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四十五話 封印を解く鍵


「なんだ、これはっ! 米を三角にしたものに味付けして、焼いているのかっ。カリカリとして香ばしく、美味いではないかっ」


 デウス博士がおにぎりを頬張りながら、感嘆の声をあげている。

 結局、夜も遅かったこともあり、デウス博士とマキナを一晩泊めることになってしまった。

 翌朝になり、洞窟前の円卓でみんな揃って朝ごはんを食べる。

 今日のメニューは焼おにぎりと、鶏出汁スープだ。


「あと、お椀に入れて、この出汁をかけると、違った味が楽しめるぞ」

「おおぉっ! 素晴らしい! なんというアイデアだっ! こんな料理初めてだぞっ!」


 昨晩、人を実験動物みたいな目で見ていた人物と同一人物とは思えない。

 子供のようにはしゃいでいる。

 そして、デウス博士とは対照的にマキナのほうは、少し離れたところから、遠巻きにこちらを眺めていた。


「マキナも良かったら、こっちに来て一緒に……」

「ヒィッ」


 ちょっと近づいただけで、怯え震えるマキナ。

 ここまで勘違いさせるほどのことをした覚えが全くない。


「ちょっと、タッくん、マキナ怯えてるやんか。うちが持っていってあげるわ」


 カルナが俺の持っている焼おにぎりを奪って、マキナのところに持っていく。


「大丈夫やで。なんもせんかったら怖ないからな。うちに任せとき」

「ア、アリガトウ」


 全力で戦ったからだろうか。

 カルナとマキナに友情が芽生えたようだ。

 動けなくなったマキナを円卓まで運んできたのもカルナだった。

「よし、ほなうちはタッくんにあーーん、で食べさせてもらおか」

「いや、なんでそうなるんだ?」

「昨日うちめっちゃ頑張ったと思うねん。あそこでうちが現れへんかったら、タッくん、困ってたやろ?」

「うっ、確かにその通りだが……」

「だから、うちにはあーーん、の権利があると思うねんっ! はい、あーー、どぼぁっ!」


 カルナの口の中に高速で焼おにぎりが放り込まれる。


「まだ、食べますか? 邪悪トカゲ」


 レイアが焼おにぎり片手に威嚇している。


「もぐもぐ、やってくれるやないかっ、もぐもぐもぐ、レイアっ、もちろん、おかわりするわっ」

「こら、食べ物で遊ぶな、レイアっ」

「す、すみません、タクミさんっ。しかし、タクミさんのあーーんを求めるなど、あまりにも贅沢でっ」

「いいからみんなちゃんと座って食べろっ。大人しく食べないとおかわりなしだぞっ」


 その言葉でようやくみんな落ち着いて円卓に座る。


「ふふっ」


 そんな中、サシャだけは一人落ち着いてみんなの様子を眺めていた。


「賑やかな食事ですね。サシャ王女」


 そんなサシャにデウス博士が話しかける。


「ええ、楽しいでしょう。王宮の堅苦しい食事とは大違い」

「ぼくも食事は単なる運動エネルギーの摂取だと思っていた。楽しむものだなんて、考えてもみなかったよ」

「ここでの生活は何物にも代え難い。だからね、もし、この場を壊すような者が現れたら私は全力で叩き潰すつもりです」

「なるほど、肝に命じておきましょう。二度とタクミ君に余計なことはしないと誓います」


 朝食が終わり、サシャとレイアに片付けを任せて、俺とカルナで、デウス博士とマキナを見送る。


「じゃあな、デウス博士。もう、俺を調べるなんてやめてくれよ」

「残念ですが、諦めましょう。どのみち、今のぼくの力では君を計り知れない」


 いや、すでにあの戦いで俺のすべてを出し尽くしたんだけどね。


「まあ、飯くらいならいつでも食べにきていいよ」

「ほ、本当かっ! いいのかっ! ありがとう、タクミ君っ!」


 まあ唯一、本当の俺と互角の戦いができる貴重な男だからな。大切にしておこう。


「マキナもいつでもリベンジしに来てええで」

「……次ハ本当ノ自分デ挑マセテ貰ウ」


 マキナとカルナにも、同じように友情が芽生えたようで、再戦の約束をしていた。

 結局、マキナがどうしてそこまで俺に怯えていたのかは、最後までわからなかったが、まあ良しとしよう。

 何度か会えば、俺が人畜無害ということに気づいてくれるはずだ。


 二人の姿が見えなくなった後、俺とカルナは畑に向かう。

 毎朝、ミアキスが畑の手入れをしてくれているので、お礼に朝食を届けるのが日課になっていた。


「タッくん、ちょっ、タッくん」


 畑に向かう途中にカルナが、そでを引っ張ってきた。

 何故か小声でモジモジしている。


「トイレか? 待っててやるから、そこの茂みで」

「ちゃうわっ、アホっ! ちょっと話あるねん、ふ、二人きりで」


 ふむ、どうやらサシャとレイアに聞かれたくない話らしい。

 先を行く二人から距離を置いて、木の陰に隠れる。


「どうした? なんの話だ?」


 魔剣の時は内緒話もみんなの前でできたのだが、少し不便になってしまったな。


「いや、あのな。うち、この姿でいられるの後少しやねん」

「ええっ!?」


 完全に封印が解けたのではなかったのか。

 お尻に付いた魔剣を思わず見てしまう。


「せやねん、これな、かなり無理して出てきてるねん。大武会の時な、クーちゃんと入れ替わったやろ。そん時にな、魔剣に小さい穴があいてん。ほんまに見えへんくらい小さい穴やねんけどな」

「全く気が付かなかった。そこから魂が入れ替わったのか」

「ほんまは魂みたいな質量のないもんしか出入りできひん穴やと思う。それを無理矢理、身体を変形させて、ひねり出してる感じやねん」


 聞いただけで大変そうだ。

 ドラゴン形態になったり、人間形態になったり質量を変えることのできるカルナだが、そこまで小さい穴から出るのはかなりの無理をしているのだろう。


「少しでも力抜いたらまた戻ってしまうねん。だから、大武会から後、ずっと動かんと眠りながら力蓄えててん」

「それで反応がなかったのか」

「せやねん、さみしかったやろ、タッくん」


 そう言ったカルナのほうが少し寂しそうだった。


「いつか、もっと力を蓄えたら封印は解けるのか?」

「……うちも最初はそう考えてた。でもちゃうみたいやねん。クーちゃんと入れ替わった時、穴があいたんは力やなかった。助けてやりたいっていう思いが小さな穴をあけたんやと思う。封印を解くのはきっと……」


 それって、もしかして、ちょっと口に出すのは恥ずかしい例のアレなんだろうか。


「愛の力やと思うねんっ!!」


 はい、言っちゃいました。

 ドヤったわりには、顔が赤い。

 目線も逸らした。

 やっぱり恥ずかしいのだろう。


「た、たぶんな、姉妹愛で小さい穴なら、ちゃんとした恋人同士の愛やとでっかい穴あくと思うねん」

「おお、つまり、それはっ!?」

「素敵な王子様と相思相愛になって、チュウとかされたら、きっと封印もとけるはずやねんっ!!」


 そう言ったカルナが目を閉じて、唇をタコのように突き出した。

 そうなった時のシュミレーションだろうか。


「いつか、そんな相手が現れるといいな、カルナ」


 さっきまで赤くなったり、タコになったり、コロコロと表情を変えていたカルナがすっ、と能面のような無表情になった。


「あれ? どうしたカルナ、おいっ、大丈夫か?」

「……大丈夫とちゃうわっ! タッくんの、あほっ!」


 そう叫んだカルナから、ぶわっ、と黒い煙が溢れ出る。


「カルナっ!?」

「はぁ、完全復活だいぶ先になりそうやわ。タッくん、クーちゃんによろしゅう言うといて」


 自身から出た黒い煙に包まれながら、お尻の魔剣にカルナが吸い込まれていく。


「助けてくれてありがとうな、カルナっ!」


 最後にそう言うと、カルナはため息混じりに笑って言った。

「しゃーないな。まあ、気長に頑張るわ。覚悟しときや、タッくん」


 完全に吸い込まれ、カルナはその姿を魔剣に変える。


「何を覚悟したらいいんだ?」


 魔剣を握りしめ、話しかけても、もうカルナから反応はなかった。

 また、しばらく力を蓄えるために眠ったのだろうか。


『さみしかったやろ、タッくん』


 カルナの質問に答えなかったことを思い出す。


「ああ、ちょっとさみしかったよ」


 もう聞かれていないと思ってそう呟く。

 すると、頭の中に久しぶりに声が聞こえてきた。


『ほんなら、たまに話しかけたるな』


 ちょっと嬉しそうなその声に、俺も思わず微笑んだ。


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