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四十一話 強襲の来訪者


「これは何ですかっ。鶏肉の中にお米が入ってますっ」


 夕食に出した料理にレイアが衝撃を受けている。

 鶏肉のお腹の中に、お米と少量の野菜を詰め込み、ローストするこの料理は、俺の得意料理の一つだった。

 サシャがやって来た記念に気合を入れて作ったのだが、どうやら上手くできたようだ。


「ふふっ、懐かしいわ。冒険者時代、大きなクエストを達成した時に、いつも作ってくれたわね」


 サシャも嬉しそうに食べてくれている。


「……私が来た時は、作ってくれませんでしたね」


 さっきまで明るい表情だったレイアがどんよりと落ち込んでいる。


「ち、違うぞ、レイア。あの時は収穫前で米が無かったんだ」

「そ、そうですかっ。そうですよねっ。タクミさんは私の時も大歓迎でしたものっ」


 いや、むしろ大迷惑だったけどね。

 しかし、そんなことを言ってしまったら、また腹を切るとか言いそうなので黙っておく。

 そんな俺とレイアのやりとりをサシャはにこやかに眺めていた。

 冒険者時代は王女と知らずに一緒にいたが、王女と知ってしまうとなんだか緊張してしまう。

 フリとはいえ、こんな汚い洞窟で新婚生活を送っていて良いのだろうか。


 夕食の片付けが終わるとレイアが洞窟の床に刀のさやで必死に線を引いていた。

 昨晩から寝るときは、洞窟の入り口からレイア、俺、サシャの順に三つのエリアに分かれていた。


「あれ? ここがわたくしの位置ですか? 昨日よりもタクミから離れているような気がするのですが」


 ちょっと目を離した隙に二人の間に不穏な空気が流れている。


「昨晩、寝ているタクミさんの顔にギリギリまで近づいて見ていたでしょう。あの距離感は許せません」


「何を言うのやら。あなたこそ、至近距離で見ていたではありませんか。もっともタクミはわたくしのほうを向いて寝てくれていましたけどね」


「ふ、ふんっ、タクミさんは好意を持つ者に後頭部を見せる癖があるのだっ」


 そうそう、俺は好きなに後頭部を向けて寝る性癖が……

 って、そんな特殊な性癖はないっ!

 しかし、寝ている顔を覗くとか二人ともやめてほしい。

 そんなことを知ったら、これからゆっくり眠れないじゃないか。せめて、寝るときくらいは安らぎを与えておくれ。


「じゃあ、あなたもここから入らないでくださいね。これで同じ条件です」


 サシャがぐりぐりと足で線を引いている。

 王女がそんなはしたないことしちゃいけません。

 レイアに挑発されて、サシャは口調まで変わっている。

 洗濯を教えていた時の和やかな雰囲気はどこにいってしまったんだ。


「馬鹿なっ。そちらのほうが二センチも近いではないかっ」

「ふざけないでください。まだそちらのほうが近いくらいですよ? 文句がおありなら、交代しましょうか?」

「駄目だっ。私には侵入者からタクミさんをお守りする義務があるっ」


 とりあえず、収まりそうにないので俺が線を引きなおす。


「ああっ! さらに離れてるじゃないっ、タクミっ!」

「ひどいですっ、タクミさんっ!」

「喧嘩した罰だ。今日はこれで寝るぞ」


 二人からのブーイングを無視して布団を敷く。

 少しでも離れていないとこちらが落ち着かない。

 今夜は右も左も向かずに上を向いて寝ようと心に誓った。


 深夜、目が冴えて眠れず、洞窟の天井を眺めていた。

 昨日遅くまで起きていたのだろう。

 レイアとサシャは二人とも静かな寝息を立てている。

 起こさないように、そっと洞窟の外に出る。


 雪は止んでいたが昼間よりもかなり寒い。

 持ってきた分厚い毛皮を慌てて身に纏う。

 真っ白な息をはきながら、洞窟前の大きな岩の前まで歩いていく。

 そこに腰掛け、夜空を見上げると今にも落ちてきそうな星々が一面に広がっていた。


 一人でいた時は眠れない夜、よくここでこうしていた。

 タクミポイントができるまでは、レイアだけではなく、チハルや魔剣カルナもいたし、クロエも頻繁に来ていた。

 さらに大武会前はミアキスやザッハ、リックやゴブリン王に勇者エンドまで滞在して大世帯だった。

 ここで一人、夜空を見上げたのは、もう随分と昔のような気がする。


 そんなことを思いながら、物思いにふける。

 タクミポイント。黒幕。行方不明のリック。

 一体、誰が何を企んでいるんだろうか。

 サシャは、俺とアリスを利用して、誰かが何かを企んでいると言っていたが、果たして本当にそうだろうか。

 タクミポイントのことを色々と調べてみたが、そのシステムは非常に複雑で、大掛かりだ。

 魔法で細かく管理されているとサシャは言っていたが、多分魔法だけではない。

 魔法で上手く隠されているが、あらゆる所に監視する機器が仕掛けられている。

 おそらく科学が発達した南方サウスシティのものだろう。


 さらに大武会で使われていた四神柱ししんちゅうやレイアの神降ろしに似た気配を機器から感じる。

 レイアの故郷、東方イーストパークも協力しているのだろうか。


 魔法と科学、さらに神を宿らせることで、タクミポイントのシステムが作られているとすれば、とても一人の者が作ったとは思えない。

 多くの者達、いや、多くの国が協力して作り上げたと考えるべきだ。

 そして、このタクミポイント、一ヶ月の間、触れてみて感じたことがある。

 大武会が終わった後、大会で有名になった俺の所に興味本意で民衆が大挙して押し寄せたが、見えない壁に阻まれるように洞窟に近づくことはできなかった。

 もし、タクミポイントがなければ、毎日、多くの人達がひやかしに来ていたかもしれない。

 そうなれば、きっと俺はここから逃げ出して、また新しい場所を探すはめになっていただろう。

 俺はタクミポイントに守られていることをはっきりと実感していた。

 そんなことを考えている時だった。


「こんばんは、タクミ君」


 そいつは突然、目の前に現れた。

 白衣を着た眼鏡の男。

 背は低く、ガリガリで痩せこけているが、頭だけは大きくバランスが悪い。

 まるで子供の身体に大人の頭を取り付けたような不気味な印象を受ける。


 いつからここにいたのか?

 いやどうやってここに来たのか?

 タクミポイントを使って、洞窟の近くに来ることができるのは夜九時までのはずだ。

 普通なら、誰も近づくことができない。

 男はゆっくりとその大きな頭を下げて、俺に挨拶する。


「はじめまして、タクミ君。ぼくの名前はデウス。デウス博士だ」


 これまで出会った強敵達とは、まったく違った。

 戦闘をすれば、俺でもギリギリ勝ててしまうくらい弱そうに見える。

 だが、デウス博士は、どんな強敵より、恐ろしいものをもっていた。


 目だ。実験動物を見るように俺を見る目が、あまりにも無機質で、感情を全く感じない。

 その不気味な目に背筋が凍った。


「ちょっと君の力を知りたくて、裏パスワードを使ってやって来たんだ。マキナの奴が情報をほとんどもってこなかったのは計算外だったからね」


 俺の力を知るために?

 裏パスワード?

 マキナとの接触はほとんどなかったはずだが、彼女は俺のことを調べていたのか?


「だからぼくが直接、君を調べにきたんだ。マキナと一緒にね」

 いつのまにか、デウス博士の後に、マキナが立っていた。

 しかし、そのマキナは十豪会や大武会で会ったマキナではなかった。

 左半分の人間の顔が、生気がなく、目が虚ろだった。

 まるで、残った人間の部分まで機械になったような、そんな印象を受けてしまう。

 まさか、デウス博士に何かされたのか?


「では、マキナ、これより実験開始だ」

「ハイ、ワカリマシタ」


 デウス博士が気持ち悪い笑みを浮かべ、マキナが俺に機械の右手を向けた。


「殺戮モード開始。コレヨリ戦闘ヲ開始シマス」


 パカっ、と右手首が上にひっくり返り、腕の内部から機関銃が顔を出す。

 タタタタタタタタ、と乾いた音と共に、マキナは俺に向けて銃弾をぶっ放した。


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