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四十六話 愛の大議論大会

 

 デウス博士とエクスの襲来から一夜明けた早朝、クロエがいつものように訪問していた。

 タクミポイントはもう使い切ってしまっているようだが、どうやらサシャが代わりに立て替えているらしい。


「タクミ殿っ、カル姉の封印が解けたというのは、本当なのですかっ」


 俺がカルナの事を言う前からクロエはそのことを知っていた。


「ああ、今はまた寝てるけど、一時的に復活した。どうしてそのことを?」

「じいちゃんに聞きました。カル姉の封印が解けかかっている、と」

「会えなくて残念だったな。くーちゃんによろしゅうって言ってたぞ」

「……そうですか」


 カルナの封印は、古代龍に察知されているのか。

 警戒しているのか、それとも、心配しているのか。


「きっかけはクロエを守りたい気持ちだったらしい。封印解除の方法は力ではなく、愛だと言っていた」

「あ、愛ですか……」


 クロエが赤くなりながら、腰にあるカルナをじっ、と見る。

 黒いカルナがほんのりと赤くなったような気がした。


「愛で封印が解ける。いいわね。私も昔、そういうのに憧れてたわ」


 サシャが朝食を運びながら話に入ってくる。

 冒険者時代、たまに作ってくれていた朝粥だ。

 今日は食事当番を代わってほしいと言われたのでお任せしてみた。


「冒険者を引退して王宮に戻った後、ずっと待ってたわ。ステキな殿方が私を奪いにやって来るのを」


 何故か俺のほうをキラキラした目で見ながら話すサシャ。

 得体の知れない強い重圧(プレッシャー)を感じて、目線を逸らして朝粥をすする。

 うん、懐かしいが少し塩加減がたりない。あと一振り欲しいところだ。


「ええなぁ、そういうの、うちも憧れるわっ。並み居るドラゴン一族を薙ぎ倒しながら、うちを奪いに来て欲しいわ」


 興奮してドラゴン弁になるクロエ。

 いや、そんな奴、絶対いないから。

 サシャだけではなく、クロエまでキラキラした目で俺を見つめてくる。

 重圧(プレッシャー)が倍になって押し潰されそうになる。もうすべての神経を朝粥に集中することにして、一心不乱に食べ続ける。そこへ……


「やめて下さい、二人とも。そんな陳腐な妄想をタクミさんに語らないで下さい」


 さらにレイアが参戦してくる。


「ステキな殿方は王宮にも、ドラゴンの巣にもいきません。本当の幸せはすぐ近くにあることに気がついて、どこにも行かず、最愛の弟子と共に永遠に暮らすのです」

「なんやて、そんなん全然ドラマチックちゃうやんっ」

「同感だわ。やはり、王道は禁じられた恋。愛し合いながらも、国に引き裂かれようとする二人、それでも運命はっ、みたいなのがステキなのよっ」


 愛について三人がそれぞれの理想を語り出し、大議論大会が始まってしまう。ヤバイ。これに巻き込まれたら、えらいことになりそうだ。

 朝粥を持ちながらこっそりとその場から逃げ出して、洞窟の外に出る。


『……相変わらず、モテモテやなタッくん』


 力を温存する為、一日数回しか話してこないカルナが呟いてくる。


『ちなみにうちはな、悪者に捕まって、それを助けに来てくれた時に、初めて愛に気づくみたいなシチュエーションが好きやねん。タッくんはどんなんがええの?』


 そういうのは苦手なんだけどなぁ。

 そう思いながらも、カルナと話せる回数は少ないので一応答えてみる。


「お互い好意を抱いているけど、それに気付かず生涯を終える、みたいなのがいいかなあ」

『は? なんやそれっ? 始まらへんやんっ! 愛終わってしまうやんっ! びっくりしたわっ!』


 少し前までは自分一人が生きていくだけで精一杯だったし、誰かを愛したりなど考える余裕すらなかったしな。


『まあ、けどタッくんらしいな。でも死ぬ前に気付いてしまったらどうするん?』

「い、いや、そうなった時にしかわからないけど……」


 今もそれどころでない事態に巻き込まれているし、こんな時に誰かを好きになってしまったら……


「きっと、気付かない振りをするんだろうな」

『なんでやねんっ! それはあかんやろっ!』


 あまり話せなくなると宣言したカルナがめっちゃくちゃ話してくる。大丈夫なのか?


『ま、まあ、うちにはバレてしまうからな。そうなった時は相談にのったるからな』

「はいはい、ありがとうな」


 そこでようやく話が終わり、カルナが眠りについたと思っていた。


『……タッくん』

「あれ? 寝たんじゃなかったのか?」

『気いつけたほうがええで。見られてるわ』


 慌てて辺りを見渡してしまいそうになるが、それをカルナが止める。


『動かんほうがええ。姿は見えへんし、どこにおるかわからへん。見事に気配を消しとる。たぶん偵察だけや、気付かんふりしとき』

「ああ、わかった」

『大丈夫、なんかあった時はまたうちが……』


 そう言ってカルナが眠りにつく。

 どうやらデウス博士に続く刺客はすでに近くまでやって来ているようだ。

 カルナに言われたとおり、何もないように朝粥をすすった時だった。


「さすがタクミさん、気がつきましたか」

「ああ」


 洞窟からレイア達が出てくる。

 やはり、レイアも気配に気がついているのか。


「幸せはすぐ近くにあるということに」

「違うよっ! 気がついたのはそれじゃないよっ!」


 どうやら、まだ愛の大議論大会は続いているようだった。



「かなり離れた位置から偵察しているのでしょう。私でも気配が(つか)めません」


 再び洞窟の中に入り、見えない敵について話し合う。

 レイアでも掴めない気配なら、かなり熟練された偵察者が潜入しているのだろう。


「本来ならタクミポイントを使うしかここに来ることはできない。それをせずに近づいたということは恐らく、昨晩デウス博士が侵入した時に紛れて、入ってきたのね」

「デウス博士と繋がっているのか?」

「恐らく別行動ね。デウス博士と話したけれど、彼に裏表はないわ」


 冒険者時代からサシャの人を見る目は確かだった。

 そのサシャが言うのなら間違いないだろう。


「敵の正体がわからない以上、むやみに動かないほうがいいわ。このまま、作戦通り、私達が結婚していると思わせるしかないわね」

「しかし、偵察者を発見出来ないとなると、いつまで結婚の振りをしていいのか、わからなくなるぞ」

「そうね、タクミ、いっそ本当に結婚する?」

「なっ!?」

「何を言うのですかっ! そんなことっ!」


 俺のセリフに被せるようにレイアが叫ぶ。


「しっ、冗談よ、レイア。声をおさえて」

「む、ぐぅ。本当に冗談なんでしょうね、サシャ殿」


 いや、レイアが腹を切りそうになるような冗談はやめてほしい。


「大丈夫よ。こんな時の為に対策は考えていたわ。どれだけ気配を消そうが必ず見つける事ができる索敵のスペシャリストを連れてくるわ」

「索敵のスペシャリスト? ルシア王国にそんな人物が?」

「いいえ、ルシア王国には裏切り者がいるかもしれない。ルシア王国とは無関係で、絶対の信頼を持てる人物よ」


 ルシア王国と関係ない、索敵のスペシャリスト。

 そして、サシャが絶対の信頼を寄せている者。

 そんな者は、一人しか思い浮かばない。


「まさか、サシャ……」

「ええ、彼に来てもらうわ」


 冒険者時代の四人の仲間、その最後の一人。

 大盗賊バッツがついに動き出した。


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