろそろ限界が近いのかもしれない。


「タクミ、ちょっとコレを持て」


 サシャと話している中、ヌルハチがいきなり俺に何かを渡してきた。

 ズシリと重いそれは、かなり大きな大剣で、支えきれず、おもわず床に落としそうになる。


「な、なんだ。ヌルハチ、これ、めっちゃ重たいんだけど」

「ああ、店で一番大きな剣を選んだ。持ってるだけでも少しは筋力がつくはずだ」

「え、ええっ。すごくいらないんだけど。俺、これに金払うの?」

「いや、それはヌルハチが選んだし、プレゼントしてやろう。ちゃんと鍛えておけ」


 少し照れながらヌルハチがそう言って離れていく。

 バッツがえこひいきだと騒いでヌルハチにつきまとい、ボコボコにしばかれていた。


 武器屋に設置された試技室で大剣を振ると、その重さに負けて身体が流れてヨタヨタになる。

 どすん、と尻餅をついたがヌルハチに貰った大剣は離さず、しっかりと握っていた。


「ねえ、ヌルハチ、これで俺、強くなれる?」

「う、うむ。きっと強くなれると思うぞ」


 ヌルハチの唇がプルプルしている。

 どうやら必死に笑いを堪えているようだ。


「本当に?」

「ほ、本当だとも」


 ヌルハチは俺と目線を合わせてくれない。


 皆がそれぞれ新しい装備を買う中で、ただ一人、リックだけは何も買おうとしなかった。

 全身を黒い鎧で包み込んで、さらに黒い盾を腰にかけている。

 しかし、そこには武器らしきものを身につけてはいなかった。


「リックは、剣を持たないのか?」


 そう尋ねると、リックはまた少し沈黙したまま、しばらく俺を見つめていた。

 なんだろうか。

 出会ってからずっと観察されているような気がする。

 大剣を振る様があまりに無様で軽蔑されているんだろうか。


「……ああ、剣は持たない」


 それだけ言った後、リックが口を開くことはもうなかった。

 その理由を知る事になるのは、もっとずっと後の話。

 あの大事件が起こった時のことだった。

 

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