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閑話 マキナとタクミ

 

 大武会の勝敗はどうでもいい。

 戦闘データを取って来い。


 ソレがジブンの使命だった。

 機械の身体を維持するにはとにかく金がかかる。

 だから金回りのいい仕事はなるべく受けることにしている。

 ソレがどんなに汚れた仕事でもだ。


 魔族であるアザートスとの試合。

 まだ十分に戦う力は残っていた。

 しかし、これ以上は身体に負担がかかり過ぎた。

 右目に搭載されたカメラを壊され、依頼をこなせなくなっては元も子も無い。


 十豪会(じゅうごうかい)、そしてこの大武会で収集する最重要データは二つ。


 タクミとアリス。


 その他の戦闘データに比べて謎に包まれたこの二人のデータは、破格の値段がついていた。


「ミアキスっ、突撃しますにゃああああっ!」


 猫型の魔族、獣人王ミアキスがアリスに向かって突撃する。

 ザッハ、ダガンとの戦闘でミアキスのデータ収集は大体把握している。

 力、スピードはトップクラスのS。

 体力A 魔法B 特殊能力SS。

 総合評価S。

 注目すべきはその動体視力だ。

 ダガン戦で弾丸を口に咥えたことから、高速で向かってくる弾丸ですら止まって見えたのだろう。


 凄まじいスピードでアリスに突進するミアキス。

 獲物を狙う猫のように、ミアキスの瞳孔がきゅっ、と縦に細長くなった。

 アリスがどんな攻撃をして来ても、避ける自信があるように思えた。だが……


 どんっ、と地響きのような重低音がした。


 同時にミアキスが突進した時の何倍ものスピードで吹っ飛んで行く。

 舞台に立っているタクミの横を通過して、控え室に激突し、爆発したように弾け飛んだ。

 そのままミアキスはぴくりとも動かない。


 これほどまでかっ!?


 戦慄が背中を突き抜ける。

 かつて、これまでの恐怖は感じたことがなかった。

 アリスはただ飛んできたハエを払うような動作で、軽くミアキスを叩いたように見えた。

 その動作がミアキスのすべてを超えていた。

 実力の一部も見せていないだろう。

 底が見えないだけではない。


 それは誤動作といっていい程の小さな変化だった。

 相手の強さを測る計器がミアキスを攻撃する間に変化していた。


「バカ、ナ……」


 思わず声に出してしまう。

 信じられないことだが、アリスはこの瞬間にも強くなっているのだ。


 そして、もう一つ。

 舞台の上にいる魔王リンデン、残り二人の四天王(ドグマは含めない)である闇王アザートスと吸血王カミラ、その三人の体温、発汗、心拍数の急激な変化を探知した。

 圧倒的なアリスの強さに、三人とも激しく感情が乱れている。

 半分機械のジブンさえ動揺し、様々な器官が異常な数値を示していた。


 だが、その中で一人だけ、まったく平常心のまま、舞台に立っている男がいた。


 宇宙最強タクミ。


 体温、発汗、心拍数、が一ミリも変わらない。

 十豪会(じゅうごうかい)、そしてバルバロイ会長戦でもそうだった。

 まるで、自身におこっている出来事ではなく、演劇を遠く外から眺めているような、そんな感覚でいるようだ。


 たとえ、自分がどんなに最強と自負していても、アリス程の力を()の当たりにすれば、なんらかの反応を示すものだ。

 だが、タクミにはまったくそれがない。

 まるで、そんなことには興味がないように、アリスのほうをただ見つめている。


 ばちん、と右のコメカミから何かが弾けた。

 相手の強さを測る計器の一つがエラーを起こす。


 アリス以上の脅威をタクミから感じた。

 ジブンにとって、目に見える強さはやがて科学の力で超えられるものだと信じてきた。

 だが、タクミを見ていると、たとえ何億年後の未来でも倒すことなど出来ないような、そんな得体の知れない不気味な強さを感じてしまう。



「アザートスっ。闇夜をっ!」

「承知した」


 残った四天王(ドグマは含めない)のカミラがアザートスに向かって叫ぶ。

 同時にアザートスを覆っていた闇が拡散し、宙空に広がっていく。

 カミラの力が爆発的に跳ね上がった。

 牙が伸び、髪は逆立ち、瞳が紅く光る。

 吸血鬼の真祖であるカミラは、昼間は夜の半分くらいの力しか出せないと聞いていた。

 しかし、半分どころではなかった。

 今のカミラの戦闘力はクロエ戦でのデータ数値を遥かに上回る。


「久しぶりに(たか)ぶるわ。リベンジって萌えるわね」

「そうだ。自分を破壊する一歩手前の負荷が、自分を強くしてくれる」


 タクミを間に挟み、アリスとカミラ、アザートスが対峙する。

 それでもタクミは微動だにしない。


 タクミの左右からカミラとアザートスが同時にアリスに向かって飛び出した。


 どんっ、どんっ、と今度は二つの重低音が重なって響いた。


 タクミの左右からアリスに向かったカミラとアザートスは、まったく同じようにタクミの左右を凄まじいスピードで吹っ飛んでいく。

 これほどまでの高速で自分の横を二人が通過してもタクミは眉一つ動かさない。

 もはや立ったまま眠っているのではないか、そう思ってしまうほどだ。


 二人はミアキスが倒れている控え室にまとめて激突し、四天王(ドグマは含めない)はわずか数秒で全滅した。


 これまでの強さの定義を覆すほどのアリスの力に震撼する。

 魔王でさえ、大賢者でさえ、ここまでその鼓動が聞こえてくるほどに、心臓が激しく脈打っているというのに、何事もなかったようにタクミがアリスに近づいていく。


「久しぶり、アリス。大きくなったな」


 ばくんっ、という激しい音はタクミの心音でなく、アリスから聞こえてきたものだった。

 表面上は何も変わらないアリスだが、タクミの一言だけで、その中では激しく動揺し、取り乱している。


 これほどの力を持つアリスでさえ、タクミにはまるで敵わないと思っているのか!?


 不可能だ。

 ジブンにはタクミの力を測ることは出来ない。

 その強さのほんの片鱗を覗くことすら、許されない。


 破格の報酬だったが諦めざるを得ない。

 これ以上の詮索は命に関わるかもしれない。


 そう思った時だった。

 これまでアリスのほうをずっと見ていたタクミが突然ジブンのほうに振り向いた。


 驚きのあまり、一瞬、すべての機能が停止する。

 ジブンを見るタクミの視線は、まるであらゆるすべてを見透かしているように思えてしまう。


『よくわかったな、その通りだ』


 十豪会(じゅうごうかい)で、バルバロイ会長戦で、聞いたあの言葉が聞こえたような気がした。


「ヒッ」

 

 思わず声をあげ、逃げようとする。

 身体が思うように動かず尻餅をついた。

 必死に地面を這いずり、少しでもタクミから離れようと足掻く。


 まだ死ぬわけにはいかない。

 いつか、この残った左半身の醜い人間部分を切除し、醜い感情や醜い思い出を全て消し去らねばならない。

 完全なる機械の身体となることが、ジブンに残された最後の望みなのだ。


 タクミのファイル全てに『未知(アンノウン)』と書き込んで、すべての任務を放棄した。

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