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四十九話 四人目の存在

 

「まあ、そう焦りなさんな。ゆっくりいこうぜ」


 炊き込みご飯をおかわりしながら、バッツは我が家のようにくつろいでいる。


「これってアレだよな。子供の頃に遊んだやつに似てるよな」

「ドロケイね。私も昔、リック達と遊んだわ」


 バッツとサシャの会話にレイアは首を傾げている。


「レイアは遊んだことないのか? ドロケイ」

「ええ、私はそのような遊びはしたことは……」


 そういえばレイアの一族は幼少の頃から厳しい修行をこなしていたと聞いていた。

 子供同士で遊んだりしてこなかったのだろう。

 悪いことを聞いたなと思いつつ、ドロケイの説明をする。


「ドロケイというのは、泥棒組と警察組のグループに分けて遊ぶ鬼ごっこだ。警察が泥棒を捕まえたら牢屋に入れるんだけど、捕まった人を助けることもできる。全員捕まえたら警察の勝ち。時間内に逃げ切れば泥棒の勝ちだ」

「チーム戦の鬼ごっこですか。今二人捕まえてヨルを捕まえれば勝ちということですね。反対に二人を救出されて、逃げられたら負け。確かに同じような状況ですね」


 さすがレイアだ。理解が早い。

 元々、ドロケイは遥かな昔、こことは異なる世界で遊ばれていた遊戯だと聞いたことがあるが、余計な情報なので黙っておく。


「ちょうどこちらも三人だし、三対三でやろうぜ」


 バッツはすでに遊び気分でいるようだ。

 いや、ちょっと待てよ。


「バッツ、こっちは四人いるんじゃ?」

「え? タクミもやるの?」


 そうだった。

 こういう時、バッツはいつも俺を外していた。

 俺が戦力外なのは知っている。

 知ってはいるが、悲しみが止まらない。


「わ、わかった。俺は見学にしておこう」

「確かにタクミさんが参加してしまっては、一瞬で終わってしまいますものね。私の修行の意味を込めて、身を引いて下さったのですね」

「あ、ああ、よくわかったな、そのとおりだ」


 ちょっと涙目で答える。

 くそう、参加したかった。

 俺も混ぜてほしかったぞ。


「ああ、そういやはじめましてだな。オイラはタクミの昔の仲間のバッツだ。えとアリスの弟子でタクミの弟子のレイアさん、だったよな」

「バッツ殿。こちらこそ、挨拶が遅れて申し訳ない。今はアリス様の元を離れ、タクミさんに弟子入りさせて頂いたレイアと申します」

「あー、いらんいらん、堅苦しいのはやめてくれ。しかし、タクミの弟子になったのは、正解だな。アンタは少しアリスに似ている。きっとタクミから色々なことが学べるだろうよ」

「は、はいっ。ありがとうございますっ。バッツ殿っ」


 クロエやサシャとは、最初すぐに馴染めなかったレイアがバッツとはすぐに打ち解けている。

 そんなところも、ある意味バッツの才能だ。


「ヒル姉ちゃん、私たちすっごく舐められてない?」

「気にするな、アサ。ヨル姉さんはこんな奴らに負けはしない」


 ヒルとアサは、本当に大人しくヨルが助けに来るのを待っている。

 それだけヨルを信じているということか。


「ふむ、こいつらの言う通りなかなかやるな。完全に位置を見失った」

「いったん離れて帰ったということはないの?」

「ないな、一度ここから離れたらタクミポイントがなければ近づけない。必ず近くに潜んでいる」


 バッツが目を閉じて、気配を探っている。


「獣の気配しかしない。うまく紛れているのか」

「獣化の儀ですね。私とヨルは幼少の頃、獣の群れに放り込まれ、数ヶ月共に暮らすという修行をしてきました。気配だけなら獣と見分けがつかないはずです」


 相変わらずの凄まじい幼少時代に目頭が熱くなる。

 今日の晩御飯は腕によりをかけて好物を作ってやろう。


「そいつはちょっと厄介だな」

「私が行ってまいります。同じように獣化の儀を使えば、見つけられるでしょう。バッツ殿とサシャ殿は見張りをお願いします」

「わかった。気をつけろよ」


 ぺこりと頭を下げると、レイアは素早く洞窟から飛び出していく。

 レイアとヨルが戦うのは、大武会以来であの時はレイアが勝ったようだが、魔王に呼び出されていてまったく見ていない。

 まあ、捕まえたら決着する鬼ごっこみたいなものだし大丈夫だとは思うが……


「なかなか素直ないい子じゃねえか。で、タクミ、もうやっちまったのか?」

「やってないよっ!」

「やってないわよっ!」


 サシャまで一緒に否定してくれる。

 これ、女性が登場するたび聞いてくるんじゃないだろうな。


「さて、とりあえず入口に罠でも仕掛けておくかな。サシャは二人を見張って……」


 バッツの言葉が止まっていた。


「えっ!?」


 サシャがアサとヒル、二人が先ほど座っていたところを見て驚きの声をあげる。


「二人が、いないっ!?」


 消えていた。

 さっきまで会話もしていた二人が忽然と姿を消している。

 バッツに一切気配を気付かれず、この場所から脱出したというのかっ!?

 馬鹿な、あの二人にはそんな真似は出来ないはずだ。


「ヨルが助けに来たのかっ!?」

「違う。たとえ隠密でもここまで気配を消せるものか。どうやらここに来ていたのは三人じゃなかったみたいだな」


 いままでおどけていたバッツが、初めて真剣な表情を見せる。

 洞窟の中にピリピリと張り詰めた空気が流れていた。


「もとから四人だったんだ。こんなこと出来るのは、オイラは一人しか知らない」


 誰だ?

 隠密すら凌駕するほどの気配を消せる者が存在するのか?

 しかも、ヒルやアサの気配まで消したというのか?


「……それは一体?」

「決まってるだろ」


 その答えはあまりにも予想外の答えだった。


「黒幕が…… アイツがやって来たんだ」


 バッツは真剣な表情のまま、その口元に笑みを浮かべた。


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